序
いまにも壊れてしまいそうな、女がいた。
そこは都心から少し離れた住宅街の一角、工事中の看板と白い壁に囲まれた、建設中のマンションの一室。
まだ鉄骨やコンクリートが剥き出しで、鉄と埃の臭いが充満している。
真夏ではあるがもう夜深く、付近には人の気配はない。
家々の明かりは消え、唯一の光源である街灯には、光に誘われたカナブンが集まり、狂ったようにライトにぶつかり続けている。
その街灯の光もマンション内には届かず、窓から差し込む月明かりのみが、僅かに室内の埃をキラキラと輝かせている。
そんな部屋の中で女は膝を折ってうずくまり、肩を震わせ、涙と嗚咽を漏らしている。
女の目の前には、少し前までは人であったはずの、肉の塊がある。
カラスや野良犬に食い散らかされた生ゴミのような、滑り落ちて床に弾けたトマトのような、もはや元の形も分からない程に引きちぎられ、抉られ、むしりとられた、無惨な肉塊が。
女の両手と口許には、血と肉片がべっとりと張り付いている。
女は泣きながら、今にも消え入りそうな声で嘆いている。
ごめんなさい、ごめんなさい、食べちゃってごめんなさい、と。
続くかな…(ほぼ始まってもないけど)