#25 転移魔法陣
門を潜った先には鈍く光を反射する黒曜石のような巨壁が聳え立っていた。
如何にも人目を引きそうな外装だけど、高さは周囲を取り囲む石屏よりやや低め。だから案外目立たないのかもしれない。
そしてその壁の中央には、ひたすら長いトンネルが穿たれていた。不親切なことにトンネル内に明かりの類は一切なく、真っ暗闇が続くのみ。
その反対側の出入り口から差し込む陽光が辛うじて見えるかどうか、それぐらい長いトンネル。
まぁ確か3番目の転移魔法陣って言ってたからそんなに掛からないよね。
そう思ったわたしの期待は悉く裏切られることとなる――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「やっと着いたよ……」
トンネルの中腹に差し掛かった当りで漸く3番面の魔法陣に辿り着いたわたしは思わず苦笑を浮かべた。
いやだってさ、長すぎでしょ……。
途中、魔法陣見逃したかと思って不安になったし。
まぁ1つ目2つ目の魔法陣の距離も大分離れてたから何となくは察してたけどさ…。
代わり映えしない景色ばっかり続いて飽きが来るし、眠くもなるし、それで集中力散漫になるし、もしかして見逃したかもって少し焦ったりもしたけど何とか辿り着いたよ。
で、地面を【七色剣】の光オーラで照らすと見える魔法陣。例のごとく落書きじみた線群が犇めく見た目をしてるから、一見しただけでどんな効果を持ってるかなんて判んないんだよね。
ぐちゃぐちゃに見えるけど、その実、線の重なりとか太さとか形状が魔法の効果とか規模とかを表してるらしいよ?
少なくとも≪AAO≫で見つけた古文書にはそう書いてあった。基本的に≪AAO≫で発掘される古文書には虚偽とか誤りとかが記載されることは無いからたぶん本当だと思う。
だけど肝心の論理書が見つかんなかったから解読諦めたのは苦い思い出だね~。
まぁともかく、のんびり思考に耽ってるのはただ単に魔法陣の起動に時間が掛かってるからだったりする。
紹介状を押し当てたんだけど何も起こらない状況ってやつ?
なぜ押し当てると魔法陣が起動するかはよく分からないけど、魔法陣を起動するには少なくともMPが必要。だから試しにMP流し込んでみることにするよ。
そんな軽いノリで魔法陣にMPを流し込んだ瞬間、わたしの視界は白一色に染まった――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「目が、目がぁ~!!――――ってあれ、見える?」
眩い光に包まれて反射的に腕で目を庇ったんだけどさ、思ったよりも目はあんまり眩まなかったんだよね。なんか虚仮威し感半端ないね。びっくりして損した気分だよ。
周りを見渡すと狭い個室って感じ。
さっきの魔法陣に似たものが床に描かれている。
そして天井からぶら下がる二属性魔晶石を利用した豆電球のような照明器具のおかげで室内はランタン頼りの宿屋の自室よりも明るい。
お金に余裕あるし今度わたしも造ろっかなぁ。【七色剣】で照らす時って刀身剥き出しにする必要あって危ないし。そもそも剣を照明具として使うこと自体おかしいからね…。
まぁそれ以外は特に調度品は一切なく、それどころか窓すら無い、物寂しい部屋って印象だね。転移専用部屋って感じなのかな?
で、目の前にぽつんと佇む質素な造りの木扉。そのノブに紐でぶら下げられた看板には二言こう書いてあった。
『ようこそ。錬金術師ギルドへ。』
どうやら漸く錬金術師ギルドの中に入れたみたいだよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
扉を開いた先に続く渡り廊下を進むと先ほどよりも少し広めの部屋へと辿り着いた。
そこには木机に2つの椅子。その向かい側の椅子に20歳ぐらいの見た目のほんわかした青年が腰を下ろしていた。
「ども~!錬金術師ギルド志望の子でいいんだよね?」
「あ、はい。そうですけど……ずっとこの部屋に居たんですか?」
そう聞くと「さすがにそれはないない」と朗らかに笑いながら手を振る青年。
なんでも、あの魔法陣には2つの役割があるらしいよ?
1つは普通に部屋へ転移するための機能。で、もう1つが簡易的な通知機能。紹介状の中に入っているらしい認識票を近づけるとギルド内に設置された鈴がなるようになっているらしい。
そのベルの音の種類でどの魔法陣が起動されたのかが判るようになっているとのこと。
それで今回わたしが乗ってきたのはギルド入会希望者専用に敷設されたものらしい。
「じゃ、早速だけど試験始めるよ」
「試験ですか?」
「そうそう」
そう言って青年は懐から拳大の【魔銀】を取り出した。
「これを今から僕の形状にしてみてよ!錬金術でさ――――」
立方体、直方体、三角錐、円柱と基本的な形状から始まり、鍵とか家とかパンとか動物など徐々に難易度が上がっていった。
そして50回目を超えた当りでようやく試験が終了したのか、
「はい!ここまで!お疲れ様~」
「どうもです」
パチパチ嬉しそうに拍手する青年に空返事したわたしは先ほどから抱いていた疑問を口にした。
「錬金術師ギルドって場所とかも含めて色々機密情報多いですよね?」
「うんうん」
「もし落ちた場合ってそのまま返すと不味いですよね?」
「そうだね~」
「その場合ってどうなるんですか?」
「ああ~受かるまで何度でもやってもらうのがうちの方針だよ」
「それでもダメだった場合は……?」
「そうだね――――」
何かトラウマでも思い出したのか、青年の顔から表情が抜け落ち、目の焦点が合わなくなったのか遠い目になる。だけどそれも数寸のこと。直ぐさま笑顔を取り戻すとこう告げた。
「地獄のブートキャンプにご招待……かな?」
地獄のブートキャンプとやらを通して錬金術師としての必要最低限の素質を付けさせた上で再度試験をやらせるらしい。それでも尚ダメなら受かるまでキャンプと試験を交互に繰り返すとか。
要は何が何でも組織の一員へと仕立て上げるってことらしい。
それでそのキャンプ内容なんだけど青年の口から語られることは無かったよ。
まぁ合格したわたしには関係のないことだけどね。
「終わった雰囲気出してるところ悪いけど二次試験が残ってるよ?」
「え?」
まだ試験があるらしい。
地獄のブートキャンプが何なのか分からないけど、響きからしてどうせ碌でもないことに決まってる。
まだ気を引き締めないといけないみたい―――――
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