#13 聖なる柱
ついに出発のときが来たよ。
まぁとりあえず頭のなかで聖域を基準に地図とか描いていこうと思うよ。
≪AAO≫で積み重ねたフィールドワーク経験のおかげか道順とか風景とか記憶するのは案外得意だったりする。
でもこのまま出発したら先の二の舞になりそうなんだよね。また何かトラブったら現在地分からなくなりそうだし。
遠くから見て一発で聖域の場所が判るような目印とかほしいよね。
だからとりあえず柱でも建てておこうと思うよ。大体10mぐらいの建てときたい。
ついでに遠くからでも目立つように【聖土】を表面にペタペタ貼り付ける感じで―――――
結局のところ、出発するとか言っておきながら柱を建て始めたわたしが聖域を発ったのは翌日の朝のことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いや~調子に乗って土とか盛りまくってたらあっという間に夜になっちゃったよ。
10mは優に超えてると思うよ?
まぁ真夜中に森を徘徊するのは危ないから結局出発は朝を待ってからにした感じ。
フラグ回収乙~って声が聞こえた気がしたけども気にしない気にしない。
目的のためなら安牌だろうと何であろうと厭わず取る―――――それがわたしだもんね。
そだそだ。目的と言えばこれから先、わたしはどうしたいんだろ?
できれば元の世界戻って両親が死ぬまで面倒見てあげたいのが本音。
なんでって?
なんとなく家族を助けたいって思っただけだよ。
友達を助けるのに理由なんていらねぇ!的な?
でもそれ、金が絡んだ途端、やっぱ無理だわゴメンってなるよね大抵。
金の切れ目が縁の切れ目ってわけでもないけどお金は怖いね。
お金……この世界って街入るとき、お金取られるのかな?
入場料もとい入街税だっけか?
そうなると換金できそうなもの造っておいたほうがよさそうだね。
まぁ目先の目標は森からの脱出かな。
あと換金物の調達。
最終的には……どうしよっか?
ぶっちゃけ元の世界に戻るのは現実的じゃないと思うの。仮に戻れたとして、この姿じゃ「どちら様で?」って誰何されるのがオチだろうしさ。
だから家族には悪いけど、わたしはこの世界で生きていこうと思うよ。
元の世界の肉体が死んでるならニーナちゃんの所持品とか全部売ってもらっても構わないし。所定の手続き踏めば相続できるっぽいよ?
自分で言うのもアレだけど全部売れば五百万円は超えるんじゃないかな?
ともあれこの世界で生きていくなら錬金術師として成り上がりたいかな。
ものつくるの大好きだし。
つくった物で誰かが笑顔になるの見てると嬉しいし楽しいし。
それ見てニヤついてるところ見られて引かれるとちょっと悲しくなるけどさ。
とにかく錬金術師ってわたしの性格に合ってると思うの。
ただアレだよね~。
この世界における錬金術師の立ち位置が分からない。
細かい法律とか暗黙の了解とか風潮とか世間一般の評判とかその他諸共。
どこぞの物語だと錬金術師って狩られる立場だったりもするし。
そもそもこの世界のことをわたしは何も知らない。
ただただ≪AAO≫みたいなだな~って勝手に思ってるだけだし。≪AAO≫は中世ヨーロッパな感じだったけど同じとも限らない。
有り体に言って、この世界で生きていくには圧倒的に情報不足過ぎると思うの。
だから街に着いたら情報収集に注力した方が良さそうだね。
「よっと」
考え事しながらも不意に迫る後ろからの斬撃を僅かなステップで躱したわたしは【七色剣】に光のオーラを纏わせた。
すっごい眩しい。でも何度も経験しているからか、目が眩むことはなかったよ?
そもそも眩むの分かってたら使わないし。
ただ光るしか能の無い光のオーラ。ライトオーラって言い換えると無性にカッコよく聞こえるけど光るだけ。
だけど目眩ましとか懐中電灯代わりとしては大活躍な地味にできる子だったりする。
ともあれ、その煌光に慣れているはずもない襲撃者は眩しさのあまり両手で顔を抑えて蹈鞴を踏む始末。
その姿に見覚えはあるものの攻撃してきた時点で敵対者だね。
それも以前に同じやり取りしたことのある人物だったりする。
躊躇う必要なんて微塵も無いね。
二度目だし。
さよなら。
特に何か思うところもなく、わたしは【七色剣】でヴァルドさんの首を跳ね飛ばした。そしてぼやく。
「やっぱ偽物かぁ~~~」
首から上を失くした何かは崩折れると共に灰と化して風に煽られ散っていった。残ったのは黒ずんだ魔晶石だけ。というか武器まで消えた。残してけよって言わせてほしい。
まぁですよねー。知ってた
変種の魔物と勘違いされてヴァルドさんと1戦交えたことあったけど結構強かったし。
こんな雑魚じゃなかったもんねヴァルドさん。
自称『白』級の冒険者らしいし?
そもそも白がなんなのか自体知らないけどさ。
まぁこんな感じでさっきから人型の何かが襲ってくるんだよね~。魔晶石を落とすからたぶん魔物なんだと思う。でもあんな魔物、わたし知らない。
せいぜい判ることと言えばあの魔物は人の姿に化けることぐらいかな。
『黄昏の果て』の誰かだったり、知らない他人だったり、わたしそっくりさんだったり。
すっごい見た目は似てるけど演技力はなかったりして残念過ぎるこの魔物。
だって出会い頭に速攻で襲ってくるんだもん。
襲われたら反撃するしか無いし騙されるも何もないね。
おまけに攻撃自体も単調だから大した脅威にもならない。
武器も身体の一部なのか斃すと消えちゃうし。
魔晶石も小ぶりで微妙だし。
ホント何なんだろうね。
骨折り損の草臥れて儲けって感じ?
いや草臥れてはいないけどさ。
ん?
「――――ッ!?」
嫌な予感もとい殺気を感じて後ろへ飛び退くと寸前まで居た場所に矢が飛来するのが見えた。
木に突き刺さった矢にチラリと視線を寄越すと、それは見覚えのある形状の矢だった。
そしてソレが飛んできた方向に目を見やれば遠く彼方に4つの人影。
今度は本者かな?
お読み下さりありがとうございます!