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#6 エネルギーポーション

 「終わったぁ~~~」



 体感時間でたぶん1日以上が経った頃、ようやく木材ブロックを全て切り出し終えたよ。


 もちろん、わたし一人の成果ではなく、ここにいるみんなのおかげだよ?


 だから近くに居る人達とハイタッチなどして互いに喜びを共有した。


 ともあれ凝った肩や首をグルグル回して解きほぐして、周りを何ともなし見回してみるとパワードスーツな人たちの姿が忽然と消えていた。


 どこに言ったんだろうね?

 ま、今は正直どうでもいいや。


 そういえばダージスさん曰く、少なくとも1週間以上は掛かるって話だったけど2日も掛からなかったんだけど……。いやさ、早く終わるに越したことはないけどさ、何か嫌な予感がするんだよね……。


 切り出した物量的にどう考えてもこの部屋一室を埋め尽くす量でも1万には届かないと思うし―――――



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 あれから十数分経っても特に督促も何も無かったから、とりあえず部屋の外に出ることにしたよ。そしたら出口付近で黄色いチケット配ってる中年錬金術師を発見した。



 「お疲れさん。これもって55号室に行くといいよ」



 手渡されたチケットには『エネルギーポーション無料配布券[102号室労働者用]』との文字が記されていた。



 「【エネルギーポーション】かぁ……」



 【エネルギーポーション】っていうのは所謂【HPポーション】【MPポーション】【スタミナポーション】を一つにしたような魔法薬だったりする。


 だけど、ただ混ぜ合わせるだけでなく、一日に必要な栄養素を配合することで一種の栄養ドリンク的な役割を果たすのが【エネルギーポーション】。


 反対に、栄養素を含まない場合は【トリプルポーション】って≪AAO≫では呼ばれてた気がするよ。


 気がするっていうのは≪AAO≫だとプレイヤーメイドなアイテム品って最初名無しなんだよね。それで1回に限って製作者が名称を設定できるシステムになっている。


 だから極端な話、塩水にエリクサーなんて伝説的な秘薬の名前も付けることが可能だったりする。


 まぁプレイヤーメイド品は製作者以外でもアイテム詳細見られるから、大層仰々しい名前つけたところであんまり意味はないんだけどさ……。


 それでプレイヤー毎に名前つけられるから、ぶっちゃけアイテムの名称なんてあってないようなものなんだよね…。


 でも効果とか強さ毎に名前付けて統一した方が意思疎通しやすいから、色々評価基準や項目を設けて、それに従って名前設定することを推奨する動きが≪AAO≫本サービス開始時からプレイヤー間で行われてきたらしい。


 それでサーバー毎に呼び方に多少のブレがあったりして、例えば【エネルギーポーション】も【エナジーポーション】とか【元気ポーション】とか単に【栄養ドリンク】とか色々呼び名があったりもする。


 この世界での呼び方も、わたしの居たサーバーと同じく【エネルギーポーション】って呼ぶみたいだね。


 で、ゲームなのに栄養素なんて考える必要なんてあるのかって思うかもだけど、無駄にリアリティを追求したがる≪AAO≫には栄養素という隠しパラメータがあるらしい。さすが≪AAO≫。面倒くさい。


 それで現実世界同様にビタミン類、カルシウム、鉄分などなど細かく設定されてるみたいで、偏食気味のプレイヤーには『状態異常:肥満』とか表示されたりして、アバターの容姿にも影響が出る。


 特に酷いものだと余命宣告まで表示されて最悪死ぬとか…。


 でもプレイヤーの中には食べることよりも別のことに力を入れたい、食べる時間が勿体無い、もしくは面倒くさいって考える人も居たりする。


 そういう人たち御用達の魔法薬が【エネルギーポーション】ってわけ。


 戦闘終わってふと思い出した時に飲んだりだとか、スキルで消耗したMPを回復がてら飲んだり、あとは最前線キャンプとか迷宮攻略中で栄養バランスなんて考えてられないときとかにも飲む。


 まぁ大抵は碌でもない理由か状況下でしか飲まれないという実態が見え隠れする【エネルギーポーション】。


 もしこれが現実世界で配られるような事態があるとするなら、後者の状況か、もしくはデスマ敢行中だと思うんだよね。


 つまりまだ何か仕事がやってきそうな気がするんだよね。

 さすがに1日以上も起きっぱなしはツライから一回寝かせてほしいんだけど……。

 たぶん無理なんだろうなぁ……。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 錬金術師ギルド地下1階55号室、入り口特設カウンター前――――




 「あ、エリナさんだ」


 「お疲れ様ですー」



 気の抜けるような声で労いの言葉を掛けてきたエリナさんと軽く挨拶を交わしたわたしは例のチケットを提示した。するとエリナさんは55号室へと入っていき、もうひとり居る受付嬢は足元から1つ木箱を取り出した。


 木箱には人の手首より一回り大きめの穴が開いており、覗き見を防止するためか、穴の上部から黒い布幕が垂れ下がっていた。これってもしかしておみくじ?



 「表現的にはおみくじよりも抽選と言ったほうが適切ですね」



 わたしの疑問に意味有りげに答えた受付嬢は「実際に引いてみた方が早いですよ?」と言って木箱をわたしの前へと押し出した。



 「引きますね」



 意を決して木箱に腕を突っ込むと、その先には折り畳まれた無数の紙が山を造っていた。感触的にだけど。


 そしてその中から引き抜いた三角状に折り畳まれた紙。それを菱形へ展開すると『103号室:切出・乾燥』と書かれていた。


 たぶん仕事先と内容だと思うだけど………



 「ダブったぁ~~~」



 見事に仕事が前のものとダブったのだった――――

お読み下さりありがとうございます!

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