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#19 氷晶の洋杯

 フクロウの鳴き声が聞こえると何だか夜って感じがするよね。

 そういう今の時刻はホントに夜。


 あれから怒涛のゴブリンアシュラル狩りが幾度となく繰り広げられて気づけばあっという間に夜になってた。


 毒の効果?


 わたしもみんなもドン引きだったね。


 なるべく即効性のある強力な毒が含まれる植物いろいろ配合してみたけどさ。刺さったと途端に片膝付いて吐血して、抵抗なしにそのまま倒れるとか効き過ぎてびっくりしたよ。

 

 矢の軌跡上付近に居たスカルトが青ざめて口パクパクしてて面白かったよ?


 狩りに狩りまくって只今真っ暗。

 焚き火を囲んで皆で狼肉食べてる感じ。


 魔物が偏ったあとって霧のように魔物が消えるわけでもなく、そのまま残存するらしい。どこから湧いてきてるのか謎だけど、命果てるまでは同種の生物と同じように活動するらしいよ?


 そんなわけで食料調達も案外楽だったりする。


 ゴブリンアシュラルの肉?


 いやいやいやいやさすがにあれはないわ~。


 人型生物の肉とか食べることは≪AAO≫でネタ放送時にやったから意外といける。ゲテモノ料理食べてる感じ。


 問題なのは体内に残っているかもしれない毒のほう。あんな光景見た後でその肉食べたいなんてどんだけチャレンジャーなんだよってツッコみたくなるね。


 解毒魔法も無くはないけど万が一を思うと怖くて試す気にはなれないね。安全マージン取って満了一致で肉は破棄もとい焼却することにしたよ。


 ちなみに装備はそのまま残った。ただすっごい重くて持ち運ぶのは時間の無駄ってことで武具の類も放棄したよ。


 結局回収したのは燃えて残った魔晶石だけだったよ。


 そんな感じで串に刺さった狼肉を貪りながら状況整理しているとスカルトから声が掛かった。



 「ニナちゃん何だかオレっちにだけ冷たくないっすか?」


 「疲れたからって平気で人にヘイト押し付けるような人に優しく出来るほどわたし、聖人じゃありませんので」


 「オレっちが悪かったから許してくれっすよ~」


 「とか言ってまたやったじゃないですか。わたし、命に関わる嘘付く人、大嫌いなんで」


 「そんな~」



 わたしの言葉に誰も反応しないのは正論だからに違いないね。実際、命掛かってるし。ホントにやばいなら一声掛ければいいだけのことだし。


 パーティリーダーのヴァルドさんもそのことについてスカルト叱ってた。ホウレンソウは大切だよね。


 それとゲームの話になるけど≪AAO≫でもスカルトみたいな人は敬遠される。


 有り体に言えば≪AAO≫のデスペナルティは兎角厳しいからね。


 有り金、所持品、全ロストは当たり前。


 能力値も1週間は半減する。死ぬ度に現在値から半減するし、ペナルティ期間も更に追加される。


 そして死亡後、36時間はログイン不可になるおまけつき。


 果てにはSP(ソウルポイント)なるHPの魂版がゼロになるとキャラ自体がサーバから削除される。


 SPは全てのキャラ共通で最大5。死亡毎にマイナス1。


 回復手段は時間経過による自然回復しか存在せず、1ヶ月に1ポイントのペースで回復する。だからゾンビアタックみたいな脳筋プレイは基本不可。都市防衛系のイベント時に限って人が過疎るのもそれが理由だとわたしは思う。


 確か、安易に死ぬのは現実世界に悪影響を及ぼす恐れがあるとかどうとかで≪AAO≫βテストの最終アプデ時に試験的に導入された仕様らしいよ?


 キャラ削除とかナニソノマゾゲーって批判の声もあったらしいけど、反ってスリルがあって面白いと感じるプレイヤーも意外と多くてそのまま仕様として残したらしい。


 だからといって態々死にたがる(マゾ)なんて居るわけもなく、≪AAO≫プレイヤーは生死に関して言えばプレイ歴が長い人ほど神経尖らせる人が多い。


 かく言うわたしも結構うるさい。


 なにせ≪AAO≫での生産活動がそのまま現金収入に結びつくからね。


 わたし一人の生活だったら1週間のペナルティどうとでもなる。でも家計と祖父母の治療費分を稼ぎたいなら致命的。


 だからゲームの中なら死んでも生き返れるし平気っしょって軽く考えるやつとはプレイの方向性違いすぎて正直パーティ組みたくない。


 別にエンジョイ勢を批判とか嫌悪とかしているわけではないけどさ?

 その価値観に巻き込まれて人生後悔する羽目になるのはホント勘弁してってこと。


 付き合い軽い友人として接するのならスカルトはお調子者で面白い人だとは思う。ムードメーカー的な感じ。でも命の掛かった場面ではとてもじゃないけど背中を預けられるほど信頼できない。


 だから悪いけどスカルトのこと好きにはなれない。嫌いでも無いけど感情的にはネガティブ寄りかな。


 そんなことを考えているとヴァルドさんからも声が掛かった。



 「嬢ちゃん、一つ聞いてもいいか?」


 「なんですか?」



 いつも真面目臭いヴァルドさんが殊更神妙な表情を浮かべて言葉を紡ぎ出す。



 「俺たちに気を使ってるのか?」


 「へ?」



 気を使う?

 何に対して?

 まさかわたし、また何かやらかした!?


 ポーカーフェイスで内心焦りまくっているとリシェーネさんからご丁寧にも解説が入った。



 「つーまーり、私たち、仲間でしょ?なのに私たちが年上だからって言葉遣いとか一々気を使う必要はないぞってヴァルドは言いたいのよ」


 「は、はぁ」


 「何よ、その気のない返事は」

 

 「仕方がないじゃないですか」



 自分で言うのもアレだけどわたしって結構、臆病で小心者だよ?


 この世で怖いものって何って聞かれたら、第一に上げるのが家族の死。次に自分の死。そして人に嫌われること。


 みんなでワイワイしてるときが一番楽しい。


 だけど一人になると無性に寂しく人恋しくてどうしようもない気持ちになるの。だから孤独が怖くて仕方がない。人に嫌われて一人ぼっちになるのもすごく怖い。


 素の自分さらけ出して幻滅されるくらいなら距離感あった方がまだマシだからね。相当仲がいい人たち以外に対しては猫被ってたりする。それは生放送でも同じだよ?


 まぁ隠し撮りされて素の状態の砕けた姿とか動画にアップされて以来は挨拶以外、全部ありのままの自分さらけ出してるけどね。


 たくさんの人からはその喋り方のほうがしっくりくるとか萌えだとか肯定的なコメントもらったけど、騙してたのかとか幻滅したとかの批判も結構あって傷ついたりもした。


 だから知らない人と話すのって結構緊張するんだよね。幻滅されたくないから。猫被るべきか、それともいつもの自分を見せるべきか。ってね。


 公とか初対面の人に対して丁寧口調や敬語で話すのは当たり前だと思うよ?


 だけど仲間だから普段通りの喋り方してよって言われても実行に移せるほどの心の整理がついてない状態引きずってるからさ。ホントどうしよっか………。


 気分を落ち着かせるべく、わたしは【氷晶の洋杯(グレイシャル・カップ)】に注がれた冷たく甘酸っぱい桃色の果実水に口をつけた。


 ん、これ?


 今、右手に掴んでるのは【氷晶の洋杯(グレイシャル・カップ)】っていう【氷魔晶石】製の円筒状のコップ。【氷魔晶石】を粉末状にしてコップ状に錬成した逸品。


 魔力を込めると冷気を帯びるから美味しくジュースが飲めて旅先でも便利だよ?水飲む度に水魔法で水出すのって結構面倒くさかったから作ってみたの。


 魔晶石が思いの外たくさん手に入ったから全員分つくってみた。言うまでもなく大好評だったよ。みんな笑顔。わたしも笑顔。完璧だね。



 「どうしたのよ?そんなしみったれた顔して」

 

 「ううん、なんでもないです」


 「そう?」


 「はい、まだ慣れないので少しずつ変えていこうと思います」


 「それがいいわね」



 まぁいきなり変える必要はないよね。

 少しずつ様子見ながら変えていくのが堅実でいいよね。

 だけどさ?

 なんかわたしが【黄昏の果て】に加わる流れになっているのは気のせいかな?

 わたし、正式メンバになるつもりは全くないよ?


お読み下さりありがとうございます!

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