#13 黒の討伐依頼書
翌朝、わたしの姿は冒険者ギルド二階の一角にあった。
目の前の大壁に備え付けられた掲示板には幾つもの魔物討伐依頼書が木の杭により留められていた。
木の杭と言っても無骨にぶっ刺さっているわけではなく、予め設けられた斜め下向き円錐型の縦穴に通すよう依頼書を貫く感じで刺されているね。
だから依頼書自体の並びも縦横きれいに整列されていたりして、なんかコレジャナイ感が半端なかったりする。
冒険者ギルドってさ、こう…荒くれ者の巣窟というかなんというか…とにかく乱暴で粗忽ってイメージがあったからさ、わたしの抱いてたイメージとの乖離が結構ある。
まぁそれはともかく、わたしはこれから依頼を受けようと思ってるの。
何のためにって?
簡単に言えばレベリングと金策かな。
錬金術って案外MPの消耗が激しいんだよね。特に有属性の魔晶石つくるときなんか属性魔法使う関係でMP消費が半端ない。
基本的に≪AAO≫ではどの職業も魔法は使えるには使えるけど、魔法使い系の本職と比べると、補助スキルとかジョブ特性とかのアシストが碌につかないから要求MPが馬鹿みたいに多かったりする。
特に属性魔法はその影響をもろに受ける。無属性魔法の本質は魔力操作。だけど有属性魔法って無属性の魔力素に何かしら働きかけて属性付与してるっぽい。
その際の変換効率にロスがあるのか、無属性魔法と同等のMP込めた属性魔法って威力がガタ落ちするんだよね。
そんなわけで属性魔法は無属性魔法の数倍ものMPが必要になるってわけ。
わたしの錬金術ってしばしば魔晶石使うからさ、その影響が直に来るんだよね。だからレベル上げて最大MP上げとかないと高位のアイテム造れなかったりする。
別に個人的な趣味で作る分には問題ないよ?
でもわたしの目指す錬金術師は、錬金アイテムでみんなを笑顔にできる錬金術師。
みんなっていうのが何人何十何百何千何万人…どれくらいかは判らないけどとにかくたくさん。たくさん笑顔に出来ればいいなって思うの。つまり錬金アイテムもたくさん作る必要が出てくる。
だとすれば今のMPって正直心もとないどころか全然足りないんだよね…。
あと錬金アイテムに必要な素材って結構高いじゃん? だから材料買うためのお金も稼がないといけなかったりする。
そもそも素材が市場に出回ってないってパターンも有り得そうだし。そうなると自分で採りに行くしかなくなるんだよね。
というかあまりに高いと金持ちしか買えないからわたしの夢は叶わない。だから結局、自分で採りに行く必要がどこかで出てくるってわけ。
そうなるとやっぱレベリングしないとダメなんだよね~。
レベルカンストさせられれば一番なんだけど≪AAO≫時代のわたしってさ、よくよく考えると結構危ない橋渡ってきた気がするんだよね。
貧弱・非力・紙装甲の代名詞で悪名高い錬金術師で最前線凸りまくってたし。それで指で数える程度には死にまくったし。装備全損して死にかけたのもカウントすれば数百は優に超えるね。
有り体に言えば無鉄砲。当時はリアルな方のお金も稼がないといけないプレッシャーもあったからガムシャラだったんだと思うよ。
まぁそんな感じで突き進んだ果てに辿り着いたのがレベル1000――――その頂きに4年半で上り詰めるには9回死なないとダメだったってわけ。
文字通り、死線の真上を渡るつもりで挑まなければレベルカンストなんて絶対不可能な領域。
そんな領域に行こうとするなら命一つじゃ全然足りないわけで…この世界でソレを目指すなんて現実的じゃないね。
――――だからレベルカンストについてはきっぱり諦めることにするよ。
でもせめて〈錬金術〉で物体からピンポイントで物質を抽出できる実用的なレベルとされてる250レベルにはなりたい。
結局レベリングからは逃れられない運命ってやつだね。
そんなわけでお金も稼げてレベリングも出来る方法って考えたら冒険者ギルドの討伐依頼ってことになる。
で、目の前に貼られた色とりどりな依頼書が貼られた場所に来たってわけ。
―――――せっかくだからわたしはこの赤の依頼書を選ぶよ!
脈絡もなく頭に浮かんだ謎のフレーズを手がかりに手にとった黒色の紙にはこう書かれていた。
階級指定:『黒級』以上
内容:ウィスカル北西に聳え立つペタラ鉱山頂上を突如占領した双頭飛翼氷竜の番の討伐を求む。ただし、近隣に存在する希少食材ミャタピャタ草の群生地帯の消失を以って依頼失敗と見做す。注意されたし。
期日等:ミャタピャタ草群生地帯が残存するか達成されるまでの間、本依頼は有効とする。
報酬:5000000リディス
備考:依頼失敗時に課せられるペナルティにおいて違約金は発生しないものとする。
≪AAO≫にもそんな名前の魔物が居た気がするよ。確かレベルが350ぐらいの頭二つある氷属性なドラゴンだったはず。
≪AAO≫の双頭系モンスターって基本的に双頭共に同性だから番となると同じ魔物が二匹出てくるってことになる。おまけに番は片方斃すともう片方が発狂して凶暴化するからすっごく厄介。
それで5000000リディス……五百万だから虹貨5枚?ってたったの5枚とか成果に見合わないんじゃないかな? それともゼロが1個抜けてるとか。それか討伐して得られる素材を売った額を考慮してケチッてるとか。
まぁどっちにしてもわたしには不相応な依頼だということに変わりないね。
そんなわけでわたしはそっと手に掴んだばかりの依頼書を元の位置へと貼り直したのだった――――――
え、さっさと依頼受けろって?
受ける受ける。
もちろん受けるよ?
でもさ、鉄級で受けられる依頼って常設依頼以外ないんだよね。
常設依頼っていうのは書いて字が如く、常に受けられる依頼ってやつ。
依頼書剥がして持っていかなくても討伐証明部位さえ提出すればOKなアレ。
まぁギルドの信頼に関わる依頼をぽっと出の新人に任せるなんてまずしないよね。
じゃあなんでお前はここにいるんだよって?
ただ興味本位で見に来ただけだよ?
お読み下さりありがとうございます!