四月生まれの僕がカメに雑談力を磨かれるお話
四月某日、例の森にて。
「さて、いよいよ待ちに待ったこのワシの番じゃ」
「うん。よろしく頼む」
「待ち遠しかったであろうなあ。このワシの登場を今か今かと待ち侘びておったことじゃろう」
「いや、ごめん。そこまで言われるとそれほどでもない」
アカネってこんなに面倒臭い奴だったかだろうか、老人キャラを通り抜けて長老みたいなキャラになってる。
「一日千秋とはまさにこのことじゃ。時にユウタよ。何故春でも夏でも冬でもなく秋なんじゃと思う?」
「ん?言われてみればそうだな。同じ待つなら冬とか夏のほうが苦痛なのに」
どうして中途半端に過ごしやすい秋を選んだんだろう?確かに気になる。
「そもそも一日を千の秋。つまるところ千年と感じるというのはそれはもう一種の病ではないかとさえワシは思うのじゃよ」
「まあそうだな。単純に計算すると一年が365日だから千年だと35万日くらいか?軽く悟りが開けそうな日数だな」
「まあ、一日三秋というもう少し現実的な諺もあるにはあるがの」
千年から三年に急に落とされるといけるような気がしてくるが、実際は千日以上。悟りは開けないにしても何かに目覚めるのには十分だ。
「この問いに対するワシの答えは『秋の日はつるべ落とし』という言葉にある」
「まさか、秋は他の季節と比べて短いからとか言うんじゃないだろうな」
「いや、そのまさかじゃよ。」
このことわざの由来には諸説あるのだろうが、少なくとも今アカネが言ったものでないことだけは明らかだ。
ん?いや待てよ。
「なあアカネ。よく考えたら秋を千回経験するってことは同じ数だけ他の季節も経験するってことにならないか?」
「・・・」
黙っちゃた。痛いところを突いてしまったのだろうか。
「み、みごとじゃユウタよ。よくぞ気付いた。ワシはおぬしの知力を見るためにわざとあのようなことを言ったのじゃ」
生徒に間違いを指摘された先生みたいなことを言っている。いや、今時こんなことをいう先生はいないか。
「よし、それでは腕試しも済んだことじゃし本題に入るとするかのう」
さっきのが本題かと思っていたが、そうじゃなかったようだ。
「おぬしは確か4月29日生まれじゃったな?」
「ああそうだよ。よりによって国民の祝日とかぶってる。そのせいで友達から誕生日を今に至るまで一度も祝われたことがない」
「いやそもそもおぬしは友達おらんじゃろ」
「やなことを思い出させるな。今はいなくても昔はいたんだよ」
一応言っておくが中学までは本当に友達がいた。それもそこそこの人数。
「まあおぬしのどうでもいい自虐ネタ捨て置くとして、」
「捨て置くな。そしてどうでもいいとか言うな」
自虐ネタを拾ってもらえなかったらそれはただの自傷行為になってしまうというのに。
「おぬしはどっちにせよおうし座じゃな」
「星座の話か?確かにおうし座だけどどっちにせよっていうのはどういうことだ?」
「十二星座と十三星座という意味じゃよ」
「十三星座?」
寡聞にして知らない言葉だった。
「十二星座のさそり座といて座の間にへびつかい座を加えたものじゃよ。それぞれの星座に該当する誕生日の期間が均等でないというのが十二星座と比べた時の大きな違いじゃ。逆にいうとそれ以外は一緒というわけじゃ」
「へー。そんなのがあったのか。でもあんまり流行ってないだな。今初めて聞いたぞ」
「その通り。十三星座占いはあまりにも当たってしまうために影の権力者によって葬られてしまったのじゃ」
「影の権力者!?なんだそれは。十三星座ってそんなに当たるのか?」
「あるいは13は素数で雑誌に載せるときにレイアウトに困るからという理由も考えられるが」
「絶対そっちが正解だろ!」
「まあありとあらゆるものを疑うというのも青春ならではのことじゃ」
「そんなひねくれた青春は送りたくない」
「友達を作れておらんおぬしの言うことか」
ぐうの音もでない・・・。
「しかし、今ふと思ったのじゃ。秋の日はつるべ落としとは言い得て妙じゃなと」
「そうか?僕は生まれてこの方つるべを見たことがないから、いまいち実感のわかない言い回しなんだけど。」
つるべとは井戸から水をくみ上げるときに使う桶のようなもののことだ。
「いや、ワシが言っておるのは『秋』と『落とし』をかけてるところじゃよ。どちらも英語で言うとfallというところに注目したのは流石じゃ」
「いや、このことわざを最初に言った人は間違いなくそんなこと想定してない」
大昔の日本人なのだから。
しかし、アカネの口からアルファベットが飛び出すとは。こいつは本当に自分が言ってるほど年食ってるのだろうか
「では、話のネタも尽きたところじゃし、おぬしは家に帰って勉強でもするがよい」
「そうだな。明日は土曜日。学校は昼までとはいえ授業はしっかりあるからその予習もしないといけないしな」
そう言って僕は立ち上がる。
「そういえばおぬしの誕生日、もし当日になっても祝ってもらう当てがなかったらワシらのところに来い。祝詞くらいは上げてやろう。」
「祝詞に祝いの言葉って意味は無いぞ」
まあそれを知った上でのボケなのだろうが。
どうやら僕は近々生まれて初めて友達に誕生日を祝ってもらえるようだ。
そんなわけで四月生まれの僕がカメに雑談力を磨かれるお話は終わる。
前回からだいぶ時間が経ちましたがようやく第三話です。意図したわけではないんですが、ギャグは控えめになりました。
意外と老人口調は書きやすいんですが違和感等無かったでしょうか?