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#10 錬金術師の銃

 二日後―――――


 わたしの目の前に聳える木扉。

 2m程度の変哲のない普通の扉。

 聳え立つって言うと壮大に聞こえるよね。

 言葉ってホント不思議。


 それはさておき…この先に冒険者ギルドの長がいらっしゃると受付嬢が言っていた。というか部屋すぐ前まで案内されたよ。


 ギルド長って言ったけど正確には冒険者ギルドという組織全体の頂点ってわけではなく、あくまでウィスカル支部長のことを街では略してギルド長って呼ぶらしい。


 反対に外の街でこの街のギルド長を指す場合は冒険者ギルド・ウィスカル支部長と言い換えわなければならない。


 なぜこんなこと知っているかと言うと冒険者ギルドに加入するからに決まってるじゃん?


 自分の意志で入ろうと志す組織なんだから事前リサーチは当然だとわたしは思うの。


 仮にわたしが人事採用担当やるとして自分の会社について何も知らない人間を採用しようだなんてまず有り得ないからね。


 知らない、つまり興味ないのに何でうちを選んだの?ってなるし。意欲を感じられない人を雇ったところで生産性あるかすら怪しいし不採用だね。


 だから入るからにはきちんと相手のことについて最低限の知識は集めておかなければならないってわけ。面接で聞かれるかもだしね。


 その中で意外だったのがギルド長って貴族だったという事実。


 確か冒険爵と言うらしいよ?


 国土調査、未発掘資源の開拓、魔物素材による経済の活性化、民事レベルの問題への迅速対応などなどを主に取り扱う組織らしい。


 冒険者自体は貴族でもなく家臣扱いされることもないけれど場合によっては冒険爵の指揮下に加わることが義務付けられているらしい。。


 まぁ場合と言っても街に余程の危機が迫らない限り強権発動なんてほぼ無いと考えても問題ないみたいだね。


 それにあまりに理不尽な命令ならば冒険者同士で署名募って国へ提出することでギルド長をその座から引きずり落とすことも可能みたいだし。


 ぶっちゃけ深く考える必要はあんまりなかったりする。


 ではなぜわたしはこんなことを考えているのか?


 一言で言えばめっちゃ緊張しているからだよ。


 とにかくめちゃくちゃ緊張しているんだよね。

 面接なんて何年ぶりだろ?

 高校入試の時以来?

 それともアルバイトの面接以来?

 いつ受けたかも覚えていない。

 でもひたすら緊張したことだけは覚えてるよ。


 落ちたらどうしようという不安な気持ちの現れなのか何なのかさっぱりだけど、不思議と面接って緊張するんだよね。ホントなんでだろ?


 まぁいつまでも扉の前に突っ立ってるわけにもいかないからさ、覚悟を決めて入ることにするよ。


 いざ参るよ―――――




 コンコンコン。



 「開いてるぞ。さっさと入ってこい」


 「失礼します」



 扉の裏。そのすぐ傍に居るような距離感で男の低い声が響いてきた。


 いつまでもやってこないわたしに痺れを切らして御本人が自ら開けにやってきたってパターンかな。だとすると既にやらかした後かもしれない。詰んだかも……。


 バクバク脈打つ心拍音をBGMに扉を開けると――――――



 「どりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」



 その直後、大気を震わす覇気の籠もった大男の咆哮と共に重く鋭い戦斧の一撃が頭上前方より振り迫ってきた。


 これが噂の圧迫面接(物理)ってやつなのかな?


 ともあれ迫り来る攻撃にわたしの意識は戦闘モードへと移り変わった。そのおかげか取り乱しまくっていた精神状態が冷静なそれへと変わったよ。


 つまり平常心を取り戻したわたしは反射的に素早く斜め後ろへバックステップすることで斬撃を回避した。


 そのついでに懐から鈍い虹色を湛えた拳銃を取り出し、襲撃者の額へと標準を合わせる。

 


 「やるじゃねぇか」



 そう一言、黒服姿の大男はニヤリと告げた。


 つまりアレだね。

 圧迫しつつも過剰な緊張を解きほぐす心遣いってやつ?

 いやはやギルド長の思いやりには痛み入るよね。



 ん?

 この銃は何なんだって?

 【魔晶銃】っていう銃だよ?


 前にも言ったかもだけど、複属性の魔晶石作るときって無理矢理合成すると爆発するんだよね。


 まず前提知識として、魔物の体内で生成される謎物質を媒体に魔力素が物質化したのが魔晶石ね。


 で、反発し合う異なる有属性魔力素同士を強引に結合すると凄まじい熱量が生じる。


 その熱量に耐えられなくなった謎物質が気化すると、体積が瞬間的に何百倍にも膨れ上がる。それで起こるのが爆発現象。


 ―――――このメカニズムを用いて弾を射出するのが【魔晶銃】だったりする。


 もちろん現実世界で銃なんて造ったことはないからね?

 ホントホント。

 嘘じゃないから。

 どもってるように聞こえるかもだけどホントだからね?

 せいぜい作り方を調べただけ。


 だって錬金術師って体力筋力貧弱じゃん?

 レベルアップ毎に1しか増えないし。

 物防だってほとんど増えないし。

 近距離戦とか無謀じゃん?


 だから≪AAO≫始めて半ばの頃のわたしは遠距離攻撃手段の模索に走ったってわけ。


 その一つが銃ってわけね。


 今回造った【魔晶銃】は拳銃型。≪AAO≫での錬金知識がどこまで適用されるのか調べるために造った試作機って感じかな。


 一応、街の外で動作確認は実施済みだよ?

 ≪AAO≫のときと同威力の効果が見られたよ。

 ただ一つ問題がある。

 有り体に言えば目立つんだよねコレ。

 虹色だし。艶消ししても何故か仄かに発光するし。


 なんで虹色なのかというと実はこの銃、弾丸除く全パーツが七属性の魔晶石で出来ていたりする。


 基本的に強引な魔晶石錬成による爆発に耐えられる素材って割とお金掛かるんだよね。この前稼いだ30万リディスなんて軽く吹っ飛ぶくらいにかかる。


 苦肉の策として選んだのが複属性の魔晶石ってわけ。


 魔晶石って属性数が増えるに連れて硬度と出力が増加する性質を持ってるからね。それ使ってどうにかしたわけ。


 衝撃?

 それは撃ち方次第でどうにか出来るから保留にしたよ。


 まぁ構造的に魔晶石を錬成しないと弾が射出できないから、実質的に錬金術師しか扱えない武器だったりする。


 それで≪AAO≫界隈では【魔晶銃】よりも『錬金術師の銃』って呼び名の方が有名なんだよね。

 

 プレイヤーメイドのアイテムは基本的に無名かつ1回に限って命名できる。


 だから製作者のわたしは【魔晶銃】って名前つけたんだけどさ、みんなして『錬金術師の銃』のほうが厨二チックでカッコイイって言うんだよね。


 まぁネーミングセンスないことは今に始まったことじゃないし?


 ぶっちゃけ諦めたよ。



 ところで面接はどうなったんだよって思うかもだけど、何もなかったかのように普通に始まったんだよね。


 何が始まったのかと言うと普通の面接。

 普通過ぎて普通に緊張しまくっている状態。


 さっきまで砕けた口調だったギルド長が改まった言葉遣いをし始めたのも原因だね。場の空気が醸成されるというか、それに流される感じ?


 まぁ………



 ――――自己紹介をお願いします。


 ――――今までの経歴とそこで苦労したこと学んだことなどを教えて下さい。


 ――――転移事故?それは災難でしたね。その原因と対応策について貴方なりの考察を述べて下さい。



 などなどなど。


 

 どこかで曖昧なこと言ったりすると重箱の隅を突くかの如く質問が飛んでくるわ飛んでくるわで既にあわあわ状態なんだよね。


 そういうときって、ほんの一瞬だけ、どうでもいいこと考えると良い回答が頭に浮かんでくるんだよね~。


 え、それはおかしいって?

 そうですか。さいですか。


 ともあれバトルジャンキーってわけでもないけどさ、戦闘以外だと基本的に緊張耐性ないんだよねわたし。


 だからこうして緊張を紛らわすべく色々思考を巡らせてるってわけ。


 聞かれては答えていきを繰り返すこと早12答。ついに最後の質問らしい。

 


 「では最後に風変わりなことを尋ねます」



 「今、この部屋の状況は組織の者によって監視されているとします」



 「ここで問題です。果たして何人がこの部屋を監視しているのでしょう?」



 なんか見えないのに部屋の壁の裏とか天井とか気配がビンビンするとは思ってたけどホントにいるとはびっくりだよ。


 右の壁裏に一人。

 左の絵画の裏に一人。

 ギルド長のソファの下に一人。

 わたしの足元にも一人。

 一応拳銃付きつけるポーズはさっきからやってる。

 気色悪いし。

 あとは天井に5人かな。


 果たして答えは―――――



 「どうでしょう?」


 「どうでしょうね?」



 そう言ってニヤリと笑う黒服姿のギルド長。どっからどう見ても危ない人にしか見えないです。はい。


 ってか面接終わっても結局人数を教えてもらうことは出来なかったよ。


 こういうのって後々気になって微妙にモヤモヤするんだよね……。



お読み下さりありがとうございます!

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