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友達のいない僕がウサギとカメに雑談力を磨かれるお話

僕の名前は山城悠太ヤマシロユウタ。高校二年の十六歳だ。

僕には友達がいる。それは日本語を話すウサギ。日本語を話すカメ。

以上。


僕のことを「痛いやつ」みたいに思いたい気持ちも分かる。友達が二人しかいないうえにそれが動物だなんて、と思っているのだろう。

しかしそんな考えは僕と彼らとの日常のその片鱗を開示するだけですぐさま消滅するだろう。

それではさっそくお話ししよう。憎たらしくも愛らしい、僕の大切な友達と過ごす素晴らしい日々を。


学校が終わると僕はまっすぐ家に帰る。そして私服に着替え、手土産を持って家から歩いて5分くらいのところにある森へと向かう。

その日は偶然森の入り口に僕の友達の一人であるユキがいた。彼はオスのユキウサギで

「おうユウタやんけ。その手に持ってるのはあれか?差し入れか?」

何故か大阪弁で話す。大阪生まれなのだろうか。


「ああ、今日はキャベツだぞ」

「じゃあはよくれや。今くれや」

そう言ってユキは僕の足元でピョンピョン跳ねる。

「だめだ待て。アカネの分もあるんだよ。いまどこにいるか分かるか?」

「さっき池のところで甲羅干ししてたわ。こっちやで」

僕は足元に気を付けながらユキの後を追う。ちなみにアカネとはメスのイシガメで僕のもう一人の友達だ。


ユキの後を追って森の中を進むと森の中にある池に着いた。そのほとりにある倒木の上に彼女はいた。頭からしっぽにいたるまですべて甲羅の中に入れていたため遠目には石にしか見えなかった。

「寝てるのかな・・・?」

僕は甲羅の中に収納されているであろう彼女の顔をのぞき込む。

「いや、起きとるよ。よく来たのうユウタ」

そう言って彼女は頭を甲羅から出し、続いて手足、最後にしっぽを出した。

彼女は声はかなり若々しいのだが何故かこのように老人口調で話す。キャラ作りのためなのだろうか。彼女の実年齢を知らないだけに何とも言えないのだが。


「今日の差し入れはユキにはキャベツ。アカネには煮干しだ」

「待ってました」

「いつも悪いのう」

二人の前にそれぞれ食材を配置し、僕は食事をする彼らを眺める。

二人とも黙々と食べている。この時見せる表情が彼らの見せる表情の中で最も動物らしいと僕は彼らの食事を見るたびに思う。

彼らとは高校一年の時にこの森で出会った。以来友達としての関係がスタートして、もう二年目だ。

同じ学校におよそ友達と呼べるほどの人間がいない僕にとって彼らは最高の癒しになってくれているわけなのだが、そのお礼として僕が彼らにやってあげられることというのはこの週に一回の差し入れだ。

彼ら曰く「森は食料の宝庫」らしく差し入れは週に一回がベストらしい。なので差し入れの日以外の僕は手ぶらでこの森に来て彼らとおしゃべりをするというわけだ。


そうこうしているうちにユキが食べ終わった。

「うまかったわ。ごっそさん」

そして彼は地面に前足後ろ足をつけて大きく伸びをし、そのままゴロンと横になった。

「地球の緑のために貢献して疲れたわ。俺跳ねるから帰るとき起こしてな」

「ちょっと待て今のお前のどこにそんな躍動感がある。正しくは『俺は寝るから』だ。そしてお前が今したのは食事であって植樹じゃない。地球の緑には貢献してないよ」

あの短い文にここまでボケを盛り込んでくるとは、突っ込み甲斐があるというものだ。

それからすぐしてアカネも食べ終わり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

「地層になったのう。美味であったぞ」

「確かにカメは昔から長寿の象徴とは言われているけどもお前が化石になるのはもう少し後の話なんじゃないのか?正しくは『馳走になったのう』だ」

「相変わらず突っ込みの腕は一流じゃのう。いっそお笑い芸人になってはどうじゃ?」

「芸能界はそんなに甘くないし、それに漫才は一人じゃできない」

アカネは僕の膝の上に乗り甲羅干しを再開する。しかし今度は頭は出したまま。これがお決まりのパターンだ。


「時にユウタよ。おぬし平日のこんな時間にわしらなんぞと遊んでいてもよいのか?」

「うん。僕は塾にも行ってないしクラブにも入ってないから」

「おいおいユウタ。あかんでクラブに入ってないとか」

寝ころんでいたユキが跳ね起き、僕の空いているほうの膝に文字通り跳び乗る。

「クラブ活動っちゅうのはなあ青春の醍醐味やろうが」

このウサギ、青春なんぞ一度も経験したことないくせに何を言っているんだ。と思うが口には出さない。

「ユウタ。お前友達がおらんってゆうてたけどもしかしてそうゆうところも原因としてあるんちゃう?」

「いや、そんなことないんじゃないかな・・・」

「いや、今のユキの言葉には一理あるのう」

アカネがユキの肩を持ち出した。

「さっきおぬしは見事な突っ込みを見せた。そのうえわしらとも普通に話せておるところからコミュ力がないというわけではないのじゃろう」

この老人口調のカメから「コミュ力」などという言葉が飛び出したのには少々驚いたが、実際その通りだ。話しかけられれば普通に話せる。そう、話しかけられれば。


「じゃからおぬしに無いのはコミュ力ではなく雑談力じゃよ」

「雑談力ねえ、確かにそれがあれば初対面の人ともおしゃべりできるんだろうけど。相手がどんな人かわからない以上変に話しかけてもいけないし」

「やったら俺らが教えたるやんけ。雑談力の極意を」

「そうじゃぞ。わしらはおぬしの友達じゃ。遠慮するでない」

「ああ、うん。ありがとう・・・」

かくして友達のいない僕がウサギとカメに雑談力を磨かれるお話は始まる。


一応連載という表記をしましたが、不定期に投稿することになると思います。

基本一話完結型なのでどのお話から読んでもらっても大丈夫なようにしています。

定期連載の物語は活動報告での予告通り5月からを計画しています。

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