第一章 友達は大事にしよう! ~traitorous friend~ -6-
南部街から夜空に伸びる光の柱。
それはあたかも白い炎のようにユラユラと揺れている。
「うふふ…あははは!燃えろ燃えろー!って感じですね」
愉快そうに早苗は笑う。
「一度やってみたかったんですよね。悪の支配者ごっこ。どうです、似合ってますか?」
「早苗様!!」
魔王の様な大げさなポーズを披露する早苗のもとへ拘束を無理やり振り払い駆け寄り跪く燐。
その瞳には焦燥を秘めた涙を溜めている。
「何ですかぁ、突然?」
「空の衝動が再発した時、早苗様はおっしゃいましたよね? 『空の望みのままにしてやれば苦しみから解放される』と。この結果が助かったと言えるのですか?」
早苗は頭を掻きながら、燐に対してまるでごみを見るような視線を投げかける。
「全ては私の望んだ結果になったのです。あなたではなくね。それに嘘は言ってませんよ。あの妖怪は苦しみから解放されたじゃないですか」
「これが…これがあいつが救われた結果だと言うのか!」
燐は早苗に飛び掛る。
ありったけの憤怒を込めて。
しかしその爪は早苗には届かず、気がつくと燐は早苗とは逆方向にあるパラペットに叩きつけられていた。
「まったく…自分のことを棚に上げてはいけません。知っていますよ? あなた自身、人間狩りを楽しんでいたこと」
図星である。
燐は人を殺すのを楽しんでいた。
それは妖怪化の副作用である価値観の変化。
しかし、それは人の中で暮らす上では最悪で、指摘されれば言い逃れは出来ない弱みだ。
返す言葉も無くなった燐は閉口する。
この現状がたとえ眼前に居る巫女の手のひらで踊らされていた結果であったとしても、自分の意思と本能が招いた結果であることには変わりは無い。
つまり、自分の唯一無二である親友をここまでにしてしまった原因は他でもない燐自身。
人間の群れで生きるため、自分を押し殺してまで耐えていた霊烏路空の健気な信念を決壊させてしまったのは他でもない燐自身である。
「あなた、今私に仇なしましたよね?」
早苗は片手をゆっくりとかざす。
一度黒く凝縮されたオーラがその手のひらに集まったように見えたが、すぐに収まるように消えた。
「まあ、いいですよ。許しましょう。その方が観察しがいがありますしね。それでは私はこの辺で」
早苗は咲夜と藍の二人に視線をやり、にやりと笑う。
「Welcome to dystopia!」
そしてその体は霧散するように消失する。
「咲夜、あれを」
静寂を破ったのは藍。
言われるがままに向こう側を見ると、光の柱は一度最大まで肥大化し人間一人分の大きさまで凝縮する。
遠目からも見える発光する人影は浮遊を続けている。
「お姉さん」
横たわりながら呟いた燐。
「あいつ、お空を止めてくれないだろうか?」
ダメージが大きいのか、燐は未だ無表情で天を仰いだままだ。
「むしのいい話ですね。私を殺そうとしたあなたが言えることじゃないですわ」
「その通り。それどころかあたいがお姉さん方にしてあげられることは何一つ無い。お願いをする姿勢すら取れていないのもわかってるよ。ただ、これすら言えないとあたい自身が納得いかないのさ」
燐自身、あたかも咲夜が救いの手を差し伸べることを全く期待していない様な口ぶりだ。
それは無理もないことではあるが、しかし彼女にとってそれをしないことはつまり暴走する親友を諦めることと同義である。
「却下です。そのような義理はありません」
「当然だね」
「ただし、運命とは皮肉なものですわ。もともと私たちはあの結界核に用がありましたもので」
「咲夜!?」
予期せぬ返答に目を見開く燐。
そして思いとどまらせるように叫ぶ藍。
「何を言っている!? 今の光の柱を見ただろう? 奴の力は強大だ。今接触するのはどう考えても得策ではない!」
「放っておいて事態が収束したとして、結界核が無事である保証も無いのでは?」
「それはそうだが…。しかし、君は自分の能力を過信しすぎているようだ。どう見ても君はあれには敵わない」
「いい機会ですし、言っておきますわ。私はあなたたちのために動いているわけではありません。ただ我が主人であるレミリアお嬢様の命によりここにいるのです」
「レミリアもお前が死ぬようなことを望むはずが無い」
「死にませんわ。お嬢様が私の帰還を望まれたのですから」
――――――――――
光を纏い大きな羽をはためかせながら飛行する霊烏路空。
胸部には大きな琥珀色の目玉の様な球体が埋め込まれ、右腕には六角形の長い筒の様なもの~~名称は制御棒~~を装着している。
それに対峙しているのは博麗霊夢だった。
先ほどまで空の暴走を防ぐために結界核のメンテナンスを続けていた霊夢であったが、それも徒労に終わった。
原因はメンテナンスに取り掛かった時点でかなりの時間が経過していたこと。
そしてもひとつは結界核の媒介である霊烏路空の器を底上げするために行った”神降ろし”により、媒介の魔力をはじめとする様々な能力が上方修正されていたことが原因だ。
”神降ろし”とは対象に神をはじめとする概念的存在を憑依させることによって、その能力や存在性を底上げする手段である。
結界核の媒介となるためには並の存在では勤まらないため、媒介となる際に”神降ろし”の儀式が施されるのが基本だ。
しかし、もちろん誰にでも施せるわけではなく、それには器と適合性が必要だ。
結界核の媒介になるための器と適合性とは、この”神降ろし”が可能かどうかということとほとんど同義であり、霊烏路空はその選別に残った者の一人であった。
もちろん”神降ろし”に成功した者は結界核としての有用性のみならず、その戦闘能力も莫大な上がり幅を見せる。
それは凡庸な者であったとしても、たちまち神の領域に到達する禁忌とも呼べる手段。
博麗霊夢はこの極めて厄介な事態をどうやって収拾するかに苛まれていた。
「ちょっと、聞こえてる? 無駄かとは思うけど、降りてきたほうがいいわよ。こんな勝手なことしたらただじゃおかなくなるわ」
霊夢は空に呼びかけてみるが応えは無い。
その虚ろな目から、すでに正気を失っていることは想像できる。
ため息をついた霊夢は眼前の妖怪にどう対処すればいいのか考える。
こうなった原因は施した神と空のバランスが崩れたのか、それとも結界核に損傷があったのか。
前者ならば空を制圧すればそれで終わりだ。多少手荒でも結界核を取り上げてしまえば、別の媒介となる対象を探せばよい。
問題は後者の場合、もし制圧の過程で結界核が完全に壊れてしまったならば、この辺り一帯の結界により保たれている安定が崩壊する。
多大な労力をかけてこの世界の崩壊を食い止めている身としては、それだけはなんとしても避けなければいけない。
「とりあえず取り押さえないことにははじまらないか…。おーい、これからあんたを捕まえるから覚悟しなさいよ!」
空中で静止したままの空に叫ぶと、霊夢はゆっくりと空に向かって歩く。
霊夢は何をする気配もなく歩くのみで、もちろん手など届かない高低差だ。
一歩二歩と近づいていく霊夢。
尚も静止したままの空。
しかし空の真下あたりまで来たとき、霊夢の姿が消えた。
次の瞬間、霊夢が出現したのは空の真上。
霊夢はそのまま空の背中、両翼を抱きかかえるように飛びつく。
しかしそれを受けて空は霊夢を振り落とそうと暴れ始めた。
「このっ!おとなしくしなさい!」
霊夢は空を封印するための符を手に取るが、空に振り払われ、後方に吹き飛ばされる。
霊夢が体勢を空中で立て直しつつ前方を確認したとき、空はすでに迎撃のために制御棒をこちらに向けてエネルギーを溜めている最中だった。
(まずい!)
空の右腕から放たれる光線。
霊夢は結界を張ってそれを防ぐ。
結界がミシミシと音を立てながら霊夢の体が押し上げられていく。
(さすが神の力ってわけね。1枚結界では破られる可能性もあるわけか)
ヒビが入りそうな勢いで振動する結界を見ながら霊夢は思う。
博麗霊夢の結界の質は唯一無二と言っていいほど高い。
上質の巫力で展開された結界はちょっとやそっとではビクともしない最高の盾となる。
しかし、その結界が破られそうな今でも霊夢の表情は揺るがない。
それはまだまだこんなものではないという自らの底知れない能力への自信。
結局ヒビ一つ入ることなく光線を耐え切った結界を解くと、霊夢はそのまま用意していた無数の札を空にめがけて投げつける。
それを確認して静止を解くように空は大きく旋回して振り切ろうとするが、札は空を追尾するように飛び、遂には捕らえる。
空を覆うように張り付いていく無数の札。
それは腕から始まり体、足、やがては羽を拘束していく。
羽を押さえられ落ちていく空。
その体がもう少しで地面に叩きつけられるというところまで来た時、空の体は発光し、放たれた膨大な魔力とともに付着していた札が吹き飛ぶ。
札は効力を無くしてヒラヒラと宙を舞い、空は地面スレスレを滑空するかのように浮き上がる。
地面に着地した霊夢は再び浮遊した空を見上げる。
(また振り出しに戻っちゃったじゃないの)
そう思った霊夢であるが、すぐにその考えは改められることとなる。
先ほどのやり取りで霊夢を敵であると見なしたのか、空が高速飛行を始めたのだ。
地面に居る霊夢とすれ違うように飛翔する空。
そして遅れてやってくる無数の光弾。
それはさながら空襲爆撃のようで、弾速は遅いが、不意を突かれたのと回避するスペースが見当たらないため身動きの取れなかった霊夢は結界を張って防御する。
霊夢は振り返って敵影を確認するが、すでにそこには空の姿は無い。
戦場は市街地だ。
立ち並ぶ建物の影に潜めば容易に姿を隠すことは出来る。
霊夢は辺りを見回しながら警戒する。
後方から光弾の発射音がした。
ゆっくりとこちらに向かってくる光弾を軽やかに回避した霊夢だが、その先には空の姿はやはり無い。
次の瞬間、再び後方から、今度は鋭い風切り音。
急いで振り返る霊夢だがもう遅い。
空の捨て身の体当たりが霊夢の華奢な腹へと炸裂する。
強制的に胃液を吐き出し、乱雑に回転しながら10数メートル転がる霊夢。
結界での防御を経ずにダメージが突き刺さったのはほとんど人間である霊夢の体。
四つんばいになった霊夢は口から遅れて出てきた嘔吐物を撒きながらも、激痛に立ち上がることが出来ない。
(何よこいつ。力量的にはあのバカどもと同レベルじゃないの)
その脳裏には自分たちについている者たちの中で最上級に位置する部下の姿。
眼前には見下ろすようにこちらへとエネルギーのたまっていく制御棒を向ける空の姿。
どうも止めを刺すつもりらしい。
霊夢は結界を張ろうとするものの、ダメージにより上手く展開することが出来ない。
(これはマジでやばいわ)
博麗霊夢の力はこの反幻想郷の中でも最強に数えられる内の一つ。
たとえ相手が神の力を得た妖怪だとしても、遅れを取ることなどありえない。
しかし、それは同条件の殺し合いであった場合。
今回、霊烏路空の中にある結界核を傷つけないように戦わなければいけないという劣悪な条件下だ。
ある意味殺さずに戦うというよりも難しい。
(くそっ…こんなところで足元を掬われるわけには)
空の制御棒に光がどんどん溜まっていく。
それは先程とは比べ物にならないほど強く大きくだ。
霊夢は再び結界を張りなおそうと思索する。
(こいつの魔力から考えると、1枚結界ではもたないかもしれない。でも二重結界を張る時間は…)
霊夢の結界は二種類に分類される。
1枚結界は言うなれば持ち運びの出来る盾。
結界自体の強度で防ぐその盾は壊れてしまえば突き破られる。
しかし結界を二重にすることでその性質は劇的に変化する。
さらに詳しく説明するならば、結界を二重に張り、その二枚をずらす。
するとそれによって接合部に次元の歪が生じ、結界の前後で互換性が無くなる。
つまり二重結界は盾などという生半可なものではなく、言うなれば次元レベルの”行き止まり”。
その結界は移動させることはできず、展開した部分に固定されてしまうが、干渉不可能な絶対的防御手段。
空の用意している一撃は、博麗霊夢に奥の手である二重結界の使用を決断させるほどの脅威を感じさせていた。
もはや考えている時間は無い。
霊夢は一枚結界の強度を信じて張りなおす。
次の瞬間。
一帯が光に包まれた。
しかし霊夢は首を傾げる。
こちらに空の光線が届いていないのだ。
辺りを包んだ光は光線によるものかと思われたが、それは違う。
実際は空の制御棒が爆発して生じた光だ。
制御棒の先にある口部分から放たれようとした光線が暴発したのか。
理由はわからないが、助かったと胸を撫で下ろす霊夢の横へゆっくりと並ぶ影が一つ。
「この妖怪を制圧すればよいのでしょうか?」
霊夢が視線をやると、そこには銀髪のメイド。
数刻前に酒を飲み交わし~~損ね~~た女性がいた。
――――――――――
南部街にあるビルの屋上。
いや、その建物には屋上は無い。
屋上のように見えるが入り口の無い、侵入する術の無いようなビルの天辺に彼女は居た。
白い長袖シャツにワンピース型でオーバーコートほど分厚い生地の黒い服。
腰には白いエプロン、頭には大きなリボンを巻いた黒いとんがり帽子。
その帽子からはシルクの布が垂れ下がり、さらにその下からは金髪のやや癖のあるロングヘアー。
左だけ前方にお下げが垂れた少女。
箒を掛けた左手は包帯で巻かれているものの、手首から先が無いのがわかる。
「おお~、すごいじゃないか」
少女は空の発したエネルギーによる発光を見ながら、他人事の様に感嘆の声をあげる。
「まさかここまで馬鹿でかいエネルギーを生み出せるとは思わなかったぜ」
その直後、少女の後ろからコツコツという安定した足音が聞こえ、やがてその音の主は少女に並ぶ。
「まったく、どうして皆高いところがすきなんでしょうか」
声の主は東風谷早苗。
しかし、先ほどの様な厭味なものではない含みの無い口調だ。
「高いところはいいぜ。なんたって遮るものが少ないからな。とても自由だ」
「自由ですか。自由…そんなにいいものですか? 自由って」
「いいぜ」
少女は空達の戦闘に目が釘付けだ。
「で、早苗は何しにきたんだ?」
「忠告ですよ。こんなところに居たら危ないと」
「なるほど、忠告されたぜ」
せっかく出向いて行った忠告を聞き入れたのか受け流したのかよくわからない返答をされて早苗は眉をしかめる。
すると少女は思い出したかのように早苗に問いかける。
「お前がここに来たってことは、もしかして私がここにいるってあいつにバレてるってことじゃないよな?」
「ご安心ください。姉さんはこういうのに鈍感ですから」
「ならいいんだが、姉さんねえ…。いつから血が繋がったんだ? 遺伝子操作でもやったのか? お前、あいつのこと好きだもんなぁ」
「義理のです! それに姉さんのことが好きなのはあなただってそうじゃないですか?」
「そう見えるか? 私とあいつはただの腐れ縁だぜ」
「それを聞いたら姉さんがどういうと思います?」
「あいつも同じこと言うんじゃないか?」
「確かに…」
まるで旧知の仲であるかのように二人の会話。
「本当にあなたと話していると調子が狂いますよ、魔理沙さん」
魔理沙と呼ばれた少女は尚も視線を戦闘中の霊夢たちに向けたままだ。
「魔理沙さんはどちらが勝つと思っているんですか?」
「ん? そんなの知るわけないだろ」
「でも、姉さんが負けそうになったら助けにはいるんでしょう?」
「冗談言うなよ! するわけないだろ」
「図星ですか」
「図星じゃないぜ。ただ、あいつに死んでしまっては困るな」
魔理沙は手首から上の無い左手を強調するように小さく振る。
「霊夢のやつには借りがあるからな」
「まあ、ほどほどにしてください。それでは」
踵を返す早苗。
「なんだ、帰るのか?」
「ええ、管理職も大変なんです」
「そうか、元気でな」
「ええ、あなたも」
二人はお互い視線を交わすことなく片手を振る。
それでも二人にとっては十分な挨拶であったのだろう。
―――――――――――――
南部街城壁の上。
鈴仙・優曇華院・イナバは再び戻ってきた橙と合流していた。
目標が火焔猫燐から霊烏路空へと変更されたのを聞いた鈴仙は、市街地を飛び回る光に時折目をやりながら持っていたライフルの換装に急いでいた。
「なにしてるの?」との橙の質問に、ライフルを狙撃銃に組み替えていると鈴仙は答える。
作業はすぐに完了した。
慣れた手つきでスコープ(マウントリング)と脚立を取り付ける。
そして脚立を広げて地面に固定すると寝そべるようにスコープを覗き込んだ。
「他の二人に当たらないように気をつけてね。あと、結界核には当てないように」
「結界核? どこの部分だろう。胸のやつ?」
二人は首を傾げるが、直後、藍から橙へと通信が入ったようで、橙はそれについての説明する。
「胸のやつはまた別のものみたい。結界核がどこにあるのかだけど、外からはわからないみたい。鈴仙の能力でそういうのわからない?」
鈴仙はレーダーで探りを入れてみるがやはり見当もつかない。
「どうしようか」
「一先ず待機にしようと思う。あくまで私たちが出来るのは二人の援護のみということね」
―――――――――――――
空と霊夢・咲夜の戦闘は戦況が大きく動いていた。
的が増え、さらに奇妙な動きをする二人に空は翻弄されていた。
なんとかその差を埋めようとエネルギーの絶対値に任せて乱射する空の光弾をかわし、防ぐ二人。
空は空中、二人は地面。
咲夜には当然ながら飛行能力など無く、霊夢は結界により一時的な飛行が可能であったが、相手は鳥の妖怪。
自由自在に滑空する空に対抗する手段は投擲のみ。
しかし、この状況でも霊夢の破魔札には追尾能力があり、それに気を取られたところを咲夜がナイフによる正確な投擲。
少しずつながら戦況は霊夢たちに傾いていた。
少なくとも二人はそう感じていた。
戦況を覆す共鳴音が鳴り始めるまでは。
突如、空は右腕の制御棒を天高く突き上げる。
すると制御棒の先に光弾が滞在し、周囲の気温を引き上げながらそれがみるみる内に大きくなっていく。
「あれは一体?」
問う咲夜。
「さあね。でもあれがこっちに来るまで決着をつけないといけないのはわかるわ」
そう言うと霊夢は破魔札を投げる。
しかし、空の周辺の温度が跳ね上がっていることを表しているかのように、札が音を立てて燃えて炭となる。
「こんなことになるとわかっていたなら装備も整えてきたのに…」
「なら私が行きますわ」
咲夜はナイフを構えるが、それと同時に空はさらに上空へと飛翔する。
もはや投擲では届かない距離だ。
「こんなんじゃ亜空穴も使えないし…仕方ない! あなた、私の後ろへ回って!」
「どうするんですか!?」
「この街を捨てる! 多分街は耐え切れないから! 今からあいつの攻撃を防ぐ結界を張るから!」
ゆっくりと、際限なく巨大化していく光弾。
空はそのサイズにやっと満足したかのように振りかぶる。
二人が来るべき衝撃に身構えたときだ。
光弾が溶け出すように掻き消え、力を失ったかのように空が地へと落ちていった。