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#22 紅の手袋

 せっかく作った渾身の力作だったけど、シーチナさんの一言で已む無く壊す流れになっちゃったよ。ガックシ…。


 で、完成したのがシーチナの顔の皺一つに至るまで緻密に再現された【魔銀】製の仮面。表情つけると叱られそうな気がしたから表情なしの造形にしたよ。


 シーチナさんは仮面を手に取ると矯めつ眇めつ角度を変えては顔を近づけ眺めるのを繰り返した。そして「ふむ」と一言呟くとわたしの方へと顔を向けて言った。



 「お前さんが錬金術師なのはよく判ったのじゃ」


 「もしかしてわたし嘘ついてると思われてた感じですか…?」



 少し悲しげに困惑を口にするとシーチナさんは滔々と語り始めた。



 「『紅の手袋』って知っておるかのぅ?」


 「『紅の手袋』ですか?知らないですけど……」


 「この大陸では割と有名な話でのぅ――――」



 『紅の手袋』……早い話がこれ、錬金術師の血で染め上げた手袋をだったりする。


 というのも昔、この大陸における錬金術師の地位って一般人よりも低かったらしいよ?


 錬金術師ジョブの身体能力が兎角低いのは≪AAO≫と同じみたい。それに加えて、この世界って文明的に肉体労働が資本とされる時代みたい。


 だから直ぐバテる錬金術師は役立たずの穀潰しとして蔑みの対象とされた。


 そもそもこの世界における錬金術とは、卑金属を貴金属に変えたりだとか、不完全な存在を完全なそれへと錬成するための術ではなく、金になるものを魔法を用いて生み出そうとしたのが起源らしい。


 そしてその試みを続けた者は総じて身体にある変化が起こったという。


 ざっくり言うと、身体能力が頗る低下して、代わりに魔力が一般人の倍ほどに膨れ上がるという変化。


 まぁ変化というか、ジョブチェンジじゃないかなぁってわたしは思うよ。


 ジョブ無しから錬金術師に変わった影響でステータスも『錬金術師』のものへと置き換わるから、そのギャップを感じ取ったんだと思う。


 ≪AAO≫だと初回に限って、何時如何なる時でもジョブ選択できるけど、この世界の場合、何かしらの条件を満たすことでジョブに就けるみたいだね。


 条件を満たした際に起こる変化のことを『覚醒』っていうらしいけど、錬金術師の場合はマイナス効果が酷すぎて『退化』って揶揄されることも儘あったとか。


 それだけでなく、1度でも『覚醒』した者は2度と『覚醒』できないらしい。つまり、覚醒した身体と一生付き合っていくこととなる。


 まぁMPだけは魔法使いジョブ並に成長補正高いから魔物たくさん狩ってレベル上げればいいじゃんって思ったんだけどさ……



 「れべるってなんじゃ?」



 って言われたよ。


 そもそもレベルという概念が一般的じゃないみたい。だから魔物を斃すとレベルが上がるなんて方程式がそもそも存在しないんだよね。


 だから魔物を斃した果てにレベルアップして強くなっても、それは日々の鍛錬の賜物、あるいは実戦経験で得た生き抜く力、もしくは類稀なる才能だと考えられてる節がある。


 そんなわけで殊更脆弱な錬金術師が魔物と戦おうだなんて思考に至るわけもなく、当然レベルが上がらない。


 だけどレベルを上げなければ所詮、一般人の倍程度のMPしかない。


 で、大抵の錬金術師は碌にMP持ってないから錬金術で碌な物が造れず、結果として役立たずの烙印を押される。


 そういう経緯で錬金術師は一般人よりも労働力として劣る存在だと云われてきたらしい。


 まぁ最大MPってMPの減り具合に応じてナノ単位で微上昇するからね。一部の錬金術師は地獄の鍛錬の末に現実的に運用可能なレベルにまで上り詰めた。


 そうした錬金術師達が色々便利な魔導具を発明して世に送り出したおかげで錬金術師の地位が徐々に良くなってきたところで魔法帝国マガスティアで大事件が勃発した。


 なんでも、凄腕錬金術師と悪徳領主が揉めに揉めて決闘沙汰になったらしいよ?


 決闘と言っても幾つか形式があったりする。


 当人同士が直接戦うものから代理人を立てて戦わせる代理決闘、もしくはその2つを組み合わせたスタイルなど、他にもいろいろあるみたい。


 両者ともにお金は潤沢。

 片や大富豪。

 片や大貴族。


 金で物を言わせてきたという二人は代理決闘でしのぎを削ることで同意した。


 だけど悪徳貴族側が一枚上手だったらしく、権謀術数の限りを尽くして、凄腕錬金術師側が雇った代理人を買収した。


 そのせいで凄腕錬金術師は決闘の舞台に立たなければならない窮地へと追い込まれてしまう。


 幾ら魔法に多少の心得があるとは言え、対峙した相手は対人戦闘に特化した殺しのプロだった。それも『魔法使い殺し』の異名を持つ覚醒済みの凄腕。


 何のジョブかはシーチナさんの話からは判らなかったけど勝敗は一瞬で決まったらしい。


 心臓一突きされた錬金術師は呆気なく死んでしまった。で、その際に殺し屋が嵌めていたグローブに錬金術師の血がベッタリ染み込んだらしい。


 まぁ染み込んだだけだったら話はこれで終わるんだけど、そうはいかないみたいだね。



 「そのグローブを介して錬金術が使えるようになったというのじゃ」



 錬金術師の血で染められた布を介して魔力を流すと物体に錬金術のような作用が発生する現象が発見されたらしい。


 最初は物を歪める程度だったそれが研究を重ねるに連れて徐々に錬金術に似た現象を引き起こすまでになっていった。


 ただ使えば使うほど徐々にグローブの効力は落ちていき、最終的に錬金術のような現象を引き起こす力は失われてしまったらしい。


 それでも研究を進めたい悪徳領主は新たにグローブを造るべく、錬金術師には特例として年に一定量の血液を納める文字通りの血税を課すことにしたらしい。


 それに呼応したのか一部の狂信的な魔法使い主義者たちが「その力は数多の魔力を保有する我々こそが持つに相応しい力だ」とか何とか言い出して、何をトチ狂ったのか、錬金術師狩りにまで発展したらしい。


 その国の錬金術師たちも黙って受け入れたわけではなく、国に助けを求めたらしいけど、魔法帝国って付くほどだからね。


 魔法に関して半端者が多い錬金術師の嘆願なんて戯言にしか聞こえなかったみたいで黙認を貫き通したという。


 それで結局、錬金術師達は大陸随一の善政を誇るリディスエール王国へと亡命したらしい。


 そしてその人達が錬金術師を保護してもらうべく国に願い出た結果、創立されたのが錬金術師ギルドらしい。



 「その歴史と仮面の話とどう繋がるんですか?」


 「そうじゃのぅ。錬金術師ギルドに物理的に入るには紹介状が無ければ話にならんのじゃ」



 なんでも、錬金術師の血を求めて他国からその手の者が派遣されたことが過去に何度もあったらしい。それもあってか、錬金術師ギルドは他のギルド以上に人の出入りに神経を尖らせているとのこと。


 つまりギルドが信頼する第三者からの紹介状が無ければ入り口で摘み出されることになるみたい。



 「えっと…それじゃあわたしは錬金術師ギルドに入れないってことですか?」 


 「そう急ぐでない。ちょっと待っとれ」



 そう言うと、シーチナさんは隣の部屋へと姿を晦ました――――


お読み下さりありがとうございます!

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