#14 モンスターファクトリ
いつもより少し長めです。
スリスリ。
ナデナデ……。
スリスリ
ナデナデ……。
「もふもふ、好き。」
「あの~そろそろ離して……くれません?」
「嫌ッ!」
「え~~~」
わたしに抱きつく長耳少女ことエリンちゃん。
さっき飛ばしてきた殺気はどこへ行ったのやら……。
首を左右に思いっきり振りギュッとわたしを抱きしめる。
つまりすっごいデレてるエリンちゃんにしがみ付かれている状況だったりする。
撫でてあげれば満足して離してくれるかと思いきや余計にひどくなった気がする。
ホントどうしてこうなったのか、わたしにも判らない。
正直ちょっと鬱陶しい。
あと苦しい。
「ヴァルドさん助けて」
「ははははは………」
いやいやいや笑ってないで助けてくださいよヴァルドさん!
わたしの救援要請に苦笑しつつも動く気配を一切見せないヴァルドにジト目を送ってみた。そして目と目が合う。
ジー。
ジー。
ジー。
「はぁわかったよ」
ヨッシャ勝った!
てかヴァルドさん弱すぎっ!?
「エリン離してやれ」
「嫌ッ!」
「ウサギさん困ってるだろ?」
「いやわたしウサギじゃな―――――」
「ウサギじゃないもん。ニナだもん。」
「どっちでもいいがしつこいと嫌われるぞ?」
「うぅ………わかった」
しぶしぶ離れたエリンちゃん。
潤んだ瞳が庇護欲を唆らないでもないけどそんなのは知らない。
漸く解放されたわたしは素早く後ろへ後ずさった。
だって線の細い見た目に反して腕力すごい強いんだもん。
正直絞め殺されるかと思ったよ……。
「なんでわたし好かれてるんでしょうか?」
「そうだな。エリンはな―――――」
あー長い。
超長い。
だけど前みたいに聞き流すと酷いことなるからわたしは眠いのを耐えて全部聞き遂げた。
偉いぞわたし!よくやった!さっすがわたし!いい子いい子!誰かナデナデして!
………なんだろこの茶番。
ざっくりまとめるとさ、エリンちゃんって幼いころ、両親共々盗賊に鹵獲されたらしいよ。エルフって高値で売れるらしい。主に魔法薬の材料として。もちろん違法らしいよ?
まぁ父親は嬲られ、母親は犯され、その光景を目の前で否が応でも見せつけられたらしい。目を瞑ろうものなら無理矢理こじ開けられ、顔を逸らせば殴られ髪を捕まれ強引に元に戻される。
そのときの盗賊がものすっごい臭かったらしくて『臭い奴=殺すべき悪』って図式が刷り込まれたとかどうとか。
で、囚われの身となったエリンちゃんを助けたのが当時3人でパーティ組んでた『黄昏の果て』らしい。
行く宛の無いエリンちゃんは無し崩し的に『黄昏の果て』と行動を共にするようになったらしい。
そして幾多の旅を越え、可憐な少女は気づけば一人前の冒険者へと変貌を遂げていた、と。
臭うやつには基本ツンツンしてるのはそのためらしいね。
「でもそれ、わたしが好かれる理由になってませんよね?」
「さぁな、俺にもさっぱりだ」
さいですか。そうですか。
閑話休題。
「そういや嬢ちゃん、迷宮でも潜ったのか?」
「ダンジョン?潜ってないですけど。近くにダンジョンでもあるんですか?」
「ああ、実はな――――」
なんかこの森、チュトリアス大森林に迷宮の蓋が開いたらしいよ?
≪AAO≫において迷宮とは神代の時代の【魔物生産工場】という設定になっている。設定って言葉を聞くと無性に冷めるよね。不思議。
まぁ魔物から取れる素材っていろいろ用途があったりする。
魔導具の作成然り
薬の調合然り
建築物の材料然り
食材然り
etc…
でも魔物も生き物だから生息数には限りがある。
欲望のままに狩り過ぎれば絶滅は必至。
原理は謎だけどあらゆる魔物は魔力素と何かの組み合わせで生み出せるらしいよ?
だからそれ使って人工的に生み出せればいいよね?
って経緯で造られたのが【魔物生産工場】。
世界各地に【魔物生産工場】が次々に誕生したらしいけど、致命的な欠陥が見つかって封鎖することになったらしい。
基本的に【魔物生産工場】は地下に建造されることが多く、地上や地脈から魔力を吸い上げることにより魔物を生産する。
それで地脈とか地上からの魔力供給を行ったり止めたりするのを『蓋をする』とかしないとかって言うらしい。
――――それが≪AAO≫における設定。
ヴァルドさんにも確認してみたけどほとんどそのままの内容だった。
「ああ~なるほどね。原因は分からないけど稼働再開した迷宮の影響で周辺の魔力素分布が乱れた結果が今回の大森林の異変の原因じゃないですか?」
「嬢ちゃん、そんな格好してる癖して頭いいんだな。こりゃ驚いた………」
「酷いですよ!わたしだってそれぐらい分かりますぅ」
「悪い悪い、悪気が合ったわけじゃないんだ。だからそう拗ねないでくれ」
「分かってます。分かってますよーだ。ただ言ってみただけですぅ」
まぁ確かに?
ウサギの着包み着て森の中うろつく人なんてわたしぐらいかもね。
もちろん着たくて着たわけでもないよ?
別に着たくないってわけでもないけど単にこの装備の方が都合いいだけ。
肌の露出面積減らすことで草木で肌を傷つけることは無くなるし。
空調機能もどきで温度調節できて便利だし?
素材も〈錬金術〉で弄ってあるからわたしの身体に合わせて伸縮するスグレモノ。
見た目がアレなのも十も承知。
素材が集まれば別の着るに決まってるじゃないですか―――――
ウサギの着包みの凄さと愚痴を語ってみせたところ、さっきまで無言だった黒装飾の青年ことスカルトが話に食いついてきた。
「そいつぁすっげーな!一体どこでそんなもの手に入れたんだ?」
「自作ですけど?」
「マジで?」
「マジです」
「………」
「何なんですか、その胡散臭そうな眼差しは? これでもわたし、錬金術師ですからね!」
胸を張ってそう主張するわたしに『黄昏の果て』一行の視線が集まる。そして3人の驚愕の視線に紛れて1つだけ憐れみの視線がわたしの胸に注がれた。
その視線の先を辿ると女魔法使いことリシェーネという名の金髪ツインテ美少女へと辿り着いた。
こちらの目線に気付いたのか気まずそうに動揺を見せるリシェーネ。身体の動きに合わせて揺れ動く二つの巨峰。………別に羨ましくなんかないもん。できる錬金術師にとって貧乳はステータスなんだもん。戦闘の邪魔だし。デカけりゃいいってもんじゃないからねっ!
―――――ってそんなの今はどうでもいい。
どうしよう……。
ここしばらく人と会ってなかったせいか嬉しくて口が軽くなってたみたい。
きちんと情報集まるまで本当は錬金術師だってこと黙ってるつもりだった。
雰囲気的にはただ驚いているようにしか見えないけど実際どうなのかな。
状況次第ですぐに逃げられるようにしとこ。
だけどその心配は不要だったらしい。
「本当に錬金術師なのか?じゃ、どうしてこんな物騒なとこに居るんだ?」
とても心配そうな声音でヴァルドさんはその言葉をかけてきた。どうやら錬金術師は少なくとも忌避される存在ではないようだね。一安心だよ。
でも油断してはいけないよ?
まだヴァルドさんの疑問が残ってるからね。
まぁ普通に考えて、異世界から来ました。
――――なんて言えるわけがない。
ただでさえこんな格好だからさ…。
頭の痛い残念な子として見られるのがせいぜいだろう。
だからそれっぽい嘘をつく必要がある。
もちろん設定は考えてあるよ?
こんな感じで―――――
「【転移石】って知ってますか?」
「いつでもどこでも好きな場所にいける魔法の石のことだろ?」
「ええ―――――」
早い話、【転移石】の生産中にアクシデントが起こって気づけばここに居たという設定もとい嘘を虚実交えて皆に話した。というか専門用語で煙に巻いた感じに近い。
でもわたしが錬金術師だという事実は信じてもらえたみたいで良かったよ。
ただ一人、リシェーネさんが胡乱げな目でわたしを見つめているのがちょっと気がかりだったりする。十中八九疑われているね。
だからわたしは突っ込まれる前に先手をうつことにした。
「ヴァルドさん、これ見てください」
そう言ってわたしが見せたのは【七色剣】。
正確には鞘に収まった状態から刀身が見えるよう引き抜いて見せた。
その刀身を見たヴァルドさんたちから驚きの声を上げる。
「うわぁ……きれい。」
「なんなんですのコレ………?」
「すっげーな!虹色とかマジやべぇ」
「すごいな。これも嬢ちゃんが?」
「ええもちろん。7つの属性を自由自在に切り替えて付与できる魔剣です」
そう言って光属性のオーラを纏わせて見せると一同から更に感嘆の声が上がった。そして飛んでくる言葉。
「これが一体どうしたんだ?」
「実はコレ、元は唯の鉄剣だったんですよ」
「何をおっしゃりたいんですの?」
「つまりですね――――」
意味深げに数拍溜めた後、わたしは告げた。
「皆さんの武器も強化してみませんか?」
さぁ商売の始まりだ――――――
………なんて格好つけてみたけど、ただお金が欲しいだけです。はい。
ラノベで偶にあるじゃん?
入街税の代わりに素材とか納品すれば街に入れるアレ。
あのシステムがこの世界にあるかどうかわからないからね。
まぁヴァルドさんに聞けば一発かもだけどさ。
あったとしても足元見られて買い叩かれそうで怖いじゃん?
わたしの格好アレだし。
『黄昏の果て』一行といつまた別れるかも判らない状況下では基本的に街にはわたし一人で入ると考えたほうがいいかもしれない。
そう考えるときちんとしたお金使って入ったほうがスムーズというか何も騒動起きなくて済むはず。
まぁ既に【七色剣】見せた時点でやっちゃった感が否めないけど咄嗟の思いつきだったから仕方ないよね。仕方ない。それよりどうやって強化させる方向に話を持っていくかが大事だね。さてはてどうしよう………。
お読み下さりありがとうございます!