大空戦士ギャリバン②
強襲した翼竜からギンガを守ったのは、銀色の鎧をまとった戦士だった。
「あ、あ・・・」
見紛うはずもない。
独特の光沢を持つシルバーメタルのコンバットアーマー。
胸には7色のランプを点滅させる次元コントローラー。
そしてヘルメットに刻まれたスリットの奥で力強い黄色光を灯すカメラアイ。
今しがたエンディングとオープニングの2曲を歌ったヒーロー、大空戦士ギャリバンが立っていた。
さっきの巫女少女と同じくらいだろうか、身長がやけに小さいことをのぞけば子供のころ好きだったヒーローそのものだった。
「まさか、なんでギャリバンが!?」
身体のサイズから見て、さっきの巫女少女が変身したのだろうか。
これが彼女の力だったとしたら大変心強い。
少なくとも自分が助かる可能性はグンと高くなるだろう。
「・・・ひ、・・・な、なにこれ?」
ギンガの予想通りギャリバンの中身は巫女少女ことルイなのだが、彼女からしてもこの事態は予想外のことだった。
ルイの持つユニークスキル「踊り巫女」は、特定の歌と踊りで大いなる神の意思をその身に降ろすスキルである。しかしその効果はせいぜい神の御言葉を口にするか、荒神が降りたときに凶暴化する程度であり、今回のように外見や身体にまで変化を生じさせた例は今までなかった。
ルイはすっかり変わってしまった自分の姿にパニックを起こし、ワタワタと腕を振り回す。
「お、おい、落ち着け巫女さん! また来るぞ!」
クケエエエエ!
仲間が吹飛ばされたのを見た翼竜はこちらを敵と見なしたのか、残りの翼竜2匹のうちの1匹が先ほどよりも敵意むき出しで怪鳥音を上げながら襲い掛かって来た。
そもそも翼竜は光り輝くものを攻撃する習性があるので尚更だ。
「・・・いや、・・・来ないで!」
ガシャアアン!
翼竜の襲来を拒むかのように、ルイが咄嗟に両手を突き出す。
窓ガラスが割れるような破砕音。
次の瞬間、突進してきたはずの2匹目の翼竜は体のあちこちから火花をまき散らしながら吹飛ばされ、地面に墜落したのち盛大な爆発を起こして飛び散った。
「っ!? 今のはディメンションクラッシュか!?」
その摩訶不思議な現象は、劇中でギャリバンが得意とする必殺技にそっくりだった。
本来なら両拳を前に突き出しながら敵の集団のど真ん中に飛び込んでいく技だ。ザコ戦闘員を一気に蹴散らすのに使われることが多い。
目の当たりにした状況に、ギンガは打ち震えた。
あの巫女さん、姿かたちだけじゃなく同じ技が使えるのだろうか。
いや違う、技が内蔵されているスーツを着ているんだ。中身が素人だろうが女の子だろうが内蔵兵器は使える・・・ということは多分。
あるひらめきを胸に、飛んでいった翼竜の爆発を呆然と眺めるルイのもとに駆け寄る。
「巫女さん、指先をそろえてあいつに向けるんだ」
「・・・え? ・・・え?」
「ああ、こうやるんだ」
口で説明するよりも手取り足取りやったほうが早い。
3匹目の翼竜が襲い掛かってくるまではあまり時間もないだろう。
ルイの背後に回り、彼女の両腕に自分の手を添える。悲しいかな女の子に密着しているとは思えないコンバットアーマーの硬質な感触しか返ってこなかったが、そんなことを気にする余裕もない。
「こうして、こうして、ここで叫ぶ。『ギャリバンZレーザー!』」
「・・・へ?・・・へ?」
「俺に続いて叫んでくれ。『ギャリバンZレーザー!』」
「ぎゃ、ぎゃりばっと・・・れざあ?」
「『ギャリバンZレーザー!』 はい!」
「『ぎゃりばんぜっとれえざあ!』」
ズビビビビ!!
絶叫一閃!
拳同士を胸元で打ち合わせ、右拳で弓を引くように腰を回した後、右平手突きを突き出す。
一定のポージングを経て突き出されたルイの指先から、光の楔を連ねたような光線がほとばしった。
それはまるで後編集で付け足されたかのように、2人に迫っていた最後の翼竜に吸い込まれる。そしてやはり盛大な爆炎をまき散らしながら、花火のように空中爆発するのだった。
発射までのモーションに多少の時間がかかるが、命中すればマヌー怪人すら一撃で撃破するギャリバンの必殺光線ギャリバンZレーザーだ。
そのあまりの威力にルイはおろか、それを予想していたはずのギンガも唖然とする。先ほどから2人とも唖然としっぱなしで、いい加減精神が持たない。
ちなみにギャリバンの武装には、威力は低いがノーモーションで即時発射可能なプラズマレーザーもあることを補足しておこう。
「は、はは・・・、助かった・・・」
「・・・よかった」
目の前の脅威がのぞかれたことで、ギンガは思わずその場にへたり込む。
2人の活躍以外にも、城壁のバリスタや大砲、また城から出撃した弓兵や魔導士の奮闘もあったらしい。
ほどなくして10匹程度だった翼竜の群れは殲滅されたのであった。
本日何度目かの一息を突きつつ、未だにコンバットアーマーを着たまま隣でヘタっているルイを眺める。仕方がないこととはいえ、ギャリバンの姿で女の子座りはやめて欲しいものだ。
「なあ、それ。巫女さんのスキルなのか?」
「・・・わたしのだけじゃ・・・ないと思う」
「というと、どういうこと?」
「・・・わからない。・・・あの歌が特別だから・・・だと思う」
おぼつかないながらもとつとつとルイが「踊り巫女」の説明をする。
本来は決してこのような、恐るべき変身を遂げるようなものではないのだと。
踊り巫女スキル単体にそれほどの効果が無いのだとすれば、彼女の言うようにギンガが「吟遊詩人」で歌うアニソンと相性がいいのかもしれない。
それにしても未だ信じられないほどの威力だった。
この娘を利用すれば、この絶望だらけの異世界で一発逆転が狙えるのでは・・・。
ギンガがそんな思いを抱いているとはつゆ知らず、月の光を遮って地面を横切った大きな影に気付いたルイは、ふと視線を夜空に向けた。
はるか上空に浮かんでいた巨大な影。
それはあの日、ルイの里を焼き払って飛び去って行った影によく似ていた。