表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/61

#7 古地図

2018/03/03

・活動報告を更新しました。


 ゴリゴリ……


 ゴリゴリゴリ………


 ゴリゴリゴリゴリ…………


 ゴリッゴリッゴリッ!


 ガツッゴツッガツッゴツッ…………



 森の中に響き渡るゴリゴリ石を擦って削る音。


 今わたしは冒険者パーティを名乗る一行と一緒に魔晶石をスリスリしている。


 決して噛み合うことなきゴリゴリ音が周囲の静寂を無粋に打ち壊す。


 そんなところにわたしは痺れ――――ないよ?


 でも誰かとやる久々の共同作業だからかなんだか楽しくなってきた。



 「………臭い。汚いの大嫌い。やっぱり殺す。」



 そう宣うのはエリンという名の耳長少女。ことある毎にわたしを殺すと言っては周りの仲間に止められている。


 非常に遺憾なことながら今のわたしがとても臭うことは否定できない紛れもない事実だったりする。


 何せ森を彷徨って1日と少し。

 一度たりとも身体を洗い流していないのだから。

 水辺に立ち寄ることもなく身体を拭くことすら出来なかった。


 それどころか何度も魔物の血を浴びまくってるからはっきり言って血生臭い。


 既にわたしの鼻は調教されてしまったのか自分を起点に漂う悪臭を感じなくなってしまった。


 でも臭いを感じないのはあくまでわたしの鼻の感覚が麻痺しているだけであって他の人からすれば相当やばいことになっていると思われる。


 狙撃を仲間に止められた耳長少女は短く舌打ちすると魔晶石を一層強く石板へと打ち付けた。


 かれこれ何度目だろうか。

 ひび割れ始めてきた魔晶石はついに割れてしまった。

 それが少女の気に触れたのか再び舌打ちの音が響いた。



 「――――チッ」


 「あの~もう少しやさしく………」


 「グルゥゥゥゥ」



 ついに獣みたいに威嚇し始めたよ。

 ホントこの子、マジで怖いんですけど……。

 なんか目がギラギラしてるよっ!?

 無意識かもしれないけれどアレMPの無駄遣いだよね!?


 まぁ気を取り直してざっくり状況説明するよ?


 遠く彼方から武装した男女がやってきた。

 大剣。双短剣。魔杖。木弓。

 それぞれが得物を携えやってきた。


 そして出会って早々ゴブリンと勘違いされた私は弓矢を射掛けられた―――――耳長少女に。


 ジギースーツ姿だったから遠くから見れば植物系の魔物に見えなくもない?


 っていやいやいやいや手とか顔とか普通に出して晒してたし。

 身振り手振りジェスチャーで敵意ないこと伝えたし!

 見つけた時一瞬だけど目あったし!

 絶対アレわざとだわー。

 とにかくさっきからなぜか睨まれてるんだよねわたし。

 何かしたっけか?

 全然覚えがないんだけど。


 覚えがないのに襲われるって地味に慣れてるからどうでもいいんだけどさ。


 別に狙撃されたところで視線と挙動がもろ見えるから回避自体は余裕なんだけどさ。


 痛いのと疲れるのは嫌だからホントやめて?


 必死のジェスチャーと言葉の数々で漸く誤解が解けたわたしにお詫びをしたいとグループの長が持ちかけてきたのでスリスリ作業を手伝ってもらっている感じ。


 耳長少女の見た目?


 言動に反して見た目は可愛らしい美少女なんだよねコレが。

 典型的なエルフっぽい感じ。

 金がかった翡翠色の髪に長耳って聞くとなんとなくエルフを彷彿させるよね。


 けど≪AAO≫の選択可能種族にエルフって項目あったっけ?


 隠れキャラのNPC枠にエルフ居た気がするから案外NPCかもしれない。そもそもこのパーティ自体NPCかな?



「エヌピ石?なんだそりゃ?」



 私の疑問によく分からんと言わんばかりに困惑顔で首を傾げたのはパーティリーダーのヴァルドさん。

 引き締まった筋肉と堀深い顔つきが渋いというか貫禄を感じさせる。

 少なくともNPCではないようだ。


 というのも早い話、≪AAO≫ではNPCに「NPCですか?」って尋ねると必ず「NPCです」と答える仕様になってるからね。


 だとしたらそういう演技(ロール)なのかもしれない。


 こんな感じでキャラに成りきるプレイヤーは一定数居たりする。


 私も一時期、薄暗い路地裏で闇錬金術士ロールとかやってたりしていた。

 ――――でも気合い入れすぎたあまり不気味がられてほとんど人が寄り付かなくなって寂しくなったから結局やめたけど。


 まぁ言語的には聞き慣れた日本語。

 普通に意思疎通できるっぽい。

 やったね。異世界転移の線が薄まったよ!

 異世界転移だったら「何で言葉通じるんだよおい!」ってツッコミが殺到するぐらいご都合主義にも程があるからね。

 異世界転移ではないのかもしれない。


 だからここが≪AAO≫の中だと思いたいけど≪AAO≫では起こり得ない現象の数々に私の自信は徐々にグラつき揺らぎ始めている。


 世界トップ7のセキュリティを誇る≪AAO≫運営元がこんな初歩的なバグを放置するとは思えないし。


 そもそもVRHGはハード的にデスゲームできない構造になってるし。


 ついでにいうと32時間連続稼働させつづけると自動で強制終了するようになっている。


 これは単にマシンの発熱の問題とプレイヤーの健康上の都合によるもの。


 飢餓状態とか脱水状態とかその他身体に異常が検知されてもそれは同じ。


 だから明日の昼間になっても現実世界に戻れないならここが異世界である可能性がすっごく高まる。というか否定できなくなる。


 まぁここが知らないマップだからといって異世界であると決めつけるのは時期尚早だったりする。


 だって案外新マップだったりするかもだし?



 「新マップ?新しい地図なんて高ぇもん冒険者が買えるわけねぇだろ」



 そういってとてもとても慎重そうに懐から古びた紙切れを取り出したヴァルドさんは「見せてやる」と自慢げに告げると、それをわたしへと差し出した。


 冒険者は基本的に数十年も前に製造された最早大雑把な道が判る程度の信憑性しか有しない古地図を買って旅をするらしい。


 緻密かつ最新の地形が描画された地図は貴族の中でもほんの一握りの権力者しか所有できないとかどうとか。


 パット見、海賊映画に出てきそうな宝地図みたいな絵のタッチだ。


 触ったことない質感的に消去法で羊皮紙っぽい?

 紙の種類に詳しくないから分かんないけどさ。

 無闇矢鱈に引っ張ると触った端から破れそうな脆さが怖い。


 それぐらい古くて劣化というか酸化しまくってるのかパサパサに硬質化している。


 どうやって懐で保管してるのかすごい気になる。


 あと、なんか字の羅列が所々に書かれてるけど掠れてすっごい読みにくい。


 だけど見覚えのある字だったりする。


 ――――アバタール語。


 ≪AAO≫の舞台となる世界アバタールの人類が嘗て共通言語として用いていたとされる古の架空言語。


 高レアリティアイテムの類の錬金レシピが記述されている古文書のほとんどはアバタール語で書かれていることが多い。


 そしてこれが錬金術師のジョブを選ぶ人が少ない要因の一つだったりする。


 〈錬金術〉スキルの一つにレシピリスト機能がある。


 なんとなく察しがつくかもしれないけど早い話がレシピ図鑑&自動生産機能だったりする。


 これは錬金レシピが記述された古文書というか秘伝書の内容を完全理解するとレシピリストにアイテムの作り方が記載される。


 記載されたアイテムはレシピリストを通して自動生産できるようになる。もちろん素材は必要だよ?ついでにMPたくさん。


 でも選択したらすぐ完成ってわけではなく、アイテムごとに待機時間が設けられていて終了後に生成排出される感じ。


 秘伝書が読めればアイテムの自動生産が可能になるけど読むには独特の文字と文法を持つアバタール語を学ばないといけない。


 英語とか外国語覚えるの苦手って人はこの時点でジョブの選択肢から錬金術師は消えると思う――――システム的にじゃなく精神的にね。


 秘伝書が読めない場合は素材を元に自らの手で一から作る必要がある。


 だけど高位アイテムになるほど手順が複雑で煩雑になるし魔法法則についての細かい設定も覚えないと訳も分からない内に錬成に失敗する。


 つまり挫折して転職(ジョブチェンジ)する人も多い。


 ただレシピリストからの自動生産だと品質が必ず『普通』で固定されるし自作したほうが自由度が高いからわたしは毎回自作してる。

 というか製法知りたくて秘伝書読んでる節が強いかな。


 その過程で習得することとなったアバタール語はわたしにとってかなり馴染み深い言語だったりする。


 当然、普通に読めるんだよね~。


 そんなわけでミミズの這ったような文字を凝視して解読して現在地の特定をやってみたけど……判らなかった。


 ググルマップと違ってGPS機能とかないからそりゃそうだよね。マップウィンドウがあれば一発なんだけど使えないのが痛い。


 素直に現在地を聞くことにした。



 「ヴァルドさん、ここってどの辺だったりします?」


 「あーそうだな。大体この辺りだな」



 ヴァルドさんの太い指が示す領域の名は『チュトリアス大森林』。


 『チュトの森』ではなく『チュトリアス大森林』。

 大切なことだから二回言ってみたよ。

 なんかこのやりとりにデジャビュを感じるけど気のせいかな?


 とにかく……ここは私の知らないフィールドマップだったようだ。


 おっかしいなぁ……。


 Wikiに載ってるマップは一通り制覇したつもりだったんだけどね~。


 あったとしても地下マップぐらいじゃないかな?


 ………やっぱ異世界なのかな。


 その言葉を否定する術を脳内で模索しているとヴァルドさんから声が掛けられた。



 「嬢ちゃん。もういいか?」


 「あ、はい。すみません」



 そう謝り地図を返したわたしは再びスリスリ作業へと舞い戻った―――――



お読み下さりありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ