#23 封蝋開封検出器
「錬金術師ギルドに行くならこれを持ってくのじゃ」
部屋から戻ってきたシーチナさんはそう告げると徐に、赤の封蝋が押された封筒を懐から取り出し、それをわたしに手渡した。
「もしかしてこれが紹介状ですか?」
「そうじゃよ」
紹介状ってギルドが信頼に値すると認めた者しか書けないって確か言ってたよね。ってことはシーチナさんはその一人ということになる。
人の言うこと何でもかんでも鵜呑みにするのはよくないけどさ、シーチナさんが嘘つくとも思えないし、その一人なのは確実だと思う。
でも他のギルドに比べて、人一倍警戒心の強い組織から信頼を勝ち取るってそう簡単なことじゃないよね?
ならシーチナさんは一体……?
「シーチナさんって何者なんですか?」
「老い耄れた、ただの素材屋じゃよ」
珍しくシーチナさんが言葉を濁した瞬間だった。
そしてシーチナさんに早く行くよう急かされたわたしは素材屋を後にしたのだった――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、乗合馬車で西区に着いたわたしはシーチナさんに教えられた道順を従い、錬金術師ギルドへと向かった。
釜を搔き混ぜる老人がトレードマークな旗が立っているから直ぐ判ると言われたけど一向に見つかる気配がしないんだよね~。
もしかして道間違えたパターン?
まぁこういうときは悩むよりも住民に聞くのが一番だよね!
早速だけど目の前からやってくる人が良さそうなオバちゃんに聞いてみることにするよ。
「あの~すみません…」
「アタイに何の用だい?」
「錬金術師ギルドってどのあたりにありますか?」
「ギルドは向こうだよ」
「え、そうなんですか!?ありがとうございます!」
恰幅の良いオバちゃんが指さした方向はなんと進んできた方角から90度異なる方向だった。どうやら本当に道間違ってたぽいね……。
その後も通行人に道を聞いては進路を変えを繰り返して目的地へと近づいていった――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前に鎮座するは巌の如く飄然と聳え立つ石造立方体。
正に超巨大建造物って感じだね。
とにかくデカイ。
ポカンと開いた口が塞がらないスケールのデカさだよ。
そしてこの光景にデジャビュを感じるのはきっと気のせいじゃないと思うんだよね。
もしかして、ここって商業ギルドだったりする?
でも釜と老人のシンボル描かれた旗が門前に立ってるし。
特徴的に間違ってはいないはず。
でも何だか無性に不安になってきたよ。
まぁ間違ってたらまた聞けばいいし、まいっか――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
錬金術師ギルド(?)、1階一般対応窓口――――
「いらっしゃいませ!ご用件を承ります」
眩しい笑顔でそう告げたのは商業ギルドの制服を身にまとった受付嬢。やっぱ間違えた感じ……?
「ここって錬金術師ギルドですよね?」
「おっしゃる通りでございます」
―――と受付嬢は淀み無く言い切った。
錬金術師ギルドで合ってるっぽい。
でも違和感を感じるのはどうしてだろ?
制服とか商業ギルドのそれまんまだし…。
まぁ疑ってもキリがないし、さっさと用件済ませるとするよ。
「錬金術師ギルドに入会したいのですが受付ってここでも可能ですか?」
過去に行った2つのギルドには必ず何処かしらに新規入会用の窓口があったんだけど、このギルドにはその類が一切無いんだよね。
何か裏口とか秘密の入り口とかあるのかな……
わたしが思考の海へと沈みかけたところで受付嬢から声が掛かった。
「こちらでも承っております。失礼ですが紹介状はお持ちでしょうか?」
「ありますけど……」
バックパックを床に降ろし紹介状を取り出すと受付嬢へと手渡した。
すると受付嬢は下から意味を成しているかも怪しい落描きじみた金色の紋様が面全てに刻ま込まれた黒い台座を取り出した。
見た目がすごく重そうだけど華奢な受付嬢が軽々と持ち上げているあたり、案外軽いのかもしれないね。受付嬢がめちゃくちゃレベル高いって線も考えられるけど…。
そして気づけば紹介状はその台座の上に置かれていた。それだけでなく、封蝋は赤く輝き、封筒の内部から僅かに翡翠色の輝きが漏れ出していた。
それを確認した受付嬢は何やら周りを見回しながら、
「二重封蝋の痕跡は確認されませんでした」
「破られた痕跡も見つかりませんでした」
「魔術的要素による隠蔽効果も検出されませんでした」
「よってこの手紙は未開封のもので間違いございません」
などなど意味不明な言葉を発し続けた。そして何かを一頻り確認し終えたのか、小声でわたしに話しかけた。
「錬金術師ギルドウィスカル支部は封筒の裏側に表示された地図を御覧ください」
「地図?」
「はい。この台座に特殊加工の施された正規紹介状を乗せると僅かな間、封筒に道順が表示される仕組みとなっております」
「えっとつまりここは――――」
「他のお客様がいらっしゃいましたのでお話はここまでとさせていただきます」
わたしの疑問は受付嬢のその一言で打ち切られた―――――
お読み下さりありがとうございます!