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#7 宿泊券

 目の前にポツリと置かれた蒼い木材。

 わたしの腰より大分高い、大きなキューブ。


 その木材に軽く手を触れ、魔力を浸透させると、〈錬金術〉スキルの効果により、木材の構造と現在の状態がほんわかとした曖昧なイメージとなって頭の中に浮かび上がった。


 取得できるイメージの詳細度は浸透させた魔力の密度に応じて、より具体性を増す。そして把握した構造、状態などは魔力を介して自由自在に操作できる。


 分子や原子、魔力素と云った非常に細やかな要素をイメージすれば、それらの結合状態すらも思いのままに掌握できる。


 ただ、それを行うためには専門的な化学知識に加え、魔法世界特有の理に関する広く深く確かな知識、そして莫大な魔力あるいは瞬間的に多くの魔力を内から吐き出す技量が必要となる。


 それが≪AAO≫における錬金術であり、そのあまりに濃すぎる学術的要素、並びに錬金術師のデメリットである全般的に低いステータス、それがもたらす死に易さが錬金術師ジョブを不人気ランキング上位7番に押し上げる要因であると考察される。


 って感じの小難しい話をどっかのゲーム評価電子雑誌のジョブ別解説欄で見たのをふと何故か思い出したけど、それ半分ウソだから!


 いやだってさ、例えばだよ?


 豆腐切るときってさ、凄く綺麗に切りたいからって、一々分子の結合状態イメージしたりだとか、じっと目を凝らしてどの結合部分を分離すれば美しく断ち切れるだとか考える人なんてまず居ないよね。


 錬金術もぶっちゃけ大雑把な操作が可能だったりする。


 とかく分離に関しては分子レベルのイメージを取得しなくとも慣れと経験でスパッと切断できたりもする。それでも不慣れで不安って場合は形を変えたい・分離したい部分だけ魔力粗密度を向上させて目安線にすればいいだけだし。


 網目の長い極細の金網。それが無数に並ぶ光景を想像し、その部分だけ魔力を多く流すことで局所的に魔力粗密度を向上させる。


 すると金網が幾重にも連なるイメージが脳内に映し出された。


 それを拡大すれば分子の結合状態をじっくり観察できるけど、それをやっている間にも魔力素密度はどんどん下がっていく。

 だから時間を掛けて作業するなら、常に密度を維持するべく、同量のMPを注ぎ続ける必要がある。


 ぶっちゃけそんなことしてたらMP幾らあっても足りないし、そもそも人の目でパット見て、触ってみて、遠目で見て、物差し当ててもズレて無ければ今回の樽造りには事足りるんだよね。


 だから魔力素密度が極端に高い場所に存在する分子同士の結合を連続的に無差別に選んだわたしは豪快にそれらの分離を行うことにした。


 まぁ魔力を素早く且つ精密に操作する高等技術がないとそもそも成り立たない方法だから嫌気が差すぐらいには毎日練習したよ?


 大雑把と一口に言っても、長年その道を歩いてきた経験者の言う大雑把と初心者のそれとは全然違うからね。


 え、それ大雑把違くないって?

 細かいことは気にしたら負けだよ!

 ……たぶん。


 とりあえずゴリ押しして如何にもそれっぽく言ってみたけど、ちょっと無理があるきがしてきたから無理矢理話を終わらせることにするよ。まる!


 そして出来上がった板状の【魔霊樹】が数十枚。


 数えるのダルいしどうせ数える前にパワードでスーツな人々が黙々と回収するだろうし数える余裕なんてそもそも――――

 


 「って、あれ?」

 


 木材を分離し終えたと同時に阿吽の呼吸で回収されてきた木材。そうなるはずの木材が目の前に一片たりとも欠けること無くヒシヒシと身を寄せ合っていた。


 それどころか、周りを、室内全体を見回してもパワードスーツな人たちの姿はどこにも見当たらなかった。


 その代わりなのか、木材の一部を板状にしては、せっせと後ろへ背負って地面へ降ろしに身体を動かす錬金術師の姿が散見された。



 「えっと、異世界版セルフサービス?」



 思わず意味不明なことを宣うニナであった―――――



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 二周目が終わったよ。

 前の部屋の倍以上かかったと思う。

 たぶん3日ぐらい?

 その間、1回だけ寝る権利が得られたよ。

 ……権利って言うのも変な話だけどさ。


 いつまでも休憩の声が掛からないからさ、もしかして自由に休憩とっていいのかと思って宿泊フロアに向かったんだけど、誰にも咎められることは無かった。

 

 でもそもそも予約日数が疾うの昔に終わったことを思い出したわたしは宿を取り直すべく、受付広場に向かった。すると――――



 「現在、緊急依頼発生期間中ですので予約には宿泊券を提出していただく必要があります」


 「………え?」



 なんでも、ランダムで木材ブロックのどれかには宿泊券とかいう、有り体に言えば宿泊許可証が埋没しているらしい。おまけに1回限りの使い捨て。


 それが各部屋に数個~数十個ほど隠されているらしく、運良く見つけた人から休憩が取れるらしい。


 そして運悪く見つけられず、終わるまで延々と作業して疲労困憊状態な人たちへの救済処置として配られるのが前に貰った『エネルギーポーション無料配布券』みたいだよ?


 別に寝ること自体は自由だけど、廊下で寝るというか居座るのはギルドの禁則事項に抵触するから見つかり次第、叩き起こされる。


 あまりに様態が酷いようなら医療室に連れて行くのが普通だけど、今はとにかくギルドとして要求されたノルマを達成しないといけない状態。


 ギルド側としてはバタバタ倒れられては困るわけで、それを防ぐ必要がある。その苦肉の策として配布しているのが【エネルギーポーション】らしい。


 消費期限ギリギリの各種ポーションを濃縮して配合し、その日に飲むこと前提に配ることでコストを抑えているのだとか。


 ギルドの思惑を知ってて尚、錬金術師たちが黙々と作業を続けるのは、職人としてのプライドと意地。


 そして迷宮攻略には欠かせない梱包道具を造ることで、巡り巡って街を守ることに繋がることに誇りを抱いているからである。


 ―――――という、崇高な理由なんて微塵もなく、サボって後ろ指を差されるのが怖いだとか、ギルドに見放されたら生きていけない程にギルド構内生活に慣れてしまっただとか、碌でもない理由が大半を締めているのが実情である。


 とかいう、わたしに言われても反応に困るギルドの内情を延々と受付嬢に愚痴られた。わたしに一体どうしろと………?


 途中から只管相槌打つだけのマシーンと化したよ。


お読み下さりありがとうございます!


2018/04/22 -----------

 すみません。

 リアルのほうで忙しくなってきて本作についての考案や執筆する時間がほとんどない状況になってきました。

 このような状況で作品を書いたところで質の悪いものしか出来ないと考えました。

 そのため、大変恐縮ですが、しばらくの間、連載を停止させていただきたいと思います。

 いつになるかは不明ですが復帰する際は活動報告にてお知らせします。

 これまで読んでくださった方々には本当に申し訳ありません。

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