幕間
ガサゴソ……
ガサゴソ……
「嬢ちゃんどうした?」
「ちょっとお花を摘みに行ってきます」
「ああ、気をつけろよ」
「はーい」
ヴァルドさんに軽く返事したわたしは一人、最寄りの茂みの中へと入っていった。
今?
深夜だよ?
夕暮れからあっという間に夜になったよ。
夕食はあんまり美味しくなかった。
何せ食糧自体がほとんど無いからね~。
残ってるものって日持ちする乾物ばっかり。
それも微妙に獣臭い干し肉に無駄に硬い黒いパン。
芋を棒状に練って乾燥させたような何か。
etc...。
バリエーションだけ矢鱈と多かったよ。
そして全部【黄昏の果て】からのお裾分けだったりする。
みんな曰く、【氷晶の洋杯】造ってもらったお礼とかどうとか。
それで色々食べさせてくれたけど、何だか申し訳ない気分になったわたしはストロベリーっぽい何かを見つけて謎の甘酸っぱいジュースを振舞うことにしたよ。
前も同じ果物使ったジュース飲んでるから安全は確認済みだったりする。なんて名前なんだろうね?
「【チュトルヴェリュの実】ですわよ」
【チュトルヴェリュ】って言うらしい。
地味に舌噛みそうな上に覚えにくい名前だね。
頭の中ではストロベリーって呼ぶことにするよ。
見た目も味も同じだし。
あとついでにドライフルーツも作ってみたよ。
板状にした【闇魔晶石】の上に果物置いて、1時間ほど熱魔法で熱するだけの簡単レシピ。
ただ、そのままやると中々水分飛ばないから乾燥魔法も併用したよ。
まぁ電子レンジでドライフルーツ作るときと同じ要領だね。
料理も含めて何かを造るのって結構好きだよ?
アレンジ次第で味も色々楽しめるし。
そんな感じで夕食を終えた後、すぐさま寝るってわけでもなく、わたしは見張り番することになったよ。
正確には、わたし、エリンちゃん、リシェーネさんの三人組。
比較的、森より魔物が少ないとはいえ、出ることには違いない。あと稀に盗賊。だからみんなして寝るなんて愚の骨頂だから普通は見張りを立てるのが基本だね。
といいつつも、何事もなく夜の見張りを終えたわたしは一旦眠りに就いたんだけど何故かすぐ目が覚めちゃって考え事に耽ってしまった。
そしてふと、あることを思い出したわたしは早速実験したくなって人気のない場所に向かったってわけ。
何をやるかって?
ニーナちゃんのインベントリにアクセスしてみようと思うの。
≪AAO≫の七不思議の1つ―――――空間魔法の使い方次第で同アカウント別キャラの所有するインベントリへなぜかアクセスできる謎。
ニーナちゃんからニナちゃんに【モザイクポーション】渡した方法も実はこの七不思議仕様によるものだったりする。
この不思議のこと知らない人からしてみれば、わざわざゲリラ放送のためだけにチュートリアルマップ出て、マイハウス経由で【モザイクポーション】受け取って、再び森に戻ってきて、如何にも凄く手間が掛かっているように見えるけど、実はそういうわけではないのだよ~。
MPさえ足りれば相互に互いのインベントリへアクセスできる。
つまり、もしニーナちゃんのインベントリへアクセスできたなら、ここが≪AAO≫の中である可能性が再浮上することになる。
まぁここが異世界だってことは確定なんだけどさ……心の何処かでは、ここは≪AAO≫の中なんじゃないのかって未だに思ってるんだよね。きっと。
無意識だろうと何だろうと≪AAO≫に居る感覚が残っているのなら、その思いや考えを徹底的に潰しておくべきだと思うの。そうしないといつか致命的な状況に陥る気がしてならないの。
それがどんな形となって現れるかすら判らないから余計に不安を煽る。だから何も起こる気配がない今、決められるうちに覚悟を決めておかないと不味い気がするの。
そんなわけで、ニーナちゃんのインベントリ空間につなぐイメージと共に空間魔法を発動させたわたしは何もない虚空へと手を突っ込んだ――――――
「痛っ!」
思いっきし手を打った。
すっごい痛い。
突っ込んだ先にあったのは見えない壁だった。
空間魔法に失敗したときに起こる現象の一つだねコレ。
つまりここが≪AAO≫である可能性は潰えたのだった。
心の何処かで支えていた何かが取れてスッキリしたわたしはその後ぐっすり眠ることができた――――――
お読み下さりありがとうございます!
思ったより短かったため次話から第二章へ行きます!