5話 奇妙な再会
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「か〜、食った食った!」
背中に自分と同じくらいの長さの大剣を背負った茶髪の少年が、テーブルの上に皿を山積みにして、満足そうに腹をさする。
リュウとフレーナは引き気味でその姿を見る。
「奢ってやるとは言ったけど⋯⋯、 食い過ぎだろ!」
「にへへ。うまかったぜ!」
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時はリュウとフレーナが宿屋を出て、料理屋を探しはじめたころに遡る。
二人が歩き始めると、フレーナと同じくらいの年の少年が目の前に立ちはだかった。
「お前!リュウか!?」
「お前は⋯⋯、 レオンか?」
「おお〜!ひっさしぶりじゃん!」
そう言って二人はお互いの拳を打ち合わせる。
するとリュウは隣でフレーナが二人を不思議そうに見ていることに気づいた。
「ああ、こいつは、レオン。 賞金稼ぎをやってて前に、何回か一緒に仕事をしたんーー」
「ええーーっ! お前ついに女できたのか?!」
リュウの言葉を遮ってレオンが声を上げる。
「なっ! ちげえよ! こいつはフレーナ。 記憶喪失だから記憶を取り戻すために一緒に旅してるだけだ!」
一瞬フレーナが悲しそうな、寂しそうな顔をしたのは気のせいであるはずだ、とリュウは自分に言い聞かせる。
「はーん。記憶喪失かー。大変だなー」
「思いっきり人ごとだな⋯⋯」
「なー、それより腹減んねー? 飯食いにいこーぜー」
「はあ。 相変わらずだなお前は。 食いに行くって金持ってんのか?」
「ない!」
「だろうな。 わかったよ。 久しぶりだし奢ってやるよ。」
「さすがこのオレ様が認めた漢だぜ! リュウ! さあ行こうぜ! この辺で美味い店知ってんだ!」
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そして今に至る。
「⋯⋯ったく。 飯の感想なんか聞いてねえよ。 まあ、美味かったけど」
「ね。とっても美味しいかった」
「だろ? あ! フレーナ⋯⋯だっけ? オレはレオン! よろしくな!」
「よ、よろしく」
「挨拶おせえよレオン! 」
本当に相変わらずだな、とリュウはため息をつき気になっていたことを口にする。
「ところで、お前はなんでこんなところにいるんだ? キャラバンの護衛の依頼でも受けたのか?」
「いや、なんか変な依頼受けちゃってさー。情報屋のあいつのとこにいくところだったんだよ」
「お、お前もか、俺らもそいつに用があるから一緒に行くか」
◇
市場から伸びる三本通りのうち左側の通りに入るとそこは、飲食店の通りよりさらに一通りが少なく、心なしか薄暗かった。
フレーナがリュウの袖を掴み、それを見てレオンがにやにやしている。
リュウはレオンの表情に気づかないふりをして、通りで一番ボロボロの廃屋にしか見えない建物のドアをノックする。
「あら。リュウね。いらっしゃい」
どこからか魔法でこちらを見ているのであろう、ドアの向こうから若い女の声がした。
三人で中に入ると外の見た目からは想像もつかないほど、小綺麗な内装をした本屋のようだった。
入って突き当たりのカウンターに、豊満な身体つきを見せびらかすように、胸元の大きく開いたシャツを着て、丈の短いスカートを履いた女性が座っていた。
彼女には他の人間と違うところが一つ。
ーー耳が大きく尖っていた。
そのエルフの特徴を際立たせるように、大きな円形のピアスを両耳に着けている。
その佇まいは露出が多いとはいえどこか品があり、艶っぽく見えた。
「久しぶりだなネネさん」
「久しぶりね。 リュウ。 それにボウヤ」
「ボウヤはやめろって言ってんだろ!」
レオンが憤慨した様子で手足をジタバタさせると、切れ長の目を細めてネネは笑う。
「ふふっ。そういうところがボウヤなのよ。 そちらのお嬢さんは?」
「ああ、今日はこいつについて聞きたいことがあってきたんだ」
リュウがフレーナの方を向き、挨拶を促す。
「初めまして。 フレーナです」
「初めまして。 私のことはネネって呼んでね」
「わかりました。 よろしくお願いします。 ネネさん」
「礼儀正しくて可愛い娘ね。 どこでこんないいお嫁さんを見つけたの?リュウ」
「だから違うってば! こいつは記憶喪失でこいつに関する手がかりを情報屋のあんたに聞きにきたんだ」
ふーん、とネネはフレーナを隅々までじっくりと見る。その所作の一つ一つに高貴さが滲み出ている。
その間にリュウは情報量のゴールドを渡す。
「ネネさんが、えるふ? ですか?」
「ふふ。 そうよ。 エルフを見るのは初めてかしら?」
「はい! 記憶が無くなる前にはあったかもしれないけど⋯⋯」
「なるほどね。 どこから記憶があるの?」
「気づいたらカルネの森にいて、目の前に大きな魔物が現れたところから⋯⋯です」
「そこにこの正義の騎士様が駆けつけたってわけね」
リュウは否定も肯定もせず不機嫌そうな顔でネネを見る。
「ふふっ。さて⋯⋯、それで、この子と森に落ちた一筋の光、膨大な量の魔力の因果関係を調べているってことね」
「さすが、耳が早いな。なにか知ってるのか?」
「申し訳ないけど、この件は私たちも調査中よ。 今、私の仲間たちが情報を集めているところ⋯⋯。 そのペンダント、見せてもらっていいかしら?」
促され、フレーナはペンダントを外そうとするが、なかなか取れない。見かねたリュウが手伝うが、ピッタリと金具がはまっていて、取れそうもなかった。
ネネがカウンターに身を乗り出し、フレーナの胸元のペンダントに直接顔を近づける。
「これは⋯⋯」
「何か知ってるのか?」
「いえ、正確にはわからないけど、とんでもない魔力が込められているわね⋯⋯」
「やっぱりかなりの力を秘めているのか」
「この子を一人にしなかったのは賢明な判断ね。 あなたが付いていなかったらこの子、生首になってるわよ」
深刻な表情でネネが呟いたことで、不安になったのかリュウの袖にフレーナがしがみつく。
「ふふっ。 そんなに心配しなくていいわ。 こう見えて、リュウはこの辺じゃ敵なしなくらい強いんだから」
「そうだ!こいつを倒せるのはオレくらいだからな!」
「余計なことを言うなレオン。 それで、この魔装具については?」
「それもダメね。 この子に関してはわからないことが多すぎる。 外れないところを見ると、その魔装具に使用者として認められているとは思うけど⋯⋯。 なにか能力を使ったことはないんでしょう?」
フレーナはこくん、と頷き、答える。
「そうね⋯⋯。 まずは学術都市に行くべきね。 あそこならその魔装具の情報も得られるでしょう。それだけの魔力、もしかしたら、魔宝具の可能性もあるわね」
「すぺき⋯⋯?」
「魔宝具。魔装具の中でも、人間のために作られた魔装具とは違い、実際に神々や魔族が使っていたとされる武器や道具のことで、普通の魔装具よりもさらに強力な力を持ってる物を言うんだ。 もっとも、魔宝具の存在は一般の人間にはあまり知られていないけどな」
リュウが説明するとフレーナは納得したように頷く。 知識の飲み込みは大分早いようだ。それに比べてーー。
「だあーー!何言ってんのかさっぱりわかんねえよ! そろそろ俺の用事を済ませていいか?」
レオンが頭をかきむしって抗議する。
はいはい、とネネが子供をあやすようにレオンに話しかける。
「ボウヤはどうしたの?」
「だから! それやめろっての! オレはなんとかって魔装具の捜索を依頼されたの! この辺にあるらしいんだろ? どこにあるか知らない?」
「心当たりはあるけど、なんとかって言われて、正確にわかるわけないでしょ」
ピシャリとネネに言われて、レオンは頭を抱える。
「えーっと、なんだっけなあ。こる⋯⋯でぃおすみたいなやつ!」
「⋯⋯まさか。 獅子王の牙のことを言っているの!?」
「そーだ! それそれ! どこにあるんだ?」
「簡単に言わないで頂戴! それは共和国も帝国も血眼になって探してる代物よ! いったい誰に依頼されたの?」
「なんかよくわかんないフードかぶったやつ。 面白そうだったからさー」
「まったく、あなたって子は。 いい? 獅子王の牙は今言っていた魔宝具の一つよ。 悪いことは言わないから、その依頼は断りなさい。 ロクなことにならないわよ?」
「えーー! なんでもいいから教えろよー!」
レオンが大声でごねていると、ドアが突然開いて、フードを被った少女が飛び込んできた。
「やっと見つけたわよ! このっ⋯⋯。 ふにゃあっ!」
きちんと言い終わる前にネネとリュウは恐ろしい速さで彼女に詰め寄りネネは短刀を、リュウは腰の剣を、彼女の首筋に突きつける。
ネネの許可なしにこの店に入ることは出来ないよう、魔法が施されているはずなのだが、その魔法を無視して入って来るほどの侵入者には、こうすることがこの店のルールだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。 私、何か悪いことした!?」
「この店には簡単には入れないように魔法が施されていたはずだ。 どうやって入った?」
「どうやってって、普通に入ってきたわよ!」
「嘘をつくな!」
「待ってリュウ。 確かに、 この店の魔法は解かれていないわ」
ネネは怪訝な顔をしてフードの少女を見つめていると、フレーナが口を開いた。
「ねえリュウ! この子、昨日川で倒れてた子じゃない?」
「⋯⋯ ほんとだ」
よく見るとその少女は先日、川で休憩していたときにフラフラと倒れこみ、リュウたちが水を与えてやった少女だった。
「あ! あの時の! あの時はありがとうございました。」
「どう⋯⋯ いたしまして」
微妙な空気が流れる中、レオンが突然大声を出す。
「あーーー! こいつ! 俺に魔装具捜索依頼出したやつ!」
今更かよ、と全員がレオンを白い目で見た。




