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贖罪のラクリマ  作者: 鈴木朔
第2章 獅子王の牙
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9話 獅子王の牙



 全身が痛みに悲鳴をあげ、心臓がドクン、ドクンとうるさい。 顔を上げると吹き飛ばされた時に頭を打ったのか、ズキッとこめかみが痛んだが、無視した。視線を辺りに彷徨わせると、石像がリュウとフレーナに向かって歩き出し、隣りでミーナが涙を流して大剣に向かって何か叫んでいる。


(いってえ。 このままじゃ、みんな死んじまうな)


 レオンにしては冷静に、そんなことをぼんやりと考えていた。


(オレの、剣、どこいった? ーーああ、折れちったんだった)


 先ほどまで自分がいたところを見ると、折れた剣先が床に突き刺さり、レオンが横たわっている少し右に、柄の部分が転がっていた。


(剣も折れちったらもう、しょうがねえよなあ。 最後に楽しい冒険できて、良かったなあ)


 もはや諦めかけたその時、何故こんな時にそんなことが脳裏をよぎったのかレオンには全くわからなかったが、ミーナがフードを取り、皆で彼女を褒め、笑いあったこと、出会ってからこの短い時間の間、何度もくだらないことで喧嘩したことが、彼の脳を巡る。


(⋯⋯ だめだ。 あいつらを死なせるわけにはいかない! ミーナも、オレが守る! 守らなきゃいけねーんだ!)


 彼の目に闘志が戻る。 吹き飛ばされた衝撃で、全身に激痛が走るが、それを無理やり我慢し、ミーナが握る大剣に手を伸ばす。


(剣さえありゃ⋯⋯、なんでもいい!)


 ミーナが驚いてレオンを見る。 そして、レオンが剣を取りやすいようにミーナが大剣から手を離し、その身を引くと、レオンの手が大剣の柄を掴む。

 その瞬間、ーー目の前にまばゆい光が満ちた。



 光が満ちて数秒後、急速に視界が暗くなった。

 レオンの視界には見渡す限りの黒。 暗黒の世界の中、手にしたはずの大剣も消え、一人で立ち尽くしていた。


「なんだ?ここ。 みんなはどうなったんだ?」


 気付けば、身体には傷一つなく、痛みも消えていた。

 すると、レオンの後ろから声がする。


『何者かとおもえば、 小童が、儂に何の用だ』


 振り返ると、古代の鎧を身につけ、獅子の頭を持った獣人(ベスティアモ)と思しきヒトが、広間にあったものと同じ玉座に腰掛け、頬杖をついていた。


「誰だ! みんなはどうなった!」


 剣のないレオンは、徒手空拳でも戦う意思を見せるが、獅子は鼻で笑った。


『ふん。ここは貴様の精神世界。 貴様のいる現実世界では、時は動いておらん』

「なんだと? てかお前は誰だよ!?」


 レオンの問いに獅子は大声で笑う。


『ふははははは! 儂が何者かもわからずに手に取ったのか! よかろう、儂は獅子王の牙(コルディス・レオニス)。 偉大なる獅子王の力の化身だ』

「なにっ!! 獅子王の牙(コルディス・レオニス)ってネコだったのか!」

『ネコ⋯⋯、貴様、 儂を愚弄しておるのか? それとも狂者か。 まあ、どちらでもよい。貴様、儂の力が欲しいのだろう? 何故(なにゆえ)儂の力を望むのだ』


 レオンは何故、獅子王の牙(コルディス・レオニス)に手を伸ばしたのか、頭の中で考え始める。

 剣が無かったから? いや違うなと、首を振り、もう一度考え直す。

 あの石像の強さ、リュウを痛めつけられた怒り、それを見たフレーナの泣き顔、ミーナの涙。 そしてまだ誰にも話していない自分の過去⋯⋯。 色々なことがレオンの頭の中を駆け回り、レオンなりの言葉で伝える。


「⋯⋯ ムカつくやつを、ぶっ飛ばすためだ!」

『ふっ、ふははは、はーーーはっはっはっは! なるほど。 小童が覇道を志すか! 気に入った、気に入ったぞ』

「別に何かを成し遂げるつもりはねーよ。 ただ、オレの気に食わねえやつをぶっ飛ばしてえだけだ」

『それもまた覇道よ。 よかろう儂の力を貸してやる』


 そう言って、獅子王の牙(コルディス・レオニス)は立ち上がり、続ける。


『良いか。 貴様を使用者として認めたとて、儂の力をすべて貴様に与えるつもりは毛頭ない。 儂の真の力を使いたくば、 闘争の中で、貴様の力を儂に示せ。 さすればまたこうして再び相見(あいまみ)え ようぞ』

「わかったからさっさとしてくれ! 早くあいつらを助けねーと!」

『ふむ、頭の出来は良くないようだな。 先ほど時間は止まっておると言うたのに』

「うっせーな! 早く発動条件教えろよ!」

『ふははは!なに、簡単なことよーー』


 獅子王の牙(コルディス・レオニス)の姿が消え、レオンの視界に光が戻っていく⋯⋯。



 目の前にはリュウとフレーナに向かって、石像がついに剣を振り上げているのが見えた。

 レオンの頭の中に直接、獅子王の牙(コルディス・レオニス)の声が響く。


『さきほど貴様が言った望みを強く願い、儂の名を叫ぶのだ』


 現実の世界に戻ったからか、全身が痛み、頭から血が流れているのを感じる。

 しかし、レオンの魔力(マナ)は、先ほどとは比べものにならないほど高まっているのを感じた。


『さあ征くぞ! 闘志を燃やせ! そして力の限り吠えよ!

我が名はーー!」



「『獅子王の牙(コルディス・レオニス)!!!』」



 レオンと獅子王の牙(コルディス・レオニス)の声が重なり、獅子の咆哮がどこからか響き渡る。

 レオンはまるで昔からその使い方を知っていたように、獅子王の牙(コルディス・レオニス)を大きく振りかぶり、思い切り横に薙ぐと、凄まじい雷撃が、石像の上半身を直撃し、跡形もなく消し飛ばした。


「あの野郎⋯⋯! やりやがった!」


 爆風から腕で顔をかばい、下半身だけとなった石像の奥に獅子王の牙(コルディス・レオニス)を構えたレオンの姿を見て、嬉しそうにリュウは笑う。


「レオン!!すごいすごい!!」

 

フレーナも飛び跳ねて喜ぶと、石像の破片が集まり出し、また元通りの姿に戻った。


「なにっ!?」


 石像は今度はリュウとフレーナには見向きもせず、猛然とレオンに向かって走っていく。


「しつけーな! これでトドメだ!」


 どう動けばいいか、どこまで動けるか、勝手に頭の中に、技の使い方が流れ込んでくる。

 レオンは駆け出し、魔力(マナ)を集中させる。

 石像の攻撃を紙一重で避け、頭部から一気に獅子王の牙(コルディス・レオニス)を振り下ろす。


「ーー金獅子雷刃衝(レグルス・トニトルス)!!!」


 雷を纏った獅子王の牙(コルディス・レオニス)が石像の身体を斬り砕き、左右で真っ二つに斬った。

 左右に二つに分かれた石像は、これ以上再生することはなく、そのまま崩れ落ち、消滅していく。


「「やった!」」


リュウとフレーナが同時に叫び、喜びに抱き合うと、魔力(マナ)を使い果たしたのか、レオンはその場で崩れ落ちる。


「「レオン!」」


 リュウとフレーナが、ゆっくりとレオンに近づいていく。

 その様子を、ミーナはただ呆然と眺めていた。





 レオンが目覚めると、ミーナに頭に包帯を巻かれている最中だった。

 

「お、目が覚めたか」


 フレーナに身体に包帯を巻いて貰っているリュウが声をかけてくる。


「あいつは、どうなった?」

「覚えてないのか? お前、獅子王の牙(コルディス・レオニス)を使ってぶっ飛ばしたんだぞ? ほら」


 リュウが指す方向に目を向けると、石像が崩壊し、消滅した跡に塵が積もっているのが見えた。

 それをみて徐々に記憶が戻り、こめかみに鋭い痛みが走る。


「いてててて、 ああ、思い出した。 俺が、やったんだな」


 レオンは自分の左手に握られた獅子王の牙(コルディス・レオニス)を眺める。


「あんた凄かったよ。 まさかあんたが使用者として認められるなんてね」


 ミーナは優しく包帯を巻きながら声をかけるが、その目に光は無く、どこか腑抜けた表情をしていた。

 よほど自分が使用者として認められなかったのがショックだったのであろうその姿に、声を掛けられずにいると、ミーナが包帯を巻き終わり、先に巻き終えて服を着直していたリュウに、さ、と声をかける。


「あんたたち、もう歩けるの? 歩けるならこんなところさっさと出ましょ? ベットが恋しいわ」

「⋯⋯ そうだな。 レオン。これ、少し飲んどけ」


 そう言ってリュウは青い液体の入った小瓶を渡す。

 どんな傷もたちどころに治ると言う貴重な聖水だと、前にリュウが自慢げに見せびらかしてきたのを思い出す。


「いいのか? 貴重な薬なんだろ?」

「ああ、俺も少し飲んだしな。 それに、俺たちが戦えないと、帰り道が大変だ」


 頷き、一息で飲み干す。


「あ!! 誰が全部飲めって言ったんだよ! ちょっとでいいんだ!ちょっとで!!」

「うおおおおおお!力がみなぎる!!」


 飲んだ瞬間、身体の中心から熱くなり、力が湧いてくる。 全身の痛みも消え、飛び起きると、獅子王の牙(コルディス・レオニス)を持ったままピョンピョンと飛び跳ねる。


「よっしゃ!帰るぞ!!」


 その姿を見て思わず笑みがこぼれるリュウとフレーナだったが、ミーナの表情は、未だ暗いままだった。


 

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