#15 リディス硬貨
「この国の硬貨って変わってますね」
「まぁな。でも綺麗だろ?」
「ええ、神秘的ですよね」
仕事の報酬としてヴァルドさんから7500リディスもらったよ。透明感を僅かに帯びた見た目が金属というよりは宝石を思わせる不思議な貨幣。
お仕事?
いくつもの小さな【闇魔晶石】を粉にして大きな塊へと錬成し直すだけの簡単なお仕事だったよ。
え、武器強化はどうなったのかって?
性もない話なんだけどさ、素材が全然足りなかったんだよね。
【七色剣】ってとにかく大量の無属性の魔晶石が必要。
だけど先の製造の関係で素材なんてほとんど残ってない。
そんなわけで『黄昏の果て』一行の素材を使わせてもらおうと思ったんだけどさ………
「そんなに持っているわけないだろ?」
なんてお返事いただいちゃったよ。
そもそもヴァルドさん率いる『黄昏の果て』が請けた依頼は『チュトリアス大森林の異変の原因調査』であって『魔物討伐』ではないんだよね。
だから速度重視の戦闘回避で森の最奥部を目指したらしい。つまり魔物との戦闘回数自体少ない。
その上、わざわざ魔物の部位素材を回収しなくても平気なくらい高い報酬が出るらしいから基本的に斃した魔物は土に埋めるなり魔法で焼くなりしたらしい。
別に放置してもアンデッド化するわけでもないらしいけど、他の魔物の生きる糧になったり残り続けると腐臭被害がやばいなどの理由から、余裕があるならば後始末するのが冒険者たちの暗黙の了解らしい。
例に漏れず回収しないなら魔晶石も地面に埋めるのがセオリー。その土地の魔力素分布が安定するらしいからね。≪AAO≫的にはだけど。
でも【闇魔晶石】とか属性付きの魔晶石って≪AAO≫と同様に希少らしく、小ぶりでもそれなりに高値で売れたりするらしいよ?
そういうわけで放置するのは勿体無いということで嵩張らない程度にヴァルドさんたちも回収していたらしい。
そのおかげでこうして魔晶石を合成するお仕事にありつけたってわけなの。
基本的に≪AAO≫では魔晶石の価値はサイズと属性数で決まる。この世界でも同じらしく、大きいほど価値が指数関数的に上昇する。
大きい魔晶石は一般的に大きな魔物からしか取れないし、複属性の魔晶石は変異した魔物からしか得られない。
だから魔晶石をまとめて一つにするだけで、バラ売りするよりも圧倒的に儲かるわけで―――――その手数料を受け取る形でお金をもらったのが今回の流れってわけ。
ちなみにリディス硬貨は色的に『鉄』『銅』『銀』『金』『白』『黒』『虹』の7種類があるらしい。リディスとの内訳はこんな感じ。
1リディス = 鉄貨1枚
10リディス = 銅貨1枚
100リディス = 銀貨1枚
1000リディス = 金貨1枚
10000リディス = 白貨1枚
100000リディス = 黒貨1枚
1000000リディス = 虹貨1枚
住民証を持たない人間がウィスカルの街に入るためには1000リディス…金貨1枚が必要らしい。極々普通な宿に泊まるにも金貨1枚。高いのか安いのか微妙なところだね。
あと残念だけど冒険者であろうと何であろうと入街税は支払わないといけないらしい。入る度に払うとかすっごい面倒なんだけど…。
毎回いちいち払いたくないなら25倍の額で販売されている『一時滞在許可証』を買えばいいらしいよ?
でも月の発行枚数が10枚って決まってるから希少価値に漬け込んで転売する者も後を絶たない状況らしく、入手は非常に困難らしい。すっごい厄介。
―――――とまぁ、街に入り方について聞き出せたから本題聞いてみる。
「現在地教えてもらってもいいですか?」
「ああ、別に構わないが――――」
本題というのは地図というか現在地のこと。
先のウサギとの戦いで迷子になってしまったんだよね。
だから現在地をもう一度、頭に叩き込む必要があったりする。
今回は聖域に建てた柱という目印があるからね。
大体の距離と方向さえ覚えておけばもう迷うことはないのだよ!
って、そうだ。
ヴァルドさんの行き先も聞いてとこ。
もしかすれば街に行くかもしれないし。
この格好で街は入ると不審がられるかもだから皆が一緒に来てくれるとありがたいよね。
――――というわけで聞いてみた。
「ああ、依頼も終わったからな。今は帰るところだ」
「ホントですか!?わたしも一緒に同行してもいいですか?」
「俺は別に構わないがみんなはどうだ?」
「………問題ない。」
「いいんじゃね?」
「まあいいでしょう」
「じゃ、決まりだな」
「やった!」
こうしてわたしは【黄昏の果て】一行と共にウィスカルの街へ向かうこととなった―――――
お読み下さりありがとうございます!
2018/03/10-------
リディス硬貨が透明感を有する描写が抜けていたため、以下の内容を冒頭付近に追加しました。申し訳ありません。
追加:透明感を僅かに帯びた見た目が金属というよりは宝石を思わせる不思議な貨幣。