第1話
「最初はグー!ジャンケンポン!」
あいこでしょ、あいこでしょ!!と、校地内の中庭でじゃんけんをする男子高生が3人。
3人とも胸のうちに秘める思いは強く、負けるわけにはいかなかった。
「っしゃあ!!」
何度目のジャンケンだっただろうか。斗真が勝利した己の右手を高く突き上げる。
ママ勝ったよ〜!とスキップをしながら中庭を回る斗真。
残った2人は、気合を溜める。
「…どうやら、この時が来てしまったようだな」
遥人は目を光らせる。
「どんな結果でも、恨みっこなしだ…」
一樹も同じように目を光らせ、遥人を睨みつけた。
2人のただならぬオーラに斗真は息を飲み、一筋の汗を流す。
「「いくぞっ!!」」
「「最初はグー!ジャンケンポン!!」」
「っしゃぁぁぁぁ!」
「くそぉぉぉぉぉ!」
勝利の拳を高く振り上げたのは一樹だった。
対する遥人は地べたに転がり回っている。
「天使は俺に微笑んだのさっ!」
空を指さしながら微笑む一樹。
「三回勝負!三回勝負!!」
遥人は土下座をしながら懇願するも、斗真と一樹は見下したまま、動かない。
「じゃ、この荷物を先生のところに運ぶのは遥人だなー!」
斗真はそう言って、ベンチの上に積み重なった段ボールを指さす。
「いやー、仕事取られちゃったー残念だなー」
そう言う一樹の顔は満面の笑み。遥人は、3人で運ぼうぜ〜、訴え続ける。
「というか!元はといえば一樹の仕事だろ!」
そう言う遥人を無視し、帰ろうとする斗真と一樹。
「えっ、ちょっと待てよ!」
「じゃ、あとはよろしくな〜」
中庭に1人取り残された遥人。
まじかよ〜…、と段ボールの隣に座り込んだ。
「これ、絶対一人で運ぶ量じゃねぇよー。はぁ〜めんどくせぇ…」
仕方なく、1人で運ぼうとする遥人。しかし予想以上に重い段ボールによろける。
そんな遥人をずっと見ていた黒い影が3つ。
「あいつ…旨そうだな…」
「珍しいですね。レオン様が蜘蛛以外の魂に目をつけるなんて」
「ちょっとノエル!レオン様があの苦くて不味い蜘蛛の魂ばかり食べてるみたいじゃない!」
「実際そうでしょ…」
3人の名前は、レオン、ジルダ、ノエル。
────悪魔だ。
悪魔は生きている魂を食べることで生を保つことが出来る存在。
この3人の悪魔グループの中のリーダー、レオンは蜘蛛の魂が好物である。しかし今は珍しく、人間である遥人の魂に目をつけていた。
「蜘蛛の魂は、みなが思ってるより旨いんだぞ」
自分の好物を馬鹿にされたことに少し苛立ちつつ、2人にそういうレオン。
レオンに恋心を抱いているジルダは態度を一変し、私もそう思います♡、と返した。
「私も、蜘蛛の魂を食べてみたいです♡」
「食べてみたい、か…」
レオンは植木のところへ歩きだした。
「ジルダ。ここに美味しそうな蜘蛛がいるぞ」
私は結構です…、とノエルは呟いた。
「お前にやろう」
「え」
レオンは蜘蛛を捕まえジルダの前へ差し出す。
「だ、だ、だ、だ、だい、じょうぶ、ですよっ!レ、レオン様がお食べになられたらどうですかっ?」
引きつった笑顔で断るジルダに、ノエルは溜息をついた。
「お前、さっき食べてみたいと言っていたじゃないか」
不思議そうに問いかけるレオン。ジルダの冷や汗が止まらない。
「え、えと…あ!そう!今はおなかがいっぱいなので!はい!そんなことよりも、逃げられちゃう前にこの人間をお食べになられたらどうですか?」
ジルダは、荷物を運ぼうと努力している遥人を指さしながら声を荒らげる。
ジルダの冷や汗が、ポタリと地面に落ちた。
「…それもそうだな」
レオンのその言葉にジルダは安堵する。
レオンは、人間の魂を喰らうのは何年ぶりだろうな、と呟きながら左手を遥人にかざした。
その時、遥人の胸が強く痛み出す。心臓を直接握り潰されるかのような間隔が全身を駆け巡る。
声にならない悲鳴が、遥人から飛び出す。
「か……は…」
遥人は死ぬような痛みに、意識を手放した。