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贖罪のラクリマ  作者: 鈴木朔
第2章 獅子王の牙
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7話 伝説を掴みに



 リュウがダイニングから本屋の方に戻ると、三人は手分けして本を探していた。 レオンが片っ端から本を集め、ミーナがさっと目を通し確認していく。フレーナは確認が終わった物をテキパキと元にあった場所に片付けていた。

 同世代同士、気は合うようだ。


「そういえば俺ってこの中じゃ一人だけ年上なのか⋯⋯」


 年齢不詳のフレーナも見た目の年齢はレオン達と同じくらいで、同世代とみて間違いはなかった。

 フレーナとレオンとミーナは、この短時間でかなり打ち解けたようだった。

 少し遅れて、ネネがダイニングから現れる。


「みんなごめんね。探してた本、こっちで見つけちゃった」

「えーー! めっちゃ探してたのに!」

「しっかりしなさいよ! 無駄な時間過ごしちゃったじゃないの!」

「ふふっ。ごめんなさいね。 じゃあ、もう行っていいわよ。 気をつけて帰ってきてね」

「よっしゃ! じゃあ、明日の夜明けに街の北門集合な! 遅れたらぶっ飛ばすからな!」


 そう言ってレオンが店を飛び出すと、ミーナも続く。


「俺たちもいくか」

「うん!」

「じゃ、またな。ネネさん」

「さよなら!ネネさん!」

「行ってらっしゃい。 帰ってきたら、結果を聞かせにきてね」


 ネネは妖艶に微笑み、リュウに言う。


「わかってるよ。じゃあな」


 先ほど彼女の狂気を目の当たりにしたばかりのリュウは複雑な思いで、外に出る。

 二人は、夕陽で紅く染まった空の下、宿屋に向けて歩き出した。





 リュウとフレーナは、夕食を済ませてから宿屋に戻り部屋に入る。

 宿屋に着く頃には満天の星空が見渡せる時間になっていた。


「先に風呂入っていいぞ」

「ほんと!? ありがと!」


 嬉しそうにフレーナが答え、風呂の支度をする。

 そうして各々風呂に入り、明日の準備と寝る支度を整えてから顔を見合わせる。


「ベッド、使っていいぞ」

「ううん! 今朝おぶってきてもらっちゃったから、

リュウが使って!」

「いや、いいって。地面で寝るの慣れてるし」

「いいの! わたしだって昨日で慣れたもん!」


 しばらく互いに譲り合いをしていたが、いつまで経っても決まらない。


「いいからお前がベッドで寝ろって。 ⋯⋯ なんかこの言い合いで疲れてきたな」

「ねえ、じゃあ、一緒に⋯⋯ 寝よ?」


 少しうつむき、顔を赤くしながらフレーナが言う。


「え? い、いや、 このベッドじゃ少し狭いだろ」

「詰めれば大丈夫だよ? リュウは⋯⋯ 嫌?」

「嫌じゃないけど、流石に同じベッドはまずいんじゃ⋯⋯」

「なにが?」

「なにがって、そりゃあお前⋯⋯」


 顔を赤くしながらも首を傾げるフレーナを見て、ああもう、わかったよ、とベッドに横になる。

 するとフレーナはリュウの方を向いて、リュウの隣に寝転がる。


「おい、何してんだ。 そっち、もっと空いてんだろ」

「空いてないよ。落ちちゃいそう」

「嘘つけ! 結構空いてんじゃねえか!」

「ふわぁぁ。いいでしょ。リュウの、近くにいると、落ち⋯⋯着くの」

 

 フレーナは欠伸をしてから答える。すでに眠りそうだ。


「おやすみ」

「はあ。おやすみ。フレーナ」






「あ〜〜〜〜。 腹減った〜〜〜〜」


 レオンが気だるそうに最後尾を歩く。


「さっき食べたでしょ!我慢しなさい!」

「あんなちょっとじゃ足んねえよ〜。」

「はあ?! あんたあたしの分のパンも食べてたでしょ!」

「全然足りねー」


 あれから街を出て、二日が経っていた。

 特に強大な魔物と出会うこともなく、順調に歩き進めていたが、一番の敵はレオンの食欲だった。

 レオンとミーナはギャーギャーと口喧嘩を続けながら歩く。

 先頭を歩くリュウとフレーナは、もはや彼らの喧嘩をする姿に慣れてしまい、御構い無しに全く別の会話をしていた。


「昨日ネネさんがこのペンダントが覚醒するかもって言ってたけど、あれってどういう意味?」

「ああ、魔装具(アーティファクト)はただ使用者として認められただけじゃ、その本来の能力を使えないんだ。 タイミングがいつなのかはその魔装具(アーティファクト)と使用者の相性次第らしいんだが、まず対話をするんだ」

「対話? お話するの?」

「そうだな。 自分の精神世界で具現化したこいつらと対話して、能力の発動条件とかを教えてもらうんだ」

「リュウもそこまではしたんだよね? なんでリュウの魔装具(アーティファクト)は力を貸してくれなくなっちゃったの?」

「俺の場合は禁止事項も同時に伝えられてな。 それを破ったから使わせてくれないんだと思う」

「ふーん。 リュウの魔装具(アーティファクト)はなんて名前だったの?」

「⋯⋯ うぉっ!」


 突然リュウの背中にレオンがぶつかってきた。


「こいつ! やりやがったな!」


 どうやらミーナがレオンを突き飛ばしたらしく、レオンとミーナが取っ組み合いの喧嘩を始める。 無論お互い本気ではなく、まるで猫がじゃれあっているようにも見える。


「おい! お前らいい加減にしろ! 余計なことに体力使うな!」


 リュウが二人の襟を掴んで引き離す。


「「ふん!」」


 二人は同時にそっぽを向いて歩き出す。


「まったく、喧嘩するほど仲が良いっていうけど、喧嘩し過ぎだろお前ら」

「「仲良くない!」」

「いや⋯⋯。 絶対仲良いだろ」


 またしてもレオンとミーナは同時に叫び、リュウは呆れながら言い、それを見ていたフレーナがふふっ、と笑う。

 仕方なしに今度は黙って二人で並んで歩き出す。

 その様子を見てリュウも再び先頭に戻り、フレーナと並んで歩き出すと、レオンがミーナに話しかける。


「なあ。ところでさあ。 なんでお前ずっとフード被ってんの? 邪魔じゃねーの?」

「なんでって、こんな耳の人間が歩いていたら気持ち悪いでしょ?普通に人間の耳もあるのに、頭に獣の耳がついてるのよ?」

「そうか? 別に何とも思わないけど。 なあ? リュウ、フレーナ」

「そうだな。 珍しいとは思うけど、別に気持ち悪くはないな」

「むしろとっても可愛いと思うよ!」


 そういうとミーナは顔を赤くして、フードをさらに深く被った。


「かっ、かわっ、な、なわけないでしょ! 」

「別にもっと自信持っていいんじゃねーの? それにせっかくそんな綺麗な髪してんのに隠すの勿体無くねー?」

「はあ?! きれっ、なにいってんのあんた!」


 ミーナはますます顔を赤くし、あたふたと言葉を詰まらせる。


「いや、だってホントのことだし。 まーそんな嫌ならいいんじゃねーの?」


 レオンの言葉を最後にしばらく沈黙が続き、歩き進めていると、ミーナがふーっ、と息を深く吐くと彼女のフードを取った。


「おっ、やっと取る気になったのかー!」


 両手を頭の後ろで組み、ぷらぷらと歩いていたレオンが声を上げる。


「ど、どう? 変じゃ、ない?」

「おう! やっぱそっちのがかわいいじゃん!」

 

 ミーナの目をまっすぐみて、ニカッと笑うレオンを見て、ミーナは顔を真っ赤に染めそっぽを向く。


「うんうん。 すごく可愛いよミーナちゃん!」

「ああ。 良いじゃないか」


 フレーナとリュウもその容姿褒めると、湯気が出そうなほど顔を赤くしたミーナが小声で口を開く。


「あんた達ってほんとにばかね。 見た目を褒められたのなんかはじめてよ。 ⋯⋯ ありがと」


 最後の一言はささやきと同じくらいの声量になってしまったが、皆に届いたようで、皆、笑顔で歩みを進める。



 遺跡があると言う山の麓まであと少し、というところで、リュウは魔物の気配を感じた。


「待て」


 リュウが剣に手をかけ、レオンも背中の抜き身の大剣に手をかける。

 ミーナは腰に刺した短刀を抜き、辺りを警戒しながら構えをとる。

 三人はフレーナを中心にして三角形を作るようにそれぞれ別の方向を向いて、敵襲に備える。

 ーーすると。


「ウォォォォォォン!」


 狼の遠吠えに似た声が聞こえると、一斉に周りの草むらから狼型の魔物が飛び出して来る


「ちっ! ブラッドウルフの群れだ!」


 狼型の魔物、ブラッドウルフは単体ではそれほど強くはないが、群れで襲いかかって来るのに加え、すばしっこいのでフレーナを守りながら戦うには厄介な相手だった。


「よっしゃ! かかってきやがれ!」


 レオンが叫ぶと、その声に反応するかのように、ブラッドウルフがレオン目掛けて飛びかかって来る。

 レオンは大剣を両手にもち、木の棒でも振るうかなように軽々と横に薙ぐと、一気に五匹ほどのブラッドウルフを、ーー粉砕した。

 レオンの大剣はよく見ると刃こぼれがひどく、とても何かを切るのに適したものではなかった。レオンもそれを承知で力任せに振る。いくら何も切れないなまくらとは言え、その質量で振るえば、大きなダメージを与えることは容易だった。

 ブラッドウルフも、レオンの大剣さばきを見て学習したのか、今度はミーナとリュウに狙いをつける。

 リュウは飛びかかって来るブラッドウルフを次から次へと斬りさばき、あっという間に十匹ほどのブラッドウルフを肉塊に変えた。

 ミーナも軽い身のこなしで、ブラッドウルフの攻撃を躱し、的確に急所を切り裂いていくが、一度に処理できる数が少なく、討ち漏らしがフレーナの方へ抜けて行ってしまった。


「きゃあああっっ!」


 フレーナが声をあげると、大剣を左手で逆手に持ったレオンが右手でフレーナに襲いかかろうとしたブラッドウルフを殴りつける。

 その右手はバチバチと音を立てて、電流を纏っていた。

 左手の大剣を器用に盾のように扱い、雷をまとった拳で一撃を加える。これがレオンの得意とする戦闘スタイルだった。さらに特筆すべきことは、自分の身長と同じくらいの大きさの大剣を持ちながら、リュウとほぼ同じスピードで動けるということだ。


「よくやった!レオン!」


 リュウがまた一匹、地面にはたき落として叫ぶ。

 次々と屠られる仲間を見て、本能で勝てないと察知したのか、ブラッドウルフは散り散りになって逃げ出す。


「ふー。 なんとかなったな」

「ミーナもなかなかやるじゃん! 」

「ふふん。そうでしょ? 」

「みんな、ありがとう。 わたし足手まといだよね⋯⋯」

「そんなことないさ。 それにお前の魔装具(アーティファクト)が覚醒したら、案外お前が一番強かったりしてな」


 冗談めかしてリュウが言い、それぞれ武器をしまい、また歩き出す。


「さあ、山の麓までもうちょっと頑張ろう!」

「「「おー!」」」


 リュウにならい、皆、歩み始める。

 しばらく歩いて、山の麓に着いたところで日が暮れかかり、リュウはそこで足を止めた。


「今夜はここで野営しよう。 遺跡があるのはこの山のはずだから、明日の昼過ぎくらいには到着できるんじゃないかな」

「よっしゃ! 飯だ!」

「まずは準備からな」


 そう言って四人は野営の準備を始めた。

 

ーー遺跡の中で待ち受ける試練に気づく(よし)もなく、その日の夜は四人でたわいもない話をして、皆、眠りについた。

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