#4 警鐘台
「い、いらっしゃいませ?」
宿屋に入って早々、困惑気味な声音の挨拶もらったよ。
ここ?
『仔山羊の宴亭』って名前の宿屋らしいよ?
2階建ての大きな宿屋。
シーチナさんに「安くてご飯おいしい宿屋どこ?」って聞いたらココがオススメって教えてくれたの。子山羊の肉を使った料理が名物らしい。
朝夜2食つきで1泊金貨2枚からと他の宿屋と比べれば少し高めだったりする。だけど久しぶりの人里で人心地つけることだし偶には贅沢もありだよね。
それと冒険者ギルドの一次試験って地味に準備が必要じゃん?
どうせ時間かかるならのんびりしたいってのが本音かな。
というのもさ、殺伐としたサバイバル生活で意外と精神すり減らしてたっぽいんだよね。
そのせいか、さっきから無性に無気力感に苛まれてて半端ない。
何もせずボーっとしていたい感じっていうのかな?
たぶん寝れば治るやつ。
いわゆる燃え尽きたぜ的な?
正直わたしも久々過ぎてよく分からないんだよねこの状態。
ともかく美味しいご飯たくさん食べて寝て英気を養うことが大切なのだよ!
「朝食は1の鐘から2の鐘の間、夕食は4の鐘から5の鐘の間までとなりますのでお気をつけ下さい」
「わたし遠い街から来た者でして、できれば鐘について説明してもらえると―――――」
そういうと看板娘の茶髪少女は懇切丁寧に鐘について教えてくれた。
なんかこの街には警鐘台があるらしい。台と言っておきながら時計台のような高さもある塔だったりする。
で、元は街の直ぐ傍まで『魔物氾濫』などの大きな危機的状況が迫ったことを迅速に伝えるために造られたのが警鐘台。
だけどそんな状況が滅多に起こるわけもなく使われず埃被って放置されてたらしい。
さすがにそのまま眠らせたままにするのは勿体無いよねってことで数年前から鐘で時刻を報せるサービスが始まったらしい。
基本的に時計製作には非常に高い技術力と専門知識が必要だから技術料とか希少価値が相まってすっごい高い。とてもじゃないけど庶民の手に届く代物じゃないっぽいね。
だから待ち合わせする時って「山の頂に太陽が乗っかったら~」とか「太陽が真上に来たら~」とか「日が暮れ始めたら~」とか結構アバウトだったらしいよ?
だけど鐘サービスが始まってからは以前よりも多少細かい時間の取り決め可能になったことで、長く待たされたりとか時間制サービスで難癖つけられたりとか、とかく時間に纏わるトラブルが減ったみたい。
主に宿屋とか商売人たちが恩恵を受けてるっぽいね。あとは聞いてないから知らない。
それで鐘は朝の6時に鳴るものを1の鐘。そこから3時間毎に2の鐘、3の鐘…と言った感じでカウントして、夜の9時まで続くらしい。
つまり『仔山羊の宴亭』では午前6~9時に朝食、午後3~6時に夕食が提供されるってことだね。
街に来てから一度も鐘の音なんて聞いてないから今の時刻は12時~15時の間ぐらいかな?どちらかというとそろそろ15時近くかもしれない。
まぁどうせ今日は宿屋で引き篭もるつもりだし関係ないけどね。
「とりあえず5泊分でお願いします」
「かしこまりました」
5日分、金貨10枚と引き換えに鍵を貰ったわたしは自分の部屋へと階段を登っていった―――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれだね。
無気力なときってホント何にも捗らないよね。
いまさ、ウサギの着包みバラしてるんだけどさ、気づけばもう夜になっちゃったよ。
2時間ぐらいで終わる作業のはずなんだけど倍以上掛かった感じ。
でもまぁ、脚部・胴体上下・腕に分割して、頭部のフードやらお尻の尻尾を除去する作業は無事に終わったよ。
あとは〈錬金術〉で質感とか整えて革鎧っぽい見た目にすれば漸くウサギ姿からオサラバだよ。
ちなみに料理はミュエリちゃんがわざわざわたしの部屋まで運んできてくれたよ。あ、ミュエリちゃんは1階ロビーで受付やってる茶髪の看板娘の名前ね。
今日は残念なことに仔山羊肉料理じゃない日だったらしい。
献立は黒パンにシチュー、あとパパイアが青くなったような不思議な果実のセットだったよ。
内容だけ聞くと質素に聞こえるけど量だけはひたすら多かった。
私の頭部くらいもある黒パンに鍋ごと出されたシチューのインパクトが凄まじく正に豪快の一言に尽きるね。
あと肝心の謎パパイアはまんまパパイアの味だったよ。
え、味についてもっと語れと?
いやいやいや無理だから。
前にも言ったけどわたしグルレポの才能皆無だからね?
黒パンなんて見た目に反して柔らかくシチューに付けるとシチューが染み込んで味わい深かったとか小学生並みの感想しか言えないし。言ってて虚しくなるし。もうこの話は終わりっ!
そんな感じで遅めの夕食を食べたわたしはウサ皮装備の最終調整へと取り掛かった――――――
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