#28 錬金術師カード
試験会場(?)から出たのだろうか、人とすれ違う機会が増えてきた気がする。その誰も彼もがパーカータイプのローブと何かしらの杖を身に纏い、怪しげな雰囲気を漂わせている。
見た目が正に、昔わたしが≪AAO≫時代に路地裏でやってた闇錬金術師ロールの格好まんま過ぎて黒歴史を見せつけられてる気がしてならないよ。地味に精神的ダメージが………。
あと何気にローブ装飾の人たちの妙に気配が薄いんだよね。
隠密効果も兼ねてるのかな?
まぁそれらはともかくとしてさ…。
こういうファッションが流行ってるのかな……?
もしくはギルド独特の服装規定とか?
だとしたらわたしも同じ格好しないとダメだったり?
ホント勘弁なんだけど……。
「そういう規則は別に無いぞ?」
もしかしてと思い聞いてみたところ、そんなことはなかった。というか、そもそも服装自体は個人の自由みたい。案外ゆるいのね。
ならばなぜ、すれ違う者誰しもが皆怪しげな格好をしているかと云えば、怒涛の錬金術師人生の末に見事成り上がってみせた錬金術師ギルドの創立者に肖ってのことらしい。
この世界において錬金術とは、魔法でお金になるものを生み出す為の術を模索した試みが始まりとされている。だけどそれは贅沢な暮らしがしたいがためのものではなかったという。
なんでも、ギルドの創立者は幼少の頃、放浪児としてスラム街を彷徨っていたところをとある孤児院の院長に拾われたらしい。
孤児院自体の暮らしは極貧と言っても過言ではなかったけれど、彼は院長と自分を受け入れてくれた仲間たちに深く恩義を抱いたという。
生活は貧乏故に必要な道具は素材から何からまで全て自分らで集めて造る必要があった。
補助金すら微々たるものでお金すら自身たちで稼ぐ必要があった。そもそも孤児にとって雨風凌げるだけで行幸なのだから―――。
スラム街の一角に存在する廃材置き場を漁っては道具を造って買い叩かれつつもお金を稼いで生計を立てる日々。
生まれながらにして僅かながらに魔法の才を持っていた彼は魔法を使って一工夫できないか常日頃から考え続けていたという。
そんなある日、廃材置き場で見つけた魔晶石の欠片が彼の運命を大きく変えることとなる――――
「ちょ、なんでこんなに人集ってるんですか!?」
気づけばわたしたちの後ろにはローブ姿の老若男女がゾロゾロ付いてくる奇妙な光景が広がっていた。その理由を苦笑交じりに偉丈夫が語る。
「グランドマスターの波乱万丈のサクセスストーリーは錬金術師の間では国王の建国英雄譚以上に大人気なんだ」
人気の上に、語り部によっては物語に細かな違いや分岐があったり諸説あるとかで、その相違点について討論もとい妄想をふくらませるのが錬金術師達の楽しみの一つとなってるらしい。
だから錬金術の修行や研究の傍ら、息抜きがてらギルド構内を巡り歩いては話を蒐集するのが流行っているとか云々。正直よくわかんないや。
あとさっきから偉丈夫偉丈夫言ってるけど何だか失礼な気がしてきたから名前を聞くことにしたよ。
「俺か?ダージスだ。で、お前は何て言うんだ?」
「名乗りが遅れてすみません。ニナです」
「イ、イギルです」
筋骨たくましい偉丈夫な人がダージス。で、青年のほうはイギルって言うらしい。それとなぜかさっきからイギルさんに怯えられてるんだよね?何かしたっけか?全然覚えが無いんだけど……。
ともかく後ろにたくさんの錬金術師たちを引き連れて、わたしたちは会員登録所へと歩を進めたのだった――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それではこちらがニナ様の会員カードとなります」
会員登録用のカウンターにてギルドに関する説明を一通り受けたわたしは話の最後に受付嬢から【錬金術師カード】を受け取った。
さすがに受付嬢までもがローブ姿なんてことは無かったよ。
なぜだかホッとした気分になったよ。
カードの見た目はとにかく黒い。
黒くて厚みのあるプラスチックのような材質のカード。
そして裏表共に何も書かれていない無地なのが特徴的だね。
「それではカードに魔力を浸透させて見て下さい」
言われたままに〈錬金術〉でカードに魔力を浸透させると表面に翡翠色の文字が浮かび上がった。
所属:錬金術師ギルド
登録:ウィスカル支部
氏名:ニナ
他のギルドカードでもお馴染みの3つの項目以外、表面には何も書かれてなかった。そして裏面には『実績』という文字と幾つもの横罫線が引かれていた。
なんでも、錬金術において新しい発見とか画期的な魔導具とか発明して届け出て国に認められるとその旨が『実績』の欄に刻まれるらしい。
そして『実績』の個数に応じてギルド内での待遇が良くなるみたい。貸し出し機材の利用料割引とか希少素材を優先的に回してもらえるようになるとか。その他いろいろ特典があるあらしいよ?
あとギルドカード自体がギルド構内に入るためのキーアイテムの役割を果たしている。
シーチナさんに教えられて最初に訪れた錬金術師ギルドは基本的に一般客からの依頼を請け負うために建てられた別館らしく、その受付にてカードを提示すると別室に案内されるらしい。
その別室に敷設された転移魔法陣にカードを押し当て魔力を流すことでこのギルド本館に移動できるみたい。というか通常は別館経由で本館に行くことがギルド規則で義務付けられていたりする。
で、肝心の本館だけど地下1階~地上3階までの計4階建てみたいだね。
ざっくり言うと各階はこんな感じらしい。
地下1階:実験・研究フロア
地上1階:事務手続き・試験会場・倉庫フロア
地上2階:宿泊フロア
地上3階:???
3階は実績数10以上の錬金術師にのみ公開されるプレミアムな場所らしく、新米のわたしは教えてもらえなかったよ。
それと今からギルド見学ツアーがあるとかで、ダージスさんとイギルさん先導の下、わたしは地下1階へと向かったこととなった―――――
お読み下さりありがとうございます!
章タイトル的にはここでエピローグな気がしますがキリが悪いため、もうしばらくこの章が続きます。