#27 極細ドリル
室内に光を浴びて琥珀色に煌めく小さな砂時計。その上部に溜まった砂が全て底まで零れ落ちれば試験はクリア。
だけど本来あるべき中央の穴が見事にふさがっている状況。おまけに【反魔合金】製だから魔力を浸透させるのはレベル的を鑑みれば完全に不可能。
つまり錬金術での加工は無理っぽいんだよね~。
ならどうするかって?
物理で殴ればいいんじゃないかな?
そういうわけで、まずは強度の確認から始めるよ。
小さな砂時計を右手の親指と人差指で摘んで力を込めて挟み込んでみた。うーん、普通に硬いね。そりゃ金属だし当たり前かぁ~。
次に砂時計を床面に擦り付けてみた。
おぉ~若干削れてる。
手応え抜群だね。
透明掛かった琥珀色に白い傷跡出来て不透明になった感じ。
反魔力性能重視で金属の強度は二の次って感じかな?
これなら極細ドリルで穴を開通させればどうにかなりそうな気がするよ。
でもドリルなんて持ってないから造るところから始めることにするよ。
まぁぶっちゃけ素材の持ち合わせがないから【魔晶銃】の一部分解して極細ドリルへ変形する感じ。
【魔晶銃】のほとんどのパーツって七属性魔晶石そのものだから変形するだけでそのまま素材として流用できたりする。
だから早速ドリルの刃を造ってみたよ。
ちなみに回転動作は魔法で行えば問題ない。そうすれば態々回転させる機構とか造る必要はなかったりするし。
砂時計自体はものすごく小さいけど緻密で細かい作業は慣れっこだからね。数分で砂時計の中心部の開通に成功したよ。
砂時計上部に開いた穴は直しようがないけど壊しちゃダメなんて言われてないしいいよね…?
そんな感じで砂が落ちきるのを椅子に座って待っていると独りでに扉が開かれた。
そして奥から、パーカータイプの白ローブを身に纏い、自身の背丈ほどもある太い木製の魔杖を携えた偉丈夫が現れた。筋骨たくましい男である。
なんか目と目があっちゃったから、とりあえず挨拶してみることにしたよ。コミュニケーションは挨拶から始まるって言うし?
「えっと、こんにちは?」
「これは一体どういう状況だ?」
「それはですね――――」
二次試験と称して青年に襲いかかられたこと。
砂時計の砂粒が零れ落ちなかったこと。
青年を昏倒させたこと。
砂時計を弄ったこと。
一通りことの顛末を伝えると顎に手を当て偉丈夫は何やら思案げな表情を浮かべた。そして暫くして懐からゴーグルを取り出し装着した。
その直後だった。意味不明なことを宣ったのは――――
「納得したが念の為だ。手合わせ願おう」
何を納得したのかさっぱりだけどさ、もしかして錬金術師ギルドって戦闘狂の集まりだったりする……?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真剣有りでいいらしいよ?
だから遠慮なく【七色剣】を引き抜くことにしたよ。
偉丈夫が放つ一撃を躱してはカウンターの要領で斬撃を放つ。
だけどその一閃は木製の魔杖に打ち払われて悉く弾かれる。
魔杖自体に強化魔法の回路が刻まれているのか、常に杖が薄っすら発光してて幻想的で見てるだけで楽しいよ。
つい漏れたわたしの笑みに呼応したのか、偉丈夫も口許に笑みを浮かべた。そして魔杖による打撃は更に熾烈なものへと変化した。
偉丈夫の打撃の威力がシャレにならない強さになってきたよ。当たったら骨が余裕で折れるぐらいに。
しかも魔杖の形状が大樹の枝をそのまま加工したかの如く波打った形状をしているせいか、剣で受け流したときに生じる剣へのダメージが徐々に蓄積されてあまり良くない状況だったりする。
だから受け流しを封印して回避重視のカウンタースタイルに変更すると偉丈夫は嬉しそうに声を荒げて宣った。
「可愛い嬢ちゃんかと思えば中身は闘争に飢えた獣だったか!ははっ!」
いやいやいやいやホント違うからね!?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから何百もの打ち合いの後、偉丈夫の一言で戦闘は終わりを迎えた。
「で、試験は合格ってことでいいですよね?」
「特例だが合格で構わないぜ」
何が特例かと言うと、なんでも本来この試験って合格できないようになってるらしいよ?
一部の国ではかの血を求めて錬金術師狩りが起こる程度に錬金術師ってとかく裏の世界の者たちから狙われることが多い。だから過去に何百もの錬金術師の命が奪われてきたみたい。
その原因の一つが錬金術師の戦闘能力の低さに由来する。
錬金術師へ覚醒した人って身体能力が低い関係で戦おうなんて意志をもつ人が存外少ない。だから戦闘に関する鍛錬も基本的に行いから戦うための技術なんて持ってるはずがなかったりする。
それどころか、どうせ戦わないし~なんて考えるものだから武器も護身用程度にナイフしか持っていなかったりする。
そんな素人が暗殺者に襲われれば為す術無く殺られるのは当然だよね。
それで過去に錬金術師が死にまくったものだから、意識改革しないと不味いとギルドはとある計画に着手したらしい。その1つが地獄のブートキャンプ。
戦闘を取り扱う複数のギルドの教育部門を招致して実施されるサバイバル訓練がブートキャンプの正体だったりする。そしてその内容は熾烈を極めるものらしい。
内容がすっごい気になるけど極秘事項に該当するとかで教えてもらえなかったよ。でも受講者が皆、口を閉ざして喋りたがらないほどに尋常じゃないみたいだよ?
現に草ロープから解放され意識を取り戻した青年に聞いても怯えるばかりで何も教えてくれなかったし。
「つまり二次試験はブートキャンプに連行するための口実ってわけですか」
「まぁそういうことだな」
一次試験に受かって気が抜けたところを襲って昏倒させた後、そのままブートキャンプに連行するのが恒例の流れらしい。
稀に現る合格者に対しては戦闘能力に関しては問題なしということでブートキャンプを免除する規則になってるみたい。
そしてブートキャンプ終えるなり免除されるなりすれば、晴れて錬金術師ギルドの会員として認められるらしい。
「じゃ、早速カード造りに行こうぜ」
偉丈夫の男に連れられわたしは部屋を後にした――――
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