#1 プロローグ
・主人公視点です
ついに放送が始まったよ~。
チラッと隣に追随するライブウィンドウのコメントを確認してみた。そこに生える大草原。
うん。知ってた。いつものことだね。
よくわからないけど最初に草生やすのが流儀というかマナーらしい。
何はともあれイベント説明といきましょっか!
こちらを見下ろす自動追随型ライブカメラに体を向けたわたしは再び口を開いた。
「みんな草生やすぎだよーってゆうか無駄遣い言うな!ちなみに今日はニーナちゃんじゃなくてニナちゃんでーす!ニーナちゃんだと思った? 残念、ニナちゃんでしたっ!うん、そだよ。サブキャラサブキャラ。今日は突然だけどゲリラ企画ってことで縛りプレイやってみよーと思いまーす!これがわたしことニナちゃんのステータスです!どや~」
ん?
「どや~」
あれ?
「どや………」
あれれぇ?
どした?ウィンドウ開かないだとっ!?
これはもしかしてバグかな?
タイミング悪っ!
………恥ずかしいから滅多にやらないもう一つの方法を試してみた。
「コマンド。ステータスオープン」
「コマンド!ステータス・オープン!」
「コマンドッ!ステータス・オープンッ!」
…
………
……………
ステータスウィンドウを開く方法には二つある。
一つは今やったように特定のキーワードを声に出す方法。
冠言葉で『コマンドッ!』と叫んでからキーワードを唱えることで対応するウィンドウが出現する。
恥ずかしがって語尾の音量が下がったり気合が足りないとウィンドウは出現しない謎仕様。
で、もう一つの方法は至ってシンプル。
頭のなかで同じ内容を唱えるだけ。
ただし絶叫する必要はない。
一々叫ぶのは正直恥ずかしいからわたしは頭で唱える派だよ。だから羞恥に悶えて顔が真っ赤だよもうっ!
その結果がコレとか虚しすぎて貝になりたい。できれば帆立貝。
残念だけど変身薬は持ってきてないよ。それにそもそも≪AAO≫に帆立貝は存在しない。無念なり。
……冗談はこれぐらいにして。
ちょっとやばい状況かもしれない。
この二つの方法以外にステータスウィンドウを開く方法は存在しない。
ちなみに各種ウィンドウ共通の起動方法でもある。
つまりコレはバグだよね。
こういうときは運営に問い合わせだね!
…………。
あれ?開かないよ。
どういうこった……。
―――ってそりゃそうだよね。
全ウィンドウ共通アクションでステータスウィンドウが開かないなら他のウィンドウも開くわけ無いんだから――――当然ログアウトもできない。
あ、これ本当にやばいわ。
本当にどうしよう………。
こういうときは最後の砦、オーディエンスに頼るしか無いね。
画面の向こう側で見ているだろう人たちに状況を伝えるべく、カメラに向き直ったところでわたしは気付いた――――カメラがどこにも見当たらない。カメラ、ロスト!
……は?え?ふぁ?
さっきまであそこにあったよね!?
ってかカメラと一緒にライブウィンドウまで消えてるし!?
何か足元ジャリジャリして痛いんだけど……ってあれ?
なんで痛み感じるの?
おまけに足裏から血がにじみ出てる……。
まさかこれが噂の異世界転移ですか?
いやいや噂も何もそんな話聞いたことも無いけどね!
痛覚は法律で遮断するのがデフォだったはず。
実際≪AAO≫でも痛覚機能の実装はしないって公式が明言してるし。
そもそも無駄にリアルな≪AAO≫でも流血表現までは流石に実装してなかったはずだし。
状況的に考えて凄まじいバグの嵐か異世界転移?
いやいやいやいやどっちもありえないでしょ!?
神運営がこんな初歩的なバグ見逃すとか有り得ないし。
ハッキングもといクラッキングするにしても無理だと思うよ。
一時期IT噛ってたからにわかレベルの知識だけど≪AAO≫のセキュリティは世界で7番目に堅固らしいよ!ソースバイワタシ!
とにかくバグもクラックもありえないと思うの。
だとしたら異世界転移しか無いんだけどコレも更にありえないよね~。
まぁぶっちゃけどっちでもいいんだけどね~。
クラックだったら現実世界の体からVRHG引っこ抜いて貰えば済だけの話だし。
異世界転移だったら……死ぬ?
うん、やっぱ良くないね。
戯けてみたけど正直さっきから冷や汗が止まらない。
だってそれ以上に現在進行形でやばい問題が発生しているのだから。
―――――モザイクポーションの効果が切れそう……
さすがのわたしもモザイク無しの真の裸で出歩けるほど神経図太くないからね。
言動が女子っぽくないってたまに言われるけどこれでも女の子ですぅ。
つまり裸になったが最後、羞恥に悶えて一歩もその場から動けなくなるのが目に見えている。
ふふっ、ついにあの計画を実行に移す時が来たというわけか――――
なんて意味有りげに言ってみたけど大したことをするわけじゃない。
その辺の草を使って服を一式編むだけだよ。
ただその工程が非常に厄介。
素手の状態で草を抜けば間違いなく手が傷つくから魔法を使う。
≪AAO≫の魔法の発動方法は結構雑だったりする。
もし魔法が使えたらこんな感覚がするんだろうな~って感覚を思い浮かべながら魔法をイメージすると発動する。ね、簡単でしょ?
効果の内容と規模に応じて消費MP変わるから調子に乗ってデカイの発動させると速攻でMP切れ起こす。地味に加減が難しかったりする。
草を刈るなら水刃とか風刃でもいいんだけどMPを現象に変換する際に損失が発生するし今回は効率重視で殺傷力は要らないから魔刃でいっか。手に纏わせる感じで発動。
とにかく痛いの紛らわせるべく、わたしはひたすら考え事に集中した。
そして出来上がった草の服――――着心地は最悪だった。もし鑑定スキルが使えたならば間違いなく『売値:0 品質:最悪』とか出てきそうなレベル。
何かベタベタするよこれ……。
ゴワッとした肌触りに不規則に現れるカサカサッとした感触にさっきから鳥肌が止まらなすぎてむしろ笑えて仕方がない。あと青臭い。
さすがにレベル1の錬金術師じゃ無理だったか~。
MP足り無さ過ぎて草の質感とか調整する余裕なかったんだよね。
そもそも〈錬金術〉スキルないから全く補正掛かんないし。
臭い消すにも消臭系の魔法って地味にMP食らうから今使うとMP枯渇するかもしれないからここは我慢だよ。
あと魔法使う度に体から芯が抜けるような妙な寒気を感じたのは気のせいじゃないと思うんだ。
もしかすると本当に異世界に転移したのかもしれないね。
そう考えると死に戻りとか安直な考えは止したほうがよさそうだ。
ぶっちゃけ痛いの嫌だしね。
とにかく痛いのは避ける方針でいこう。
目標はチュト森脱出かな。
でもMP消耗したせいか何だか疲れた。
なぜかそこにあるご都合主義な切り株椅子にでも腰掛けようかな。
そんなわたしを嘲笑うかの如く一匹の狼が姿を現した――――
お読みいただきありがとうございますm(_ _)m