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#3 魔導スピーカー

 あれから早3週間が経った――――


 そして今、わたしの目の前には数百もの樽が所狭しに並べられていた。


 それだけでなく、周りを見渡せば、深い隈を瞼に湛え、物言わぬ人形の如く地面に寝そべる老若男女の姿があった。


 そういうわたしも瞼が重くて堪らない状態だったりするからさ……ちょっと寝るね。おやすみ……。


 え、状況説明しろって?


 仕方ないなぁ………。


 あれは1つ目の【人工魔法石】を造り終えた翌日の早朝まで遡るよ?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 錬金術師ギルド2階、宿泊フロア銀区画どこかの部屋――――



 『――――集合せよ』


 「んぅ?」



 ふと誰かの声が聞こえた気がして思わず目が醒めてしまったわたしは眠気眼を擦りながら首元を軽くほぐすと辺りを見回すことにした。



 「………気のせい?」



 気配は微塵も感じ取れなかった。

 だけど油断するのはまだ早い。

 相手はプロかもしれないし。


 というか、もしかして商業ギルドの密偵がここまで侵入してきたのかも――――


 そう思ったわたしは眠気を取り除くべく自身に覚醒魔法を付与して眠気を霧散させた。そして意識を研ぎ澄ます――――



 ドタバタバドバタ………

 ドタバタバドバタ………

 ドタバタバドバタ………

 ドタバタバドバタ………

 ドタバタバドバタ………



 『緊急依頼発生!緊急依頼発生!錬金術師諸君らは2の鐘が鳴り終わるまでに受付広場へ集合せよ!』



 慌ただしく鳴り響く無数の足音。

 それらに紛れて辛うじて微かに声が聞こえた。

 そして発生源はどれも扉の外からのようだ。

 まさかギルドを揺るがす途轍もない何かが起こったのだろうか―――――


 そんな得体の知れない恐怖を抱きつつ、恐る恐る扉を開けると、そこには錬金術師たちが目まぐるしく廊下を走り抜ける光景が広がっていた。


 そして再び耳を澄ませば天井から例の声が聞こえてくるのが判った。より詳細に言うならば、天井に備え付けられた黒い箱が発生源のようだ。


 ダージスさんたちから特段これといって説明なかったから只のオブジェかと思ってたけど、たぶんアレ、【魔導スピーカー】だと思うよ。


 『魔導』なんて仰々しい言葉が接頭についてるけど早い話が学校とかにある学内放送用のスピーカーと大して変わんなかったりする。


 電力の代わりに魔力を用いて構築するだけだからね。

 とは言え、それを成すにはそれ相応の技術と知識が必要。


 だからこの世界の文明レベル的に違和感があるというか何というか…チグハグって感じ? 


 まぁそれは置いとくとして……えっと、とりあえず行った方がいいよね?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 錬金術師ギルド1階、受付広場――――



 「あれ?」



 受付広場という名が示すとおり、本来ならば各種手続きを行うための受付窓口およびカウンターが存在するはずの大広間。


 しかしニナの目の前に広がるはカウンターの類が一切ない寂れた光景だった。


 一瞬ながら来る道を間違えたかと思ったニナだったが周りに散見する老若男女の多さから場所自体は合っているだろうと推測を立てる。


 だとするならば、恐らくカウンター類は先のアナウンスで流れてきた『緊急依頼』とやらに起因して、事前撤去されたのだろう。

 

 続々と集まる錬金術師。

 その中から見知った顔の人物がニナの元へと歩み寄る。



 「よぉニナ!昨日ぶりだな!」


 「お…おはよう」


 「ダージスさんイギルさん、おはようございます」



 豪快に手を振り上げ挨拶するダージスさん。

 そして控え気味に言葉を掛けてくれるイギルさん。


 ダージスさんの元気溌剌とした雰囲気に便乗して、明るく元気な笑顔で返事をしたんだけどイギルさんに怯えられてしまった。


 ホントどうして怯えられてるんだろうね?



 「いやいやいやいやアレはニナが悪ぃだろ」


 「え?」


 「えっじゃねえぞ。ったくおいおい……」



 やれやれと言わんばかりに呆れ顔を浮かべたダージスに首をかしげるニナ。


 どうやらニナ自身はギルド二次試験で起こった出来事に特に思うところはないようだ。


 だがしかし、ある意味で被害者とも言えるイギルからすれば悪夢そのものだったと言えよう。


 そして青年が、かのトラウマから克服しニナとまともに会話できるまでに回復するにはかなりの時間を要するのは想像に難くないだろう。



 閑話休題―――――



 「ところでダージスさん、今から何が起こるんですか?」


 「それならもうじき分かると思うぜ。アレを見ろ――――」



 ダージスの指差す方へ言われるままに顔を向けるニナだったが、眼前には人の荒波が立ちはだかっており、その先を見通すことは叶わなかった。


 何せ、ニナの元居た世界――――それも生まれ故郷―――――よりも比較的、背の高いこの世界の人々からすれば、ニナの156cmという身長はあまりにも低すぎたのだ。


 その現実に唖然とした表情を浮かべながらニナはポツリと呟いた。



 「見えないんですけど……」


 「お、おぅ……」 

お読み下さりありがとうございます!

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