#20 エピローグ
2017/03/15 0:42
・活動報告を更新しました。
「この森って道あったんですか……」
「そりゃあるだろ?」
「マジですか」
ヴァルドさんたちと再会して10日目―――――
【黄昏の果て】とわたしの目の前に馬車が二台ほど通れそうな広さの道が出現した。獣道ってわけではなく、地を均し固めて草木を除去した、明らかに人の手が加わった道である。
なんだかんだ歩いてきた道って泥濘んでたり草が一々絡みついたり石ころゴロゴロ足場が悪かったりして地味に歩き辛いかったんだよね。
だから漸く悪路から解放されるばかりか街にも辿り着けるんだって思うと何だか感慨深いものが込み上げてくるね。
「この道の先にウィスカルの街があるのですね―――――」
沁み沁みとそう呟くわたしにヴァルドさんから申し訳なさそうな声音で言葉が掛けられた。
「………嬢ちゃん、耽けってるとこ悪いが指してる方向逆だぞ?」
「え」
「あひゃひゃひゃひゃ腹いてグフォッ!?」
気を取り直してわたしたちはウィスカルへと続く道を進行中だよ。
この森って結構広いじゃん?
魔物もたくさん潜んでるし。
だからと言って迂回すると結構時間かかる。それだと効率悪いってことで森の比較的浅いところに道が造られたらしいよ?
つまりこの道を歩いていけば、後数時間で森の外へ出られるってことらしい。
スカルト?
エリンちゃんの肘打ちストライクのダメージが抜け切っていないのか、今も歩きながら悶てるよ?
もちろん自業自得だから回復なんてしてあげないよ?
現実問題、そろそろ森を抜けるのか、月光草を始めとするMP回復系の草花を見かけることがほとんど無いんだよね。ついでに言うと、回復薬も底尽きかけていたりする。だからこんな下らないことにMP無駄遣いしたくない。
あと最近エリンちゃんに懐かれまくってるんだよね。
なんでだろ?
もしかしてウサギの着包み効果かな?
こう、マスコットキャラ的な?
そして脱いだが最後、以前の獣エリンちゃんに逆戻りとか?
ナニソレ怖い。
毒矢も数本残ってるし掠っただけでもシャレにならないんだけど……。
万が一があったらホントにやばいので聞いてみた。
「そんなことしないもん。」
恐る恐る聞いてみたわたしにほっぺを膨らませて拗ねてますアピールをするエリンちゃん。
よくわからないけど一瞬キュンってなったよ。
素直に言わせてもらうと、何この子可愛いって思ったよ。
これがエルフ萌えってやつなのかな。
え、違うって?
じゃあツンデレってやつかな?
え、それも違うと。
そうですか。さいですか。
本人に聞いたほうが早いかもしれないね。
デレまくりの今ならば簡単に答えてくれるかもね。
「ダメ。秘密だもん。」
秘密らしい。
案外この子、強情だね。
分からないけど気になることって、そのまま放置するとなんかモヤモヤするよね。その感覚ってあんまり好きじゃかったりする。
だからこの謎どうにかして暴きたいんだけど今のところ手立てがないんだよね。正に回復不可のおそろしい精神状態異常だよ。ぐぬぬ………。
ぐぬぬぐぬぬ一人勝手に唸っていると何かを思い出したのかリシェーネさんから疑問の声が上がった。
「ところでニナ、あなたって何歳なのかしら?」
「えっと、21ですけど」
「本当ですの?」
「ウッソだぁ~」
「嬢ちゃんも冗談言うんだな」
「………」
「いやいやいやホントだってば!?」
エリンちゃんを除いた3人から如何にも胡散臭そうな目で見られた。どちらかというと、背伸びする子供を宥めるような眼差しに近い。なんでだろ?
いくらニナちゃんが元の世界のわたしの2Pカラーだからと言っても金髪だし? ここ欧米じゃないし? 日本の女子が若く見られる法則なんて当て嵌まらないと思うんだけどなぁ。
まぁ若く見られるってことは普通に嬉しいからね。
誰もわたしの年齢信じないならこの際、年齢詐称しちゃうのもありかもしれない。
うん。そうしよう。
若いといろいろ得すること多いしね。
お言葉に甘えて年を偽ることにするよ。
15歳ぐらいがいいかな。
下げすぎても逆に怪しまれるしね。
というわけで偽ってみたよ。
「ワタシホントワ15サイデース」
「やっぱりね」
「とか言ってぇ~本当は10歳なんじゃゴフォッ――――――」
リシェーネさんの容赦ない杖捌きを見事に食らったスカルトは物言わぬ屍と化した。
ああ、スカルトよ。
君のことは忘れないよ。
年のことで女性を弄ぶなんて万死に値するからね。
敢えて地雷を踏んでいくスタイル、意外とわたしは嫌いじゃなかったよ。
またどこかで会えるといいね。
ってことで、さよなら~。
「ちょ、みんな、オレっちを置いていかないでくれよぉ~」
スカルトの情けない声が木霊した――――――
夕暮れ時、ついにわたしたちはチュトリアス大森林の外へと抜けた。
その先に続くのは草原を分かつ舗装された平らな道。ここからじゃ、まだまだウィスカルの街は見渡せない。でも後ろの森と比べれば、命の危機は去ったと言っても問題ないよね。
漸くやばい森から出られたことに安堵しているとリシェーネさんから声が掛かった。
「ニナ、うれしそうにしてどうかしたの?」
「そういうリシェーネさんこそ、頬がゆるんでいますよ?」
「そう、かしら?」
本人は誤魔化しているつもりみたいだけど横に広がる口許が心持ち嬉しそうだ。というか一同揃ってホッとした表情を浮かべていたりする。
何ともなしに互いに互いを見やったわたしたちは誰ともなく、くすりと笑いを零した。そして誰ひとり欠けること無く森から脱出できたことを静かに喜びあった。
なにせまだ、ここは外だから。
歓声を上げるほど気を緩めるわけにはいかない。
いついかなる時でも不測の事態に対応できなくちゃ冒険者として生きていけないからね。
それ故の静寂だよ?
そんなわけで、わたしたちは真っ直ぐ続く先のまだ見えぬ長い長い道へと足を踏み込んだ―――――――
お読み下さりありがとうございます!
これにて第1章完結です!
1~2話ほど幕間挟んで第2章へ行きたいと思います。