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#16 魔導粉

 翌日、4の鐘の頃、『シーチナの素材屋』店内カウンター前―――――



 「さすがに二個も三個もそうポンポンと買い取るわけにはいかないねぇ」


 「え、どうしてですか!?」



 そこには苦笑を浮かべて右手を左右に振るシーチナさんと当てが外れてガックリしながら驚くという地味に器用な真似をするわたしの姿があった。



 「お前さんの大陸での常識なんて知らんがの、この大陸じゃとな、1属性魔晶石でもそれなりに希少価値が高いのじゃよ」



 「そんな魔晶石売り捌ける輩なんてものは大商人ぐらいじゃ」



 「素材屋を営んで居ればそれなりに扱う機会もあるかもしれん」



 「じゃがの、そう短期間で二個も三個も手に入るなんてまず有り得ん」



 一旦言葉を切ったシーチナさんは呼吸を整え始める。

 やっぱ年なのか、息切れしやすいのかな?

 それはともかくとして……。

 たぶんアレだよね。



 「つまりポンポン迂闊に売り出せば誰かに目を付けられると?」


 「そういうことじゃ」


 「じゃあ売らなければいいんじゃ……」



 そう言うと心底呆れた顔をしてシーチナさんは言葉を発した。



 「お前さんはお馬鹿さんかい? 売れない・売れ残る・売れるまでに時間が掛かるような不良在庫わざわざ抱え込む商人なんて居るわけなかろう!」


 「え、でも抱き抱え商法とか……」


 「ここを本当に何じゃと思っておる?」


 「えっと…素材屋?」


 「そうじゃとも。素材屋じゃ。お前さんはいらん素材を買い漁る考えなしかい?」


 「いえ……えっと、ごめんなさい」


 「理解ったならばよいのじゃ」



 そう言葉を切ると、先ほどまでの怒気を含んだ顰めっ面から一変、シタリ顔へと表情を変えたシーチナさん。どうやら本当に怒っていたわけではないみたい。嫌われてないみたいで安心したよ。



 「でもどうしたのじゃ?それほどまでに金がいる事情とかあるのかのぅ?」


 「【魔導書】作ろうかと思ってるんです」


 「ほぉ、お前さん、【魔導書】つくれるのかい?」


 「一応ですけど……」



 意外そうな目で見られたのはスルーするとして……。


 あれだよ。

 ざっくり言うと【魔導書】って恐ろしいほど高いんだよね。

 『ニルエナのアトリエ』行った次の日さ、いろんなお店廻ってみたんだけどさ…。


 最低でも7500000リディス…虹貨7枚に黒貨5枚って感じで、冒険者ギルドで見つけた黒の依頼書の報酬額の1.5倍のお値段なんだよね。おまけに中身も微妙な魔法ばっかだし。


 それでゼロがひたすら並ぶ光景見てると何だか自分で作ったほうが安上りな気がしてきたんだよね…。売値が制作費を下回るなんて無いだろうし。


 まぁ【魔導書】に固執する必要も無いんだけどさ、好きな魔法を低コストで使えるって魅力的じゃん?


 洗浄魔法とかMP消費高いけど使用頻度も結構あるようなものとかあるし。

 そういうの外でも心気兼ねなく使えるって魅力的だとわたしは思う。

 あと緊急時用に結界系とか攻撃系とか仕込んどけば便利だし。


 まぁ作るには、紙と獣の革、木の繊維、それと【魔導粉】【魔視薬】が必要になるわけ。


 【魔導粉】は魔術回路を構築するのに必要なやつ。魔力を吸収する性質を持つ石【吸魔石】に魔晶石、魔力伝導率に優れた金属【魔銀(ミスリル)】をそれぞれ粉末状にして配合したのが【魔導粉】の正体。


 これを用いて回路を描くと魔力がその順路に沿って流れるようになるって仕組み。


 本来は液体状の【魔銀】の中に他の粉末を溶かし込んで半田付けみたいな感じで回路を描いていくのが普通だけど【魔銀】ってお金掛かるからね、粉末状にしたものを〈錬金術〉でつなぎ合わせる感じで行こうと思うの。


 あと回路って魔力流しても光らないんだよね。魔力の過剰供給状態なら光るには光るけど、それって回路に過剰に負担かけてるってことだしあんまり良くなかったりする。


 それを解決するために【光魔石】も買う予定。これは名前のとおり、魔力流すと光る石。【光魔晶石】でも良いんだけど【光魔晶石】だと眩しいから【光魔石】のほうが都合が良かったりする。


 そもそも光らせる必要性はなんなんだよって言われると、回路の保守点検用かな。


 回路の損耗が原因で魔法使えなくなったとき、発光度合いでどこに問題を抱えているのか一目瞭然だからね。ファンタジーっぽい要素を盛り込む以外に結構重要な役割があったりする。


 そして最後の【魔視薬】は服薬すると数時間の間、魔力素が目に見えるようになる薬。


 副作用の吐き気と目眩が凄まじいけど【魔力素可視化眼鏡(マギビジョンスコープ)】造れるほどお金がない時代には結構重宝したんだよね。


 ただこの薬、≪AAO≫の一定以上の不快な感覚をシャットアウトする機能の限界値スレスレまで行ってるんじゃないかってぐらいに副作用酷いからちょっと怖いんだよね。まぁ他に手段が無いから使うしかないけどさ。


 そんな感じでいろいろ買うと百万リディスは軽く超える気がするんだよね。ちなみに≪AAO≫だと100万あれば余裕で揃うけど、この世界の物価って≪AAO≫よりも高めだし。貨幣単位も違うから何とも言えないね。


 で、素材と言えばシーチナさんだよね。

 他の素材屋知らないし。

 しかも目の前に御本人居るし。

 なら聞かない手は無いよね!


 そんなわけで聞いてみた―――――



 「ポロポロポロポロ錬金レシピ暴露するんじゃないよ!!」



 そう言ってわたしを叱りつつも教えてくれたシーチナさんの話によると1冊分の材料で大体170万リディスかかるみたいだね。


 ご都合主義にも【魔視薬】以外の素材はこのお店にあるらしいよ?

 その分のお値段で大体120万リディス。

 【魔視薬】ってやっぱ高いね。


 ……どちらにしてもお金ないんだよねぇ。

 やっぱ露店で地道に小道具作ってお金稼ぐしかないのかなぁ。

 レベリングよりもまず第一に命が大切だからね。

 万全を期せないなら冒険はしたくない。

 慎重すぎるかもしれないけど普通だと思うよ?

 わたしはラノベの主人公みたいに勇敢じゃないからね。

 自分なりにコツコツ準備して行こうと思うよ。

お読み下さりありがとうございます!

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