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#29 エレベータ

 地下へ行くと言われて連れて行かれたのはノブ一切付いてない妙に奥行きのある大扉の前だった。


 鉄で出来た鈍重な扉。その中央に僅かに縦のスリットが見えることから二枚の扉が左右へ別れ、スライドすることで開閉するタイプであると推測できる。


 その隣には上下を表す三角ボタンがポツリと壁に埋め込まれていた。


 そして上を仰げば、【発光石】で象られた0から3までの数字が左から右へと同様に埋め込まれており、1の数字が現在進行系で仄かに光を放っている状態。


 えっと…これ、エレベータだよね?

 ファンタジー世界にエレベータってすっごい違和感あるんだけど……。

 そう思うのはわたしだけではないはず。


 ってかこの世界の文明レベルって中世~近世ぐらいだと思ってたけどもしかして違う感じ?

 そもそも何を基準に中世だとか近世だとかなんて知らないけどさ。

 脈絡もなく現れた文明の利器に吃驚だよ……。


 わたしの困惑を他所にダージスさんは楽しげに口を開いた。

 


 「これか?エレベータって言うんだぜ」


 「へ、へぇ…ソウナンデスカ」


 「こいつを使えばな、一々階段使わんとも一瞬で他のフロアに行けるんだぜ?な、便利だろ?こいつの使い方がちょっと特殊でな、この三角の凹凸をこう押すと……ほらなっ」



 チーンという聞き慣れた到着音が響き渡ると目の前の扉は独りでにスライドし始めた。それを見届けるや否やダージスは興奮気味に口を開いた。



 「どうだ?すげぇだろ!ウチの連中が神代の時代の輸送装置を真似て造った傑作なんだぜ」


 「うわぁ……」



 また出てきたよ〝神代の時代〟。

 ≪AAO≫でもよく登場するフレーズだったりする。


 この単語さえ頭につければ何でもありだよねと言わんばかりに現代~近未来、もしくはSFチックな代物が出てくることがしばしばあったりするんだよね。


 物によっては錬金術で再現可能だったりするけど、ほとんどは再現不可能だったりする。道具を造る側としてはそういうのいけないと思うんだよね。


 再現できないのが悔しいと言うか何というか何だか遣る瀬無い気持ちになるし。無性に虚しくなるんだよね……。


 だから神代の時代の~って言葉を聞くと「また出たよ……」って気持ちになる。神代の時代シリーズは最早公式チートと言ってもいいぐらいだよ…。


 ちなみにだけどエレベータは実現可能な範囲に含まれる感じだったりする。


 ファンタジー世界なんだから転移魔法とか使えばいいじゃんって思うかもしれないけど転移魔法ってMPの消費量が異常に高いんだよね。


 魔術回路に落とし込めば大抵の魔法の消費魔力量は抑えられるけど、転移魔法は対象の体積に比例して消費魔力が上昇するから物の運搬を考えるなら構造次第でエレベータのほうが消費は少なかったりする。


 代わりに維持費とか結構嵩むから結局どっちもどっちなんだけどね。


 そもそもエレベータってプレイヤーメイド品だから≪AAO≫には通常存在しないはずなんだよね。だから神代の時代の運搬装置にエレベータなんて代物は無かったはず。


 ≪AAO≫の設定がこの世界に必ずしも当て嵌まるわけじゃないのは理解ってるけどさ、無いはずのものがあるのって何だか気味悪いよね。


 そんな考え事に耽りながらエレベータ特有の浮遊感と共に地下フロアへと降りていった――――



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 「ここが一番でっかい部屋だ」



 一際分厚い扉を開くと蒸留器や粉砕機、プレス機や抽出機、撹拌機など、大中小様々な錬金道具が壁際や鉄机の上に置かれていた。



 「基本的にこの部屋を借りれば大抵の道具は揃ってはいるが代わりにすげぇ金が掛かる」



 実験・研究フロアでは一人もしくはグループ単位で錬金用に部屋を借りることができるらしい。


 その中でも、今私たちの居る部屋が最大規模の部屋らしく、広さ的にはサッカースタジアム2個分もの広さがあるんじゃないかな?


 機材の数や種類、部屋の大きさ的にも一番高く、利用料は1日当り25万リディスも掛かるらしい。



 「余程でけぇもん造らん限りは必要な器具だけ揃った部屋を選ぶのが普通だな」



 部屋の貸し出しの他にも、乳鉢や乳棒、丸底フラスコや【魔力素可視化眼鏡】など、小道具の貸し出しも行なっているらしい。


 あとプレス機などの大型装置はさすがに運搬に手間が掛かるということで、部屋とセットでの貸し出しとのこと。もちろん何もない個室もあるみたい。



 「それで一番気を付けてほしいのがこれだ」



 ダージスさんが指し示す先に目を向けると壁に網目の付いた箱が取り付けられていた。他の壁にも似たようなものが張り付いていたりする。何だんだろうね?



 「あれは何なんですか?」


 「あれは【空気洗浄器】と【空気生成器】だ」



 箱の中には【空気洗浄器】と【空気生成器】が収納されているみたい。


 で、その魔導具の動力源となる魔晶石の魔力残量が0になると横フタが外れるらしく、必ず魔晶石の取り替えをするように言われたよ。



 「それとここを開けると稀にこんな石が入ってるんだが、あまりに大きいようなら下にあるトングでダストシューターに捨ててくれ」



 錬金術を行うと場合によっては空気汚染が発生する。その環境下で作業すると人体に悪影響を及ぼすため、それ対策で【空気洗浄器】を使って空気を浄化しているとのこと。


 その過程で空気中に含まれる汚染物質は専用のスペースに圧縮される設計になってるみたい。


 ヘドロを押し固めて乾かしたかのようなみたいな見た目になるらしい。そしてあまりに大きすぎると徐々に浄化機能が低下するとかで、定期的に確認して必要であれば除去を行わければならないみたい。


 退出時にも同様に確認し、ヘドロのような石…通称【汚塊石】が少しでも溜まっているなら捨てるのが利用規則として設けられているらしい。


 つまり今回のこの状況は規則違反ということで前回この部屋使った人は後で罰せられるらしいよ?自業自得だしご愁傷様だね。



 「ま、それさえ気をつければ後は大丈夫だろう」



 その後も幾つか部屋を巡ったり小道具の貸し出し場所を確認したわたしは再び1階へとエレベータで戻ったのだった――――

お読み下さりありがとうございます!

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