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#1 プロローグ

 知花(ちはな)仁奈(にな)、21歳。有り体に言えば高卒ニートだ。


 彼女がニートになった原因は高校時代に遡る――――



 アニメ、ゲーム、ライトノベル―――世間一般にオタク趣味と評される趣向をもつ彼女はただそれだけでイジメの恰好の餌食となった。


 『オタク=犯罪者予備軍』という根拠無き強引な図式はたまに耳にすることだろう。普通に考えれば根拠に乏しい戯言も扇動者の手にかかればなんのそよ。


 学年の壁を越えて謂れ無き誹謗中傷そして噂が蔓延していった。終いには教師ですら仁奈の存在そのものを否定し始めた。


 本人からすればこの程度、オタクではなかった。オタク趣味といえるレベルには達していないしこの程度でオタクを名乗ってはオタクに失礼である。せいぜい微オタ程度である。そう考えていた。

 

 だが不幸なことに同じ趣味を持つ同士は誰も居なかった。故に誰にも理解されることはなかった。


 付け加えて、いじめっ子がクラスのアイドル的存在だったこと、生徒、教諭の大半がオタクに対して酷くネガティブな偏見を抱いていたことが導火線となり、仁奈への虐めはエスカレートの一途を辿った。


 人間不信に陥った仁奈は巷で流行りのVRMMORPG≪A(アナザー) ()A(アバター) ()O(オンライン)≫にどっぷり嵌り込んだ。


 仁奈は高校生にしては金持ちといえるだろう。元はコミケのためにと軍資金を増やす一環でアルバイトのみならず、親に内緒で株や仮想通貨など投資に手を出し始めたことがきっかけだった。最初は少額、だが徐々に徐々に堅実に増やしていき気付けば一千万近くもの金が蓄えられていった。


 それ故、五感体験装置V(バーチャル) ()R(リアリティ) ()H(ヒプノシス) ()G(ギア)を購入するには事足りた。


 ≪AAO≫は中世ヨーロッパを舞台に魔法の概念を組み合わせた典型的なファンタジーオンラインRPGだ。それは仁奈が好んで愛読する異世界ファンタジー系小説のような世界観だった。


 その要素だけでも本人は既に興奮の坩堝だというのに更にRPGときた。役割演技ロールプレイングを常とするRPGでは現実とは異なる性格(キャラ)を演じる者も多いことから余程性格に難が無ければ大抵のことには寛容的なプレイヤーは比較的多い。


 殊更、ゲーム好きが多く集う《AAO》プレイヤーは仁奈を当然のごとく受け入れた。


 謂れなき誹謗中傷に身に覚えのない噂の数々でいつしか四面楚歌へと陥った地獄のような学校生活とは比べるべくもなく、気の合う仲間と好きなことで大いに燥げる≪AAO≫に居心地の良さを抱くのは必然であった。


 やがて日夜《AAO》に勤しむようになった仁奈に対して両親は最早何も言わなくなった――――否、言えなかった。それどころか罪悪感すら覚えていた。


 もともと彼女を取り巻く学校での状況は本人を通して知っていた。それに加えて祖父母が大病を患い入院してからというもの知花一家の家庭は火の車だった―――過去形だ。


 知花一家の家計の窮地を救ったのは奇しくも仁奈のアバターがR(リアル) ()M(マネー) ()T(トレード)を通して《AAO》で稼ぎ出す現金収入であった。


 ≪AAO≫はオンラインゲームでは珍しく公式がRMTを認めているビッグタイトルである。


 手数料は取られるものの大した額ではない。何より専用システム経由で安全に取引できるとあってプレイヤーたちの間で人気を博した。無論、無課金プレイヤーからの批判の声も多いが――――。


 そんな訳で家族公認の下、仁奈はキャラ名ニーナとして廃人といっても差し支えないゲーム生活を送り続けることとなった。もちろん、本人もそう望んだ結果であった。むしろゲーム三昧できてラッキーとすら考えていたことなぞ彼女の両親は知る由もなかった。


 上位の生産職が作り出す武具や消耗品の類はもとより、見た目重視の装飾品やらネタアイテムの数々は高値で取引されている。現実世界で服を買う感覚だろうか。


 その情報を事前に得ていた仁奈は生産職の一つである錬金術師の道を選んだ。アニメなどに登場するファンタジーグッズを手製することの多かった仁奈にとってファンタジー素材を幅広く取り扱う錬金術師は正に花形の理想的なジョブだったのだ。


 高校卒業と同時に家から一歩も出ないまでに引き籠もりプレイをし続けた仁奈はメキメキと頭角を現していった。


 夢に見たファンタジー世界に居る感覚がもたらす高揚感、モノづくりとゲームシステムに対して純粋に感じる面白み、暖かく迎えいれてくれた仲間たちとずっと一緒に居たい人恋しい感情、金を早く稼がなくてならないプレッシャーが綯い交ぜとなり、仁奈を底無しにゲーム世界へと引きずり込んでいった。


 ―――可愛い美少女が自ら手懸ける便利アイテム。おまけに超性能で良心価格。言うまでもなく爆売れだった。おかげで知花一家は破産の危機を乗り越えるに至った。


 促販の一貫として始めた生放送も今では板についていき、気付けば大勢のファンを抱えるようになっていた。見た目に反してラフで気さくな性格が反って男性プレイヤーにはギャップ萌えらしい。謎理論。


 それに加えて突拍子のない錬金講座が初心者から上級者までの注目を集めているようだ。時折行う予告なしのゲリラ放送もファンの間では大好評だ。


 そして今日もニーナのゲリラ生放送が始まろうとしていた――――


本作をお読み下さりありがとうございますm(_ _)m

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