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超攻速電脳母艦ガルヴィオンのうた②

「飛竜が、もう1頭!?」


 ハルミが驚嘆の声を上げる。

 曇天の夜空に突如姿を現した青い光源は、飛竜の脇をかすめながら凄まじい勢いで城下町に到達した。

 全長50メートルの飛竜が子供に見えるほどの巨体。

 彼女の目には2頭目の飛竜、それも青く輝く鎧を全身にまとった金属の飛竜に見えた。


「やった! まさか本当に来やがった!」


 今度はギンガの歓喜の声だ。

 思い付くきっかけは、ルイが装着するX-OR合金製コンバットアーマーだった。

 それは普段、宇宙空間に待機する電脳母艦ガルヴィオンに保管され、必要に応じて粒子となって主人公の周辺に電送装着されるのだ。

 つまりギャリバンのコンバットアーマーが存在するのならば、宇宙空間にはガルヴィオンが存在していることになる。

 そして指令を出せば電脳母艦は頭と尻尾、4本の足を艦体内部から外へと展開させた戦闘形態「電脳戦竜ガル」へと変形を遂げて、ギャリバンの元へ飛来するはず。

 その無茶苦茶で屁理屈に過ぎる理論は、精神力を絞り切ったギンガとルイのスキルによってまかり通ってしまった。


 かくして飛んできた電脳戦竜ガルは、上空から城下町を見下ろしていた飛竜の脇を猛スピードですり抜ける。

 いや、すり抜けるにはあまりに巨大な200メートル級の艦体で飛竜を軽く弾き飛ばし、その雄姿を3人の頭上に停泊させた。

 ほどなくして艦底から青く輝く光の柱が降り注いだのは。

 このトラクタービームによって、3人は瞬時にガルの艦内へと招き入れられる。


「おわっ、な、な、なにこの部屋!? どうなってるのよ!?」


「凄え! ガルのコクピットだ!」


 電飾が散りばめられた古い”未来的”な内装。

 何に使うのかよくわからないスイッチの数々。

 何を示しているのか見当もつかないメーターの行列。

 飛竜を捉える正面モニターと、レーダー装置らしき表示板。

 ガルのコクピットを一望したギンガは、必死に状況を理解しようとしているハルミをさておき、はなから頭の中が真っ白になって思考が止まっているルイに話しかける。未だコンバットアーマーを着込んだままだ。


「巫女さん、ガルを操縦してあの飛竜をやっつけるんだ」


「・・・え? ・・・・え? ・・・・・私が? ・・・どうやって?」


「・・・・だよなあ」


 操縦という言葉を口にしている最中、ギンガもこうなるんじゃないかと予測はしていた。

 目の前の小柄なギャリバンは、あの巫女さんが装着した姿であり本物ではない。

 そしていままでの振る舞いから鑑みて、巫女さんのスキルは歌に合わせて姿かたちを変えるものである反面、知識や技術までは変わらないらしい。

 翼竜を目の前にした素人丸出しの立ち振る舞いなど巫女さん本人のものでしかなく、ギャリバンの戦闘技術や知識まで体現するには程遠かった。


「いやあ・・・、さて、どうしよっか」


 さすがにギンガにも電脳戦竜ガルの操縦方法などわからない。

 テレビではそこまで解説してくれなかった。


「ねえちょっと! やばいわよ!」 


 そうしているうちにもついに体勢を立て直した飛竜が、こちらを敵と認識したらしい。

 口から強烈な火炎球を吐き出す様子がモニターに映し出され、ハルミの忠告むなしく操縦者のいないガルに直撃した。

 マグマの惑星から氷の惑星までどんな環境下でも作戦行動が可能な電脳戦竜ガルにとって、生物の吐き出す炎など本来は取るにも足らないものである。それがこの異世界で最上位に位置する災害級飛竜であったとしてもだ。

 しかし火炎球が着弾すると同時にガルの艦体あちこちから火花が飛び散り、3人のいるコクピットが激しい振動に襲われた。それがさも決まり事であるかのように。


「くそっ、攻撃してきやがった!」


「ねえ、ここってさっきの青い飛竜の中? ここで飛竜を操るの?」


「ああ、そうなんだけど操縦方法がわからないんだ」


「私にやらせてみなさい」


 成り行きで連れてこられたハルミにしてみたら、見たこともない内装の部屋だ。

 しかし目の前のレバーやスイッチが並ぶ椅子を見て、これは御者台ではないかと察する。

 彼女の持つスキルのうち「御者」「騎乗」「操船」が発動しているのを感じたからだ。

 予知夢が告げたこの2人はことのほか頼りにならず、このまま任せていてもらちが明かない。

 もとから堪え性のないハルミはギンガの返事も待たずに操縦席に座り、左右2本の操縦桿を握ると迷うことなくスロットルペダルを踏み込んだ。


 レバー操作によってマニュアル操縦で起動したガルは、目を黄色に光らせながら急発進。その巨体が飛竜に迫る。

 しかし一度弾き飛ばされたことで飛竜も警戒していたらしい。奇襲にも似た突進は、翼を羽ばたかせて急上昇した飛竜に寸前のところで躱されてしまった。


「ああ、惜しい! ねえちょっと! なんか武器無いの!?」


「え? 武器? ・・・じゃあガルビーム。目から光線が出る」


「ガルビーム、ガルビーム・・・、なるほど、このスイッチね」


「適当に押して大丈夫か?」


 大丈夫なのだ。

 彼女を乗せる操縦席を、握る操縦桿を、そしてこの部屋全体を通じて鎧の飛竜が教えてくれる。

 なんだ。見かけはゴツくて厳ついくせに、なかなか素直ないい子じゃない。

 ハルミは確信をもって、左右操縦桿頭部のスイッチを押し込む。


 キュビビビビビビ!

 上昇中の飛竜に向けて、ガルの長い首がグインと持ち上がる。

 その両目の内部ではプラズマサイクロトロンによって加速されたギャラクシーメタル陽電子が放出され、今まさに二筋の光線となってほとばしった。

 闇夜を切り裂いた光線は飛竜の両翼を縦断し、少し遅れて命中した個所をなぞるように無数の小爆発が起きる。翼を切断するまでにはいかなかったが翼膜には穴があき、飛竜の飛行速度がガクンと低下した。


 キシャアアアア

 飛竜の悲鳴が空に響き渡る。


「よし、動きが鈍ったわ! 次はもっと威力のあるやつ!」


「メーサーカノン」


「メ-サ-カノンは・・・これ!」


「だからなんで知ってんだよ」


 シュウウウウウ・・・ズドドン!!


 モニターに現れたレティクルを目標に合せ、左右操縦桿のトリガーを引き絞った。

 即座に艦体背部に搭載された大口径二連砲メーサーカノンの機関部では、サンバーフォトン粒子が増幅発振され始める。数瞬の後、臨界点に達した粒子は収束され、ピンク色の光弾となって発射された。


 ギュエエエエ!


 同時発射された2発の光弾は轟音をまとって走り、飛竜の胴体に直撃して大爆発を起こす。

 未来科学の圧倒的な破壊力は凄まじく、この異世界でも有数の力を誇るはずの災害級飛竜は悲鳴を上げながらとうとう落下し始めた。

 その直下には、王都の城下町が広がっている。


「いっけない! ガル! 急いで!」


 言うや否や、スロットルペダルをベタ踏みするハルミ。

 急発進したガルはあっという間に落下中の飛竜に追いつき、その艦体を急激に180度反転させた。


 バチン!

 慣性力によってしなった鋼鉄の尻尾が飛竜を弾き飛ばし、城壁の外、農耕地が広がる地面へとその巨体を弾き飛ばす。

 手足のようにガルを操縦するハルミに、ギンガはとうとうついていけなくなったらしい。敢えて発言しなかったのだが、それは紛れもなく原作で言うところのトルネードアタックであった。


 訳が分からない。

 地面にひれ伏す飛竜も、己が身に降りかかる事態についていけなくなっていた。

 腹を空かせて100年ぶりに目を覚ましたのが、少し前のことだ。

 主食とするエネルギー、人間が魔力とかいうそれを求めて村々を襲った。

 最後に焼き払った里で思わぬほどの魔力を吸えたことに満足して、また眠りについたはずだった。

 ところが少し前に現れた大きな魔力の匂いにつられて目を覚まし・・・・その方角へと吸い寄せられるようにここへと飛んできた・・・。

 そこに待っていたのは生まれて1000年のあいだ、出会ったことも無い脅威だった。

 そうだ、あいつはどこに・・・・

 ようやく首を持ち上げて飛竜が見上げた夜空には、

 こちらに向けて迫るあいつの姿があった。



「もうひと押し! 次で最後よ! とどめを刺すわよ!」


「あ、それじゃあ・・・」


「いっけえええ! ガルヴィオン・ダイナクラッシュ!!」


 もはや説明も突っ込みも不要とばかりに、ギンガの言葉を遮ってハルミが叫ぶ。

 一体誰から聞いたのか、のりのりで必殺技の名を叫びながら、左右の操縦桿を前・外・前の順に押し込んで両トリガーを引き絞った。

 コマンド入力を受け取ったガルの腹部装甲が左右に展開し、巨木のような逞しいマシンアームが姿を現す。


 ヴォン!という音と共に先端から伸びたのは、刃渡り100メートルのダイナミックレーザーで形成された光の剣。内蔵エネルギーの優に3割を消費する「ダイナインパルス」である。

 その科学の大剣を煌めかせて、地上でもがく飛竜目がけガルは突き進んだ。


 グオン! ズバン! ジャキン!


 その一撃は、飛竜に断末魔をあげる時間すら与えなかった。

 頭上を通過するとともに、唐竹に両断される飛竜。これまた何がそうさせているのか、アジの開きと化した飛竜の全身から無数の火花がスパークしたかと思うと、最後には大爆発を起こして飛び散った。


 王国のみならず世界各地で怖れられる災害級モンスター、大魔竜ラミアスの最後であった。



 機転を利かせたハルミが王都から少し離れた丘の向こうに着陸させると、3人を降ろしたガルは宇宙へと飛び去って行った。

 ギンガがスキルへの集中を切らしたためか、しばらくしてルイの装着していたコンバットアーマーが光の粒子となって消え去る。おそらくガルも宇宙で消えたことだろう。

 最初の翼竜襲撃から、たった25分の出来事であった。


 命の危険100連発からようやく逃れ、ギンガは力無く丘に座り込む。

 同じように隣でへたっているルイを見ながら思ったのは、こんな時間になって親が心配しているのではないか、という意外と普通のことだった。

 異常事態の連続に、脳内が普通を求めていたのかもしれない。


「なあ、巫女さん。遅くなると家族が心配してるんじゃないのか?」


「・・・・」


 しかしルイから言葉少なに返ってきたのは、彼女が行く当てのない天涯孤独の身であること。

 5年前さっきの飛竜に里が焼かれたこと。

 そして人とのつながりを求めて王都へやって来た経緯。

 それは幼い少女に降りかかるには過酷な話だった。

 それでも里の仇が討てたとけなげに微笑む少女に、先ほどまでギンガの頭にあった「この娘を利用できれば」という考えは消え去った。


「・・・なあ、巫女さん」


 立ち上がろうかとも思ったが、ルイを見下ろす形になるのもいやなので、ギンガはその場で居住まいを正す。この異世界に通じるのかはわからないが、誠意を示すための正座である。


 良かったら、俺と冒険者にならないか

 そう言いかけて思い留まった。


 違う。


「良かったら」なんてとんでもない。

 また日和るのか。

 また様子を伺うのか。

 また流されるのか。


 思えば憧れた異世界物語とは程遠い現実である。

 天性の才能。

 強力なスキル。

 元世界の知識。

 ちょっとした機転。


 大活躍するはずだった。


 出会った美少女たちから当然のごとく好かれる。

 成り行きで助けた美女から、命の恩人と好意を寄せられる。

 ちょっとした理由で買った奴隷少女から主人とあがめられる。

 そんな物語を待ち望んでいた。


 しかし現実はどうだ。

 実際はどうだ。


 流行りの「転生」ではなかった。

 だから自分を鍛えなおす事もできない。

 貧弱な身体も並以下のルックスもそのまま。

 天性の才能など望むべくもない。

 元の世界の知識や技術はなんの評価もされなかった。

 手に入れたスキルは役立たずだった。


 いい加減、認めろ。

 ここは待ち望んだ世界ではない。

 自分から動かなければ何もやってきてはくれない。

 今この機会が唯一最後かもしれない。


 そうしてギンガは勇気を振り絞って、無用なプライドを捨てて話しかけた。


「頼む! 巫女さん。俺と冒険者になってくれ。パーティーを組んで俺の仲間になってくれ」


 ルイはぼんやりとギンガの顔を眺め・・・・そしてコクリとうなずいた。

 その表情はポカンとしていて、感情の機微はうかがい知れない。

 いや元から表情の乏しい娘なのだが。


「ちょっと待て。 そんな簡単に決めていいのか? よく考えたか?」


 逆にギンガが焦る。

 てっきり快諾はされないものと覚悟し、土下座を敢行する勢いだったのだ。

 ところが拍子抜けするほど受け入れられてしまったことに不安を感じる。ひょっとするとこの娘はよく考えずに、引き受けるんじゃないのか?

 この先やっていけるのだろうかと。


 しかし、先ほどより力強くコクリとうなずいたルイは、微笑みながら応えた。


「・・・歌を、・・・・また聞かせてくれるなら」

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