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走れダイジロー②

「ちくしょー、納得いかねえ・・・」


 青々としたターフの上に、選手登録名”世界(ワールド)一周(ラップ)”ことイリスは吐き捨てる。

 本当であれば特注のブーツで地面でも蹴っ飛ばしてやりたいところだが、そうはしない。

 王都競技場の職員が芝生整備にどれだけ労力を割いているかを知っているからだ。


悪事(エビル)(プリンセス)のやつ、逃げやがって・・・」


 口調や振る舞いこそ粗暴なイリスだが、女性であることはそのプロポーションでわかるだろう。

 他の選手と比べて頭ひとつ高い長身は、見事に引き締まりつつも十分な起伏を主張している。

 特に手入れもしていないのに銀に輝く長髪と、くっきりとした目鼻立ちから「眠れば美人」というのが周囲の見解だ。


 そんな彼女は元々、探検家やトレジャーハンター志望の冒険者であった。

 世界中の未開地に赴き、その奥に眠る神秘を解き明かすのが彼女の夢だ。

 しかしその手の職業は装備や道具はもちろん、なにより莫大な旅費がかかる。

 徒歩や馬車で行けるような近場には、未開地も神秘も転がってなどいない。

 船に何日も揺られて大海を渡る必要があるのだが、この費用がずいぶんと高いのだ。

 これが実力ある探検家ならパトロンの一人も付いているものだが、年若く実績も無い彼女にそれを望むべきも無い。

 ランナースキルを習得していたイリスは費用を捻出するため、フットレースに参加することにした。


 しかし幸いにして、フットレースに天性の素質があったらしい。

 デビュー戦を難なく勝利で飾ると以降も順調に勝ち進み、獲得賞金を積み上げていった。

 思った以上に稼げることがわかれば、なおさらやる気も出るし、欲も出る。

 今のうちにがっちり貯め込んでおかねばと、イリスは走り続けた。

 短距離から長距離、芝からダート、果ては障害レースまで、とにかく賞金額の高いレースに挑み続けた。

 今では新人王最有力選手、”世界(ワールド)一周(ラップ)”として押しも押されぬ存在である。


 そんな彼女だが、これから始まる第十一レースに納得がいっていなかった。


「ったくよう、これじゃあ無理して出た意味ねえじゃんよ・・・」


 今回のエキシビジョンレース、本当であれば出走するつもりはなかった。

 なんといっても二週間後には、三冠王がかかった最後のレース”星月賞”が控えている。

 淡雪賞、王都優駿を圧勝にて勝ち進んできたイリスにとって、今回のエキシビジョンに無理して出るよりは、星月賞に向けた調整期間に充てるのが賢い選択と言えた。

 もちろん記念レースである今回も勝てば結構な賞金が手に入るのだが、それよりも三冠王だ。

 三冠王を獲れば星月賞とは別に莫大な特別賞金が出るし、今後は(おうこく)(フットレース)(きょうかい)功労者年金も支給される。

 十中八九獲れるであろう最優秀年度代表選手賞も確定となる。

 それに歴代で数人しか達成していない三冠王となれば、いずれ探検家になるときにパトロンも付き易かろうと。

 しかし感情とはままならぬもの。


 悪事(エビル)(プリンセス)世界(ワールド)一周(ラップ)が戦ったらどちらが勝つか


 そんな話題が、王都優駿を勝ったころから如実に増え始めた。

 もちろんそんなタラレバ話、フットレース業界ではよくあるものなので何の意味もないのだが。

 イリスにとって気に入らないのは、論者の多くが悪事姫を推している点だ。

 互いに戦場を選ばぬ活躍を見せ、互いに二冠を達成したもの同士。

 しかし悪事姫と違って、イリスは無敗ではなかった。

 デビュー間もないころ、そのパワフルな走りが仇となり、他選手への妨害行為として降着処置を食らったことがあったのだ。

 なるほど無敗二冠の悪事姫よりも評価が下がるのは仕方がないかもしれない。

 それでも負けん気の強いイリスにとって、戦ってもいない相手の格下に見られるのは憤然たる思いであった。


 そんな折に飛び込んで来た、悪事姫エキシビジョンレース参戦の報。

 三冠さえ獲ってしまえば、二冠でしかない悪事姫との最強論争など一蹴できるという思いもあった。

 しかし、それでもスケジュールを無理やり調整して参戦を決めた。

 逃げるのは嫌だ。

 忌々しい相手を直接叩き潰してやりたい。

 いや、もっと純粋に、悪事姫と戦ってみたかっただけなのかもしれない。

 それなのに蓋を開けてみれば、悪事姫は本命レースを回避し、その弟子とかいうのが代わりに出るという。


「はあ・・・弟子ってどんなやつだろ」


 第一〇レースで素晴らしい走りを見せた悪事姫と同等であればいいのだが。

 負けるつもりはないが、そこそこ楽しい勝負になるに違いない。


 そんなイリスの期待を知ってか知らずか。

 ようやくターフに現れたのは、遠目からでもわかるほど小さな少女だ。

 独特な紅白の民族衣装と肩口で切りそろえられたショートボブの黒髪。

 何より目を引いたのは、頭と尻から飛び出した馬のような耳と尻尾。

 すべてが謎に包まれた招待選手、登録名”絢爛(フラワリー)舞踏(ダンサー)”の登場であった。




 ルイは選手出入り口をノコノコと歩きながらも、先ほどの余韻に浸っていた。

 すれ違う人たちの好奇の視線にも気付かないほどに。

 あの青年の歌う歌は変わったものが多いが、今回の歌は何度聞いても珍妙だ。

 軽快でユーモラスなリズムから始まった歌だが、途中で言葉の波が押し寄せた。

 まるで魔導士が使う呪文のように、次から次へと高速で放たれる文言の数々。

 ルイは歌に振り落とされないように必死に踊り、足を動かし続け、そして気付いた。

 これは、駆け抜けるための歌なんだと。


 歌が終わり踊り終わっても身体の熱は冷めない。

 二つの足が、走り出したくてうずうずしている。

 そんな心地よい高揚感に包まれながらルイはターフに降り立った。

 すぐさまその背に歓声を受けて、正気に戻る。

 背後の巨大スタンドから、数万を超える観客たちの視線が小さな背中に降り注いだ。


「あれが悪事姫の弟子、絢爛(フラワリー)舞踏(ダンサー)・・・、なんか見覚えが」

「なあ、あれって巫女姫じゃねえか? いろんな奇跡を起こすって噂の」

「確かにあの背格好と紅白の衣装、河川敷の踊り巫女像とそっくりだな」


 スタンド最前列、三人組らしき観客が交わす議論が聞こえてきた。

 大観衆に振り向くのが恥ずかしいルイは、頭の上の耳だけをそちらを向ける。

 クルクルと好きな方向に向けて音を拾えるのでなかなか便利な耳だ。


「しかし巫女姫像に耳と尻尾はなかっただろう。 どういうことだ?」

「両方とも動いてるし、ありゃ飾りじゃねえな」

「ということは別人か。 あんなの付けてる亜人とか聞いたこともねえ」


 そんな観客たちの憶測に、ルイの胸はついつい自慢したくなってしまう気持ちに溢れた。

 あの青年の歌によって、こんなかわいい耳と尻尾が手に入ったのだ。

 そしてあの素晴らしい歌の効果は、自分だけがその身に受けることができるんだと。

 なんとも誇らしげな気持ちで、ルイは尻尾を振り、なおも耳を傾けるが・・・。


「だいたい噂の巫女姫って、空を飛んで聖水を撒き散らすんだろ?」

「たしか巨人に化けてデカいゴーレムを叩き潰したって聞いたな」

「いやいや、大衆の前で踊りながら服を脱」


 ペタンと耳を伏せて聞かなかったことにする。

 手でふさがなくてもいいのはやっぱり便利だ。

 出来れば歌の効果が切れた後も残ってほしい機能だとルイは思った。



 気を取り直して、ゲート付近で待機する出場選手たちに目を向ける。

 女性部門ということもあって、みんな煌びやかな服装で着飾っていた。

 柔軟体操をしたり軽く走ったり観客席にアピールしたりと、思い思いの様子だ。

 観客たちはここで選手の様子を見て、勝者予想に役立てたりするらしい。


 ルイとしては踊りとまではいかなくとも軽快なステップでも披露できればさぞ気持ちいいのだろうと思った。

 しかしそれはハルミから事前に止められている。隅っこでおとなしくしていろと。

 ハルミが言うには、スタミナを少しでも温存するためだとか。

 RFA職員であるシズカに頼んで、競技場の閉場後に何度かコースを走らせてもらったところ、かなりの好成績を出したルイであったが、同時に問題も浮かび上がった。

 それがスタミナ不足への懸念である。

 エキシビジョンレースと同じ距離なら走り切れるのだが、それ以上に距離が延びると途端に足が鈍るのだ。

 しかもレース本番では周囲に相手選手がいて思うように走れず、なおさら疲労することが予想できた。

 だから極力、スタミナの温存に努めるようにと。


 もう一つが、悪目立ちを避けるため。

 なんでも新人が目立ちすぎると、レース中に他の選手が寄ってたかって潰しに来たりするそうだ。

 前に壁を作られたり、横から囁かれて集中を乱されたり、後ろから睨まれて威圧されたり。

 そうなるとスタミナ不足と相まって、勝利はいっそう厳しくなるだろう。


 それを思い出すと、さすがに踊りたいという気持ちも収まる。

 ルイはため息ひとつ残して、身を隠すように歩を進めた。



「お前が絢爛(フラワリー)舞踏(ダンサー)か? 悪事姫の弟子ってこんな子供かよ」


 ルイが出走ゲートに歩み寄ると、一人の選手が声をかけてきた。

 ハルミよりもさらに高い身長と、腰まで伸ばした美しい銀髪の女だ。

 スタイル抜群の身体を真っ赤な勝負服で包み、なおも凹凸を強調するように胸の上下をベルトで絞めている。


 シズカから教わった強豪選手、世界(ワールド)一周(ラップ)に違いない。

 ひとたび喰い付かれると大変厄介な難敵。

 特に最後の直線で一気に追い上げて来るので、充分に距離を取るように、と注意を受けたことを思い出す。

 ルイは出来るだけかかわらないように、彼女の前を通り過ぎようとした。

 しかしイリスの視線が、やはりルイの耳と尻尾に注がれる。


「ちょっと待て舞踏(ダンサー)。 その耳と尻尾は本物か?」


 彼女もそれが本物であることに気付いたようだ。

 その目には先ほどの敵愾心は消え、好奇の色が浮かんでいた。

 探検家を志すイリスは当然ながら、伝承や伝説の類にはとても詳しい。


「極東の神話にでてくる半人半獣の・・・? なんとかタウロスっていったっけ?」


 もしそうであったら、目の前の少女は馬に匹敵する走力を誇るはずだ。

 とんだ強敵が現れたものだと、負けず嫌いの血が騒ぐ。

 不思議と珍しさを好む、探検家の血も騒いだ。

 いざ見直してみると、目の前のちっぽけな少女が何倍にも大きく感じる。

 これがあの悪事姫の弟子、絢爛(フラワリー)舞踏(ダンサー)か。

 イリスの胸中に渦巻いていたマイナス感情など、すっかり消え失せてしまった。


「なあなあ、お前ってひょっとしてすっごい遠い国から来たとか?」


「・・・」


「その衣装ってフットレース用の勝負服じゃねえよな? お前んとこの民族衣装か!」


「・・・・・・」


「素っ気なくすんなよ舞踏(ダンサー)。 もっとあたしと喋ろうぜ」


「・・・・・・・・・」


 再び耳をペタンと閉じてルイは顔を背けるのだが、相手は喰い付かれると厄介な難敵。

 こうしてルイは出走までのあいだゲート付近の端っこで、距離を取れと注意された世界(ワールド)一周(ラップ)にべったりと付きまとわれるはめになった。





 貴賓室の中で、ギンガは居心地の悪さをごまかすように伸びをした。

 首と肩をポキポキ鳴らしながら壁時計を見ると、出走まではまだ時間がある。

 迷子にならないようにと選手出入り口までルイを送っていったハルミはまだ帰ってこない。

 つまりシズカと二人きりなのだが、ギンガから女性と会話をするような勇気はない。

 まして物静かな美女が相手となるとなおさらだ。


「あの子・・・、ハルミは昔とは変わったみたいね。 もちろん良い意味で」


 何かを察したのか、シズカがその整った唇を開いた。


「え、あ・・・、ああ。 あいつがですか? 良くなった? あれで?」


 思わずどぎまぎとしてしまうが、清楚な美女は相手の心を落ち着けるスキルでも持っているらしい。

 ギンガは多少取り乱したものの、なんとか言葉をつなぐ。

 それよりもシズカは何と言った?

 ハルミがあれで良くなったとは、彼女なりの冗談なのだろうか。


「昔のハルミだったらこの仕事は受けていなかった。 きっと断られると思ってたもの」


「それはまあ、あいつなりに反省したんじゃないですか? 昔の悪行を」


「その時点でずいぶんと良くなってるの。 以前は本当に自分の目標しか見てなかったわ」


 そう言ってシズカはクスクスと笑った。

 当時のハルミはスキルを一つでも多く取るという目標だけを優先していた。

 そのためなら周囲をどれだけ巻き込んでも屁とも思わないでいたはずだ。

 特にスキルの取れるわけではない今回のエキシビジョンレース、例え過去の悪行を持ち出し心情に訴えたとしても無碍なく断られると思っていた。


「それを変えたのは巫女姫かしら? それとも・・・」


 不意に見つめられ、ギンガの脳裏に直感が走る。


「まあ・・・俺とルイは未だに、あいつの悪癖に迷惑かけられてるんですけどね」


 とりあえず今は、苦笑いしてそれを誤魔化した。





「いやー、スタンドあちこち覗いてみたけど観客の数が凄いわ」


 ガチャリと扉が開いてハルミが貴賓室に帰ってきた。

 やけに遅かったが、どうやら施設内をうろついていたらしい。

 ギンガとのやり取りがあったことなどおくびにも出さず、シズカが応えた。


「当然よ。 人気、実力ともに優れた選手ばかり出てるもの。 ハルミを含めてね」


「オッズ見てきたけど、そのせいでルイちゃんは十八番人気でびりっけつ」


「ルイさんの正体を隠すからよ。 奇跡の巫女姫として出走していれば一番人気も・・・」


 シズカは何度目かになる苦言を発した。

 彼女も巫女姫の噂は聞いていたし、河川敷にある踊り巫女像も見たことがあった。

 ハルミの家の同居人がよく似ているとは思ったが、本人と聞いて驚かされた。

 さらに練習として何度かコースを走らせてたところ、さらに驚かされたものだ。

 あの小さな身体でコースレコードを叩き出す、これが奇跡の巫女姫かと。

 そしてその名で集客をすれば、どれだけの観客動員が見込めるだろうかと。

 しかし、ハルミがそれを拒んだのだ。


「うーーん・・・。 今さらだし教えてもいいか」


 ポリポリと頬を掻きながらハルミが説明する。


「理由はいくつかあるんだけどね・・・。 ルイちゃん嫌がるのよ、巫女姫として注目されるの」


 ルイは元々が引っ込み思案のおとなしい少女だ。

 例えば踊りで注目を集めるのは苦にならないようだが、巫女姫の名で注目されると委縮してしまう。

 数万の観客のまえに巫女姫として放り出すと、満足に走れなくなるかもしれない。


「それとね、巫女姫として大々的に広告すると、厄介なのが出張ってくるのよ」


 それは、王宮の重鎮にして巫女姫の後見人を自負する老神官の存在だ。

 滅んでしまった巫術一族に未だ恩義を抱く老神官は、その末姫であるルイが名を馳せることに並々ならぬ尽力を振るう。

 王都競技場の記念レースにルイが出ると知れば、どれだけ事態を大きくするかわからない。

 少なくとも彼の指揮下にして精鋭中の精鋭、王宮魔法兵団を引き連れて祝砲代わりの大爆発魔法を上空に打ち上げるまくるくらいはするだろう。

 下手すると国防権限でも使って、今大会の運営権を召し上げることも予想される。

 流石にそうなると(おうこく)(フットレース)(きょうかい)や職員のシズカに悪いのだ。


「だから今のあの娘は奇跡の巫女姫じゃなくて、謎の招待選手”絢爛(フラワリー)舞踏(ダンサー)”ってわけ」


「・・・そうだったの。 わかったわ」


 シズカはあきらめのため息をつくと、ギンガに対して密かに微笑んで見せた。

 人のためにここまで考えて行動する、やっぱりハルミは変わった、と。

 ギンガはやはり、苦笑いを返すのみであった。




『これより本日のメーン、第十一レースです』


 拡声魔法で増幅されたアナウンスが聞こえてきた。


『実力選手が揃い踏みしたこのレースですが、どう予想されますか?』


『そうですねえ。 どの選手が勝ってもおかしくはないですがやはり・・・』


 ようやく第十一レースが始まるようだ。

 ゴール正面に設けられた貴賓室のテラスから外を望むと、選手たちが次々とゲートに入るのが見える。

 そのなかでもひときわ小さい紅白少女が、大外十五番ゲートにノコノコと入っていった。

 RFA職員が台の上で赤旗を掲げると、観客たちの歓声がひときわ大きくなる。


「ほらギンガ。 さっさと用意しなさい」


 ハルミに言われるまでも無く、ギンガは立ち上がるとテラスに立った。

 もちろんこれから走るルイに、あの歌を重ね掛けするため。

 そのためにわざわざハルミは貴賓室を用意させたのだ。


 歓声が飛び交う競技場といえど、観客席から離れた高所から歌えば。

 そして馬の耳を持つルイが、その歌声を聞き逃すことなどないはずだ。


 肩幅に足を開くと、すうっと息を吸う。

 そしてギンガは目一杯の声で歌い出すのであった。



 これから始まる猛レース ひしめき合って居並ぶは

 稀代の名駿最強馬 競馬の祭典めでたいな

 走れ走れダイジロー ターフもダートも駆け抜けて

 走れ走れダイジロー 掻き込め飲み込め喰らい付け


 はじめの一歩で出遅れる やる気が高じて空回る

 コース争いではじかれで 気が付きゃ馬群に沈み込む

 走れ走れダイジロー 良馬場重馬場駆け抜けて

 走れ走れダイジロー 掻き込め飲み込め喰らい付け


 ええ~このたび、夢のG1ラーメン杯開催につきまして、

 慎重に検討を重ねてまいりました結果、

 本日の第十一レース、本命はヤサイマシマシ。

 大穴は、なにかとうるさいギルティジャッジという結論に達したのであります。


 各馬ゲートインからいっせいにスタート。先頭ダイブタダブルが十七頭を引き連れて第一コーナーへ。さらに五馬身開いてヤサイマシマシ、ニンニクカラメ、ゼンブソノママ、メンカタメ、アブラブラブラ、チョモランマ、大きく出遅れてぽつんとひとりダイジローとなっております。向こう正面の直線から第三コーナーにかかったところで上がってきたのは本命ヤサイマシマシ早くも先頭に躍り出た。そのうしろをニンニクカラメがぴたりとマークする。さあ第四コーナーから最後の直線コースに入った。後ろから猛烈な勢いで上がってきたのはダイジロー。ダイジローだ。ダイジローが大外から上がってきた。先頭のヤサイマシマシ懸命に逃げる。ニンニクカラメも踏ん張る。ダイジローが追いつくか、ヤサイマシマシ逃げきるか。ダイジローかヤサイマシマシ、ヤサイマシマシニンニクカラメ、お冷はセルフでねがいます。




 七十年代初頭に流行した、競馬をモチーフにしたコミックソング「走れダイジロー」である。

 食欲と根性だけは十馬力の迷馬ダイジローがレースで奮戦する模様を歌ったこの曲。

 聞きどころは何といっても中盤に差し込まれる怒涛のセリフパートと言えよう。

 現役のアナウンサーでも苦戦するというこの部分を、勢いで歌い切ってみせるのが醍醐味だ。


 現在も歌い継がれ愛されるこの曲であるが、一つの大きな特徴を持っている。

 最初の流行から時は流れて、九十年代半ば。

 競馬を題材とした少年漫画「白きナニワオー」のアニメ化に伴い、この曲のカバー曲が主題歌として歌われた。

 さらに世紀をまたいだ二十年代初頭。

 競走馬を美少女化したメディアミックス作品「彼女(シー)×(ホース)~Duel Derby~」においてもカバー曲として使われることになる。

 つまり四半世紀を巡るたびに、奇跡の復活を成し遂げる歌なのだ。


 この中でギンガの思い入れが強いのは、再放送のアニメに夢中になったナニワオー。

 そしてゲームを寝食を忘れてやり込んだ彼女(シー)×(ホース)の二つである。

 家で試しに歌ってみたところ、ルイは無事、耳と尻尾の生えた姿へと変貌した。

 どうやらリアルタイムで楽しんだ彼女(シー)×(ホース)の方が、思い入れが強かったらしい。


 もしナニワオーが勝っていたら、ルイは鼻水とウンコを垂れ流す白毛の子馬に化けていたかもしれない。

 そうなればきっと後ろ脚で蹴っ飛ばされた挙句、とうぶん口も効いてもらえなかったことであろう。

 幸いにして耳と尻尾を気に入ったらしく、ルイは今回の件にずいぶん前向きのようだ。

 レースでもきっと頑張ってくれることだろう。

 ならば、俺は。



 そんな思いも胸に、ギンガは歌い続ける。

 本日のメーン第十一レース、ゲートが開くのはもう間近であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっさんなので 砂糖と塩のは頑張って歌ってました 短足子馬は子供と見てた 馬女はハマってないな たしかにリバイバルしてる
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