#1 プロローグ
「ウィスカルってもしかして王都だったりする?」
「いいや、どこにでもある普通の街だが?」
「そうなんですか」
眼前遠方に広がるは弧を描くように建造された延々と広がる巨大な石壁。≪AAO≫でも類を見ない程ひたすら高く横長い外壁は城壁と言っても過言ではなく、街を治める領主の権力の片鱗を目の当たりにした気がした。
「他の街もあんな感じ?」
「そうですわよ。この国リディスエールは――――――」
リシェーネさんって元お貴族だったりするのかな?
街につくまでの間、わたしの今居る国の成り立ちから近年の情勢に至るまで懇切丁寧に教えてくれたよ。
正直政治の話とかわたしすっごく苦手だからほとんど聞き流してしまったりした。リシェーネさんには悪いけどさ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
漸く辿り着いたウィスカルの街、南門前―――――
わたしたちは今、門前に建てられた、『入街案内所』という建物の中に居る。
「ヴァルド無事だったか!」
「当たり前だろ?」
そう言ってニシシと互いに笑みを浮かべるヴァルドさんと鉄の鎧を纏った中年兵士。
【黄昏の果て】一行はこの街を拠点に活動する冒険者らしく、門前を管理する兵士たちとは軽口叩けるほどの仲らしい。
「いつものアレをもらいにきた」
「了解した」
ヴァルドさんは懐から金貨5枚…5000リディスを兵士に渡すと「少し待ってろ」と兵士は告げ、隣の部屋へと続く扉の鍵を開けて奥へと姿を晦ました。
「アレって?」
「入街許可証だ」
街に入る時は門の傍で控えている兵に入街許可証を渡すことで入れるらしい。
なんでも当初は門前兵士がお金を直に受け取っていたらしいけど、横領する者が跡を絶たなかったみたいだよ?
門兵って日替わり制で毎日人が変わるから悪事を暴くのにも一苦労みたい。
だから入街許可証関連を専門に取り扱う部署というか専任者を新たに設けることで責任と権限の所在の明確化を図ったらしい。
地味に面倒だけど仕方がないよね。
横領するヤツが居るんだから。
毎回お金払うのも面倒だけど。
もっといい方法ありそうな気もするけど、わたしそういうの考えるの得意じゃないし考えたところで採用されるわけでもないから気にすることでも無いかな。それも含めて政治家の仕事だしね。
少なくともこの国では国民ですら無いわたしが考えたところで無駄だったりするし。
で、ヴァルドさんの謎のジェスチャー。
「その手はなんですか?」
「金貨くれ」
そう一言告げるヴァルドさんはわたしに手を差し出すポーズをやめる気配がない。
時折言葉足らずで何言ってるか解らない多いけど、今回は状況から辛うじて判ったよ。要するに入街許可証代を要求してるんだと思う。
なーんだ。
てっきり奢ってくれたのかと思っちゃったよ。
一々兵士が行ったり来たりするのは大変だからと一括で支払った形のようだね。
だから素直に金貨1枚わたすことにしたよ。【黄昏の果て】に入ったわけでもないし当然と言えば当然だしね。お金に関する事柄はきちんと線引しておかないとトラブルの元だしさ。
再び隣室の扉が開かれると何やら金文字が刻印された棒状の黒曜石を5つ抱えた兵士の人が現れた。それを近くの机に置いた兵士さんはヴァルドさんへ受け取るよう告げた。
みんな1つずつ手に取り、懐にしまう。
「ところでヴァルド、そこのウサギ?は新しいメンバーなのか?」
「いや、道中で知り合った命の恩人だ」
またもヴァルドさんが意味不明なことを言い出したのでわたしが必至で否定すると「ヴァルドも冗談言えるようになったか」と感慨深く呟く兵士さん。余計に訳のわからない状況になったよ。ホントどゆこと……?
お読み下さりありがとうございます!