あなたの来世はネコ決定…?
コホン。どうぞ初めまして!私はネコのミカンと申します。性別はメスでございます。
ネコの種類を人間で呼ばれる言葉で呼ぶと、ベンガルという種類だそうです。正直、種類の名前はどうでもいいですが、ベンガルらしい毛並みで外へ出かけると、たちどころに下賎な野良猫共に求愛を受けてしまう程の美しさです。私の自慢でもあります。
こんな美しい私にミカンなどと言う名前は少々似合わなさ過ぎるとは思いますが、我が親愛なる主様から頂いた名前なのでケチを付けるなどということはいたしません。
名前の由来はあまり言いたくはありませんが、自己紹介をしてしまった以上、皆様に知っていただくために一応話しておきましょう。
お恥ずかしいお話なのですが、私は最初から今の主様に飼われていた訳では無いのです。私も小さい頃だったのであまり鮮明には覚えておりませんが、確かに今の主様の前に私の飼い主様がいたのです。そして、私は何かの理由で捨てられてしまいました…。悲しい過去ではあるのですが、今の私にとっては主様に会えたのでこれで良かったのだと心から思うことができます。そして、私が捨てられた時に入っていたのがみかんのマークがついたダンボールだったため、お優しき現主様が新たに付けていただいた名前がミカンになってしまったのです。
流石は主様ですね!常人には到達することの出来ない思考の領域で私のお名前を考えてくださっています。まぁ、確かに小学生が同じような捨て猫を拾った時に付けてもおかしくは無い名前ではあるのかもしれないですが、主様が付けるのでは全くもって意味合いが変わってきます!考えに考え抜いた上での、一周まわってミカンなのです!
決して名前にかんして文句はありませんよ?いや、ホントに…。
長々と一人語りをしてしまいましたが、まぁ私が何を伝えたかったかと言うと、私の話を最後まで聞くあなた方は、きっと、来世はネコに生まれたいとそう思ってしまう、ということが言いたかったのです。
ネコは素晴らしいです!何もが自由で、私のようにお優しき主様に出会えれば、なお幸せでしょう。
そう!あなたの来世はネコ決定です!!
5月X日。坂木原駅周辺、渚マンション 2階。
ミカンは堂々と歩き、人間の大人1人が上から下まで全て映る程の大きな鏡の前でちょこんと座った。
(おはようございます!ネコのミカンです!)
(今日は皆様には今の私の愛しき主様と私の愛の住処などを紹介していきたいと思っています!)
(現在、私、ミカンと我が主様、本名 東城とうじょう 章弘あきひろ様は渚なぎさと呼ばれているマンションの2階に住んでおります。正直、この渚は高級マンションです。主様の事は今度の機会にお話しようと思いますが、主様は儲けることができるお仕事についておるため、お金持ちの方であります。流石は我が主様です。)
ミカンがミャーミャーと鳴いているとミカンがいるリビングに章弘が入ってきていた。章弘は元気なミカンを見るなり笑顔で近づき、頭を撫でた。
「やぁ、朝から元気だねミカン。でもね、それは鏡なんだよ〜。」
ミカンが鏡の前で先程からミャーミャと鳴いている事に気が付き、章弘は自分の寝室からリビングへやって来ていた。
(おっと、お恥ずかしい!主様に私の演説が聞かれてしまった。)
ミカンはすぐ様鏡の前で鳴くのをやめ、大好きな主の足元に首をくっつけ甘えるような行為をおこなった。
(おはようございます!今、私は我が主様の素晴らしき事を他の皆様に分かってもらうための演説の練習をしていたのです!ささっ!主様!もっと頭を撫でてくだされ!)
「ん?お腹でも空いたのかい?いい時間だな…。」
ミカンの求愛は悲しくも受け流され、章弘には空腹からの行動ととられてしまった。
(主様、違うのです…けっして、お腹を空かせているわけではないのです…。)
ミカンは章弘が気を利かせて、目の前に出されたオヤツのビーフジャーキーを見つめ、ガッカリした声をあげながら鳴いた。
空腹で擦り寄ってきていると思っていた章弘は、食いつかないミカンを見て不思議思い、ウンウンと唸りながら考え始めた。
そして、何か思いついたかの様にアッと声を短くあげ、ネコ一匹が通れるくらいに窓を軽く開けた。章弘の家ではミカンがよく外に出たがるので窓を軽く開けることが風習となっていた。
「ごめんな?ミカン。忘れてたよ…、はい。いつでもいいからな?その代わりちゃんといつも通りちゃんと帰ってくるんだよ。」
章弘もミカンがネコの中ではかなり頭がいいことを知っていたため、1人でミカンが外に出ることをあまり心配はしていなかった。それに、今まで何年も同じことを繰り返してきたが、ミカンが帰ってこなかったということはなく、それどころかどんなに遅くても必ず夕方の5時には帰ってきていた。
章弘はミカンの考えていることを当てたと言わんばかりにニコリと笑い、ミカンを見つめた。
(いえ、主様。外に出たかったわけでもないのです。)
ミカンは再び、悲しく聞こえなくもない声で短く弱々しく鳴いた。そして、再び先程の大きな鏡の前にちょこんと座った。
(こんなふうに主様はお優しいですが、私はネコのため、会話や意思疎通は難しいです。ですが、そんな中でもお互いの思っていることが通じ合う瞬間が多々あるのです。私、ミカンはその瞬間がとてつもなく好きなのです。今日は出鼻をくじかれましたが、これからも私の話を聞いていくあなた方はきっと、来世はネコに生まれたいと思えるとそう思っております。ふつつか者ですが、どうか宜しくお願いします。)
ミカンは再びミャーミャーと鳴き、鳴き終えるとお辞儀をするかのように頭を下げた。
「ミカン~。だからそれは鏡だって。」
章弘はミカンが鏡に映る猫に話しかけている様に鳴くのを見て、おかしく思い笑いながら気分よくそう言った。