#14 魔導書
常設依頼と一口に言ってもいろいろあったりする。
繁殖頻度高めの魔物の討伐以外にも、薬草、キノコ、果物、鉱石、その他いろいろ自然の恵みを採取する感じの依頼だとか、未発掘資源を発見して報告する感じの依頼だとか、そこそこバリエーションがあったりする。
その中でもわたしが討伐系を熟すことにしたのはさっきも言ったけど、レベリングと金策だね。
採取系って荷物嵩張るくせして採取場所が街から遠かったりして、ぶっちゃけソロだと美味しそうには見えないんだよね。やるなら仲間集めるなり馬車買うなりするしかない。
でも仲間集めはもうちょっとレベル上げてからにしたいんだよね。万が一だけど裏切られたりして孤立するかもしれないし。
この間のサバイバルさながら食料調達出来たりギリギリ対処できる魔物しか居ないだとか逃げ切れるだとか……そんな都合のいい状況じゃない場合も多いだろうし。
そう考えると一人でも不測の事態に対処できるだけの装備とレベルを確保するまでは地道にやっていくしかないね。
案外ヴァルドさんたちのパーティに加わるのもありだけど、いずれはどこかにアトリエ構えたいんだよね。
そう考えると仲間の件も一旦保留かなぁ……。
なんか話逸れたけど、他に挙げた発見系は狙ってやるものじゃないと思うんだよね。というのも早い話、純粋に見つけるのが困難だったりする。
鉱山とか森とか行けば〝 未発掘の光る鉱床〟だとか〝 飲むと忽ち傷を癒やす魔法の水を吹き出す泉〟だとか神秘的な何かが極稀に見つかるらしいよ?
でもそういう場所って大抵、前人未到の未知な領域なわけで…魑魅魍魎の跋扈する魔境のような場所だったりすることが多いらしい。
そうでなくとも大分深いところまで潜らなきゃならないわけで準備自体に相当なお金が掛かる。それで見つからないんじゃホント笑えないよね。
だから冒険ついでに見つかれば儲けもの程度に考えるのが一般的。
他のタイプの常設依頼も似たり寄ったりだったりして、最終的にわたしの目的にマッチしたのが討伐系ってわけ。
その討伐系と言ってもやっぱり準備は必要なわけで……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、ここに来たと?」
「そうなんですよ」
「前にも言ったと思うのじゃが、ここは何でも屋じゃないのじゃぞ?」
そうだったっけ?
「この前言われたのって 〝情報屋〟だったと思うんですけど」
「やかましいわいっ!」
ふと抱いた疑問をそのまま口にしたわたしはシーチナさんから怒鳴られた。疑問って残り続けるとモヤモヤするから聞いてみただけなのに。解せぬ……。
呆れたと言わんばかりに頭を振るったシーチナさんは胡乱げにこちらを見つめると口を開いた。
「どうせ本題は別にあるのじゃろぅ?」
「さっすがシーチナさん!」
「はぁ……。無駄に煽てんでいいからさっさと話さんかい」
「はーい」
まぁ本題ざっくり言うと【魔導書】売ってるお店の場所を教えて欲しいってことかな。
【魔導書】って云うのは本のページに魔力を込めると魔法が発現する不思議な書物というか魔導具の一種。
普通に魔法を発動するのと比べて少量のMPで魔法の発動が出来るから、本職じゃない人が魔法を手軽に行使できるという利点があったりする。
強いて欠点挙げるなら、〝発動する魔法の向きが本の向きに依存する使い勝手の悪さ〝 、〝百回くらいで魔法の行使が不可となる耐久性の低さ〟、あとは〝製作難易度が異常に高い〟の3つかな。
最後の3つ目が錬金術師的に厄介だったりするんだよね。
まず≪AAO≫的には魔法と魔術は厳密には別物だったりする。
魔術は〝魔法の発動原理を解析して魔力を流すだけで誰でもその魔法を発動可能にする術のこと〟を≪AAO≫的には魔術というらしいよ?
じゃあその原理ってなんだよって聞かれるとキモは〝 魔力素の奔流〟だとわたしは思う。
生物が魔法を発動するときって大気中の魔力素濃度が上昇して魔力素の奔流が生まれたりする。
その奔流の発生源につながる魔力の細い流れを辿っていくと生物の身体の一部にたどり着くことが確認されている感じ。
シーチナさんが愛用してる【魔力素可視化眼鏡】使えば見れるんじゃないかな?
ともかく、その生物の身体の一部にも魔力素の奔流が存在するみたいで、その奔流が体外に魔力素を排出すると同時に大気中の魔力素を操作して魔法を引き起こす役割を担ってるっぽいの。
どうして魔力素に流れが生じると色んな現象が起こるのかはわたしにもさっぱりだけど、要は身体の一部に収束して発生する魔力素の流れを再現する機構を造り出せば魔法を再現できるって寸法ね。
それを再現した機構を≪AAO≫では魔術回路って呼んだりする。
まぁ基本的に魔力素の奔流って4次元データなんだよね。立体的な構造を表す3次元に時間的変化を表す情報を付け加えて、合わせて4次元。
だから魔術回路も3次元以上のデータと言えるね。
だけど時間的変化の部分は描き方次第で省略できるから実質的には3次元データとして扱える。
でも3次元って結構体積使うじゃん?
それに一部でも破損すると術式として破綻するし。
だから無理矢理2次元に落とし込む作業が必要になるわけで……その作業がすっごい細かい上に頭使うし、とにかく疲れるの。
で、2次元すると生まれるのが落書きもとい2次元平面な魔術回路。
魔術回路って聞くとすっごいカッコイイ響きだけさ、実際はパット見ただのラクガキにしか見えないのがホントに残念すぎるのが≪AAO≫。
まぁ見た目に構っていられるほど簡単じゃないから回路ビジュアルは諦めるしか無かったりする。
たまに幾何学模様も出現するけど基本的にはぐっちゃぐちゃに描き殴った子供の落書きも同然のビジュアル。
それをページ毎に魔法として収めたのが【魔導書】なわけで、あまりの見た目にプレイヤーから通称『落書き集』なんて云う碌でもない呼ばれ方してる代物。
ページ毎に異なる魔法が使えたり、複数ページ跨いで1つの魔法を記述したりするから魔法の数的に言うと『~集』って言うのは厳密には間違ってたりする場合もあるけど……。
ともかく、値段的にお金のかかる消耗品だけど強力な魔法をローコストで扱えるとあって中盤以降のプレイヤーなら切り札程度に持ってることが割と多かったりする。
そんなわけで【魔導書】は地味に出来る子なんだよ?
だから緊急時用に1冊持っておきたいって感じかな。
あとついでに、この世界に【魔導書】が存在するかの確認も込めてシーチナさんのところに来た感じ。
単刀直入に聞いてみたよ。そしたら――――
「商業街に行けばよかろう」
「商業街?」
「やれやれ……まずそこからかのぅ―――――」
商業街というのは貴族街を取り巻く店舗乱立地帯のことを指すみたいだね。その南南東の半ば辺りに魔導具専門店が幾つかあるみたい。そこに行けば売ってるかもしれないらしい。
わたしが差し出した謎紙に街の外形ざっくり描いて中心部に貴族街を表す楕円をざっくり描き出して、その外の右下あたりを丸で囲って教えてくれたよ。
わたしは二言三言お礼混じりに別れの挨拶して、早速、魔導具専門店へと向かうことにした―――――
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