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贖罪のラクリマ  作者: 鈴木朔
第2章 獅子王の牙
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6話 ネネの思惑



「⋯⋯ それで? あなたが獅子王の牙(コルディス・レオニス)を探してるのはわかったけど、理由を聞かせてもらえるかしら。 私が情報を持っていたとして、いくらお金を積まれてもおいそれと教えるわけにはいかないの」


 ひとまず奥にあるダイニングに通され椅子に座って話を始める。


「⋯⋯そうね。 まずは自己紹介からかしら。 あたしはミーナ。 年は十八。 獅子王の牙(コルディス・レオニス)を探す理由は⋯⋯。 このことは他言無用でお願いしたいんだけど、口止め料はこれで足りるかしら?」


 そう言ってネネにゴールドの入った袋を渡す。


「それはあなたの秘密次第ね。 続けて?」

「⋯⋯ あまり見せたくないのだけど、仕方ないわね」


 ミーナはゆっくりと自分のフードを下ろすと、神々しいほどの煌めきを放つ、金色の髪がなびき、皆の視線は彼女の頭に釘付けになった。

 しかし、彼らが見ていたのは髪ではなくその上、彼女の頭から、ーー 猫耳が生えていた。


「珍しいでしょう? あたしは獣人(ベスティアモ)と人間の混血児。 あたしみたいにどちらにもなり損なったヒトは、そうそういないけどね」

「古代大戦からかなりの年月が経った今、その数を維持するため人間とも交わってきたという話は聞いたことはあるわ。 獣人(ベスティアモ)は本来、獣のように毛皮を持ったヒトだけど、ついに毛皮を持たない獣人(ベスティアモ)が産まれたわけね。 これで私がこの店にかけた魔法が聞かなかった理由がわかったわ。 この魔法は入れないようにする種族の頭髪とか、なにかしら身体の一部を使わなければいけないのだけれど、獣人(ベスティアモ)は対象にしなかったのよ」


 ネネが興味深そうにミーナを見る。

 ミーナはその視線が気に障ったのか、またフードを深々と被る。


「この姿のお陰であたしは生まれてからずっと、呪われた忌み子として村で迫害されてきたわ! お前は出来損ないだって。 だから、見返してやりたいの。 獣人(ベスティアモ)には、獅子王の牙(コルディス・レオニス)を手に入れた英雄が、悪の王を打ち倒すという伝説があるの。 だからなんとしてもあたしが手に入れなければいけないのよ!」

「待って頂戴。 仮にあなたが獅子王の牙(コルディス・レオニス)を見つけたとしても、あなたが使用できるとは限らないのよ? それにあなたたち獣人(ベスティアモ)が目の敵にする王って、帝国の皇帝のことよね? いくら強大な魔装具(アーティファクト)だとしても、あの国を滅ぼせる力があるとは思えないわ」

「いいえ。 使えるわ。 伝説には毛皮なき忌み子だけが、それの声を聞くことができる。とあるもの。 それに帝国と戦うのだって、もちろん一人じゃないわ。 獅子王の牙(コルディス・レオニス)があれば今生き残ってる獣人(ベスティアモ)達も召集に答えるはずよ」

「⋯⋯ ところで、なんでその魔装具(アーティファクト)を唯一扱えるかもしれないお前を、村の人間は迫害したんだ? 普通喜ぶだろ」


 リュウが口を挟むと、ミーナは悔しそうに話す。


「みんなもう獅子王の牙(コルディス・レオニス)の存在を諦めてるのよ。 古代大戦から三百年も経ったのに、未だに発見されていないから」


 ここまで聞いたネネがため息をついて額に手を当てる。


「これは運命のいたずらかしら。 それとも、神の導き? いいえ、なんでもいいわ。あなたこの情報のためにいくら払う準備があるの?」

「今あるのはこれだけ。 足りなければ一生かかっても払うわ。 知ってることがあるなら教えてちょうだい!」


 そう言ってずっしりとゴールドが詰まった大きめの袋を渡す。


「⋯⋯ この情報をあげるには、すこし少ないけど、いいわ。 教えてあげる。 ちょうど今朝私のところにそれに関する情報が入ってきたのよ。 この街から北西に歩いて三日ほどの山の中で、とある遺跡が発見されたの。 そこには古代の獣人(ベスティアモ)に伝わる紋章が彫り込まれていて、奥から溢れ出て来る魔力(マナ)の強大さから獅子王の牙(コルディス・レオニス)、もしくはなんらかの魔装具(アーティファクト)が眠っているのは確実らしいわ。 おそらく今から発てば、あなたたちが一番乗りでしょうけど、その魔力(マナ)に当てられて、強大な魔物達が活動を始めるってことを忘れないで。それに、もたもたしていると、共和国もしくは帝国の手の者に横取りされる可能性もあるからね」


 その言葉を聞き、ミーナは嬉しそうに目を見開く。

 レオンは退屈そうに話を聞いていたが、よし、と立ち上がる。


「そうと決まれば、さっさと準備して行こうぜ!リュウ! フレーナ! ミーナ!」

「お、おい! 待て! 俺たちも行くとは言ってないぞ!」

「はあ?! なんでだよ! お前らも来い!」


 二人のやりとりをみてネネが口を挟む。


「そうね⋯⋯。 あなたも付いて行った方が良いと思うわ。 リュウ。 確かにボウヤも腕は立つけど、古代の魔物が目覚めたのなら、ボウヤとミーナちゃんだけでは不安だわ」

「おいおい、こっちには戦えないフレーナもいるんだぞ。 そんな危険なところにこいつを連れて行けるかよ」

「それもそうだけど、仮にミーナちゃんが使用者として認められ、魔装具(アーティファクト)を覚醒させることができれば、フレーナちゃんのペンダントも連動して覚醒するかも知れないわ。 名前と能力がわかれば、なにかの手がかりにはなるはずよ」

「なー! 難しい話はいいからさー!早く行こうぜ! こんな面白そうなのめちゃくちゃ久しぶりじゃん!」


 リュウはため息ついてフレーナの方を向く。


「お前はどう思う? フレーナ」

「行ってみたい。 また守ってもらっちゃうけど、ミーナちゃんを放っておけないよ」


 ふー、と息を吐き、リュウは全員の顔を順番に見て話す。


「わかった。 付いて行ってやるが危険だと判断したらすぐに引き返すからな。 特にミーナ、 お前の気持ちはわかるが目の前で死なれるのは目覚めが悪いからな。 勝手に動くなよ?」

「わかってるわよ。さ、そうと決まれば、荷物をまとめて早速準備しましょ!」


 全員で立ち上がるとネネが声をかける。


「あ、ちょっと待って。 ボウヤ、ミーナちゃん、フレーナちゃんであっちから獣人(ベスティアモ)に関する本を探してきて頂戴。 私はリュウにちょっと用事があるから」

「えー!めんどくせー!」

「情報料、かなり負けてあげたんだからこのぐらいで文句言わない! さっさと行きなさい」

「ちぇっ、わかったよ」

 

 三人がダイニングを出て行き、本屋の方に行くのを確認すると、先にリュウが口を開いた。


「ずいぶんと親切に教えてやるんだな」

「ふふっ。あなた、まさか私が善意であれだけの情報をあげたと思っているの?」

「っ!? あの子が獣人(ベスティアモ)であることを口外するつもりか?!」

「ふふ。たしかにその情報も高く売れるでしょうけど、そんな理由じゃないわ」

「じゃあなんだってんだ?」

()()()()()()()、に決まってるでしょ?」

「⋯⋯ あんたも大概イカレてるな」


 いつもの品のある笑みではなく、狂気を感じさせる笑みを浮かべるネネに、リュウは頭を振る。


「帝国ほどの強大な国がぶっ壊れちゃうところ、見てみたいじゃない?」

「⋯⋯ それで? 俺に話ってなんだ?」


 問いには答えず、リュウは要件を聞く。


「ふふっ。 その前に、 その剣、どこで手に入れたの? 力を使うことはできないみたいだけど、それ、ただの魔装具(アーティファクト)じゃない、魔宝具(スペキアリス)よね?」

「⋯⋯ そうなのか? これは随分昔に剣の師匠から譲り受けた物なんだ。 能力を使ったことはないけど」

「ふうん。 本当にその剣の能力も知らないし、名前も知らないというわけね?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「あなた、ローランという騎士を知ってるわね?」

「⋯⋯ ああ、帝国の騎士だろ。 二年前に死んだっていう」

「そう。 孤児の身でありながら帝国の名門貴族、ウルフェウス家に養子として入り、世界最強の名を欲しいままにした帝国の英雄⋯⋯。 しかし、二年前のある日、突如として帝国の都市一つを完膚なきまでに破壊し尽くし、叛逆者として指名手配された、悪名高き大罪人」

「そいつがどうしたんだ。 もう死んだ人間だろ」

「それが、二年前に帝国騎士団による追跡の結果、帝国領の外れで死亡したと帝国が発表したものの、未だ死体が発見されていないらしいの。 帝国はまだ彼がどこかで逃亡を続けていると極秘裏に断定し、少数精鋭の特殊部隊に追跡を続けさせているそうよ」

「⋯⋯ 初耳だな」

「そう? それで聞きたいことなんだけどね。 あなた⋯⋯、本名は何なの?」

「⋯⋯ 何が言いたい」

「ローランが振るったとされる聖剣デュランダル。 魔宝具(スペキアリス)の中でも一際強い力を持つと言われる剣。 それとあなたの持つ剣がどうもよく似ていてね。 もしも、あなたが()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ネネはまたしても狂気を感じさせる視線でリュウの目を見つめる。

 リュウもまっすぐネネの目を見る。


「とっても面白いと思わない?」

「ふっ。 もしそうだったらな。 だが残念ながら俺はリュウ。 ただのリュウだ。 この剣についても、何も知らない」

「そう⋯⋯? 残念ね」

「ああ、力になれなくて悪かったな」


 そう言って、リュウはダイニングを後にする。


ーー 後にはなにやら満足げな笑みを浮かべるエルフの女だけが、部屋に残された。


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