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星空のエール

 ルイは歌と踊りが好きだった。


 彼女にとって、一族に伝わるユニークスキル「踊り巫女」を持って一族の姫として生まれたことは必然でもあり、そして呪いでしかなかった。


「踊り巫女」とは、神降ろしの秘術。

 血脈によって受け継がれるそのスキルを持つ巫女が伝承歌に乗せて舞を踊るとき、神をその身に宿す神降ろしの儀が成り立つ。それによってもたらされた神の御言葉は時に国政をも動かすほどの発言力を持ち、また一族が国内で一定の権力を持ち続ける根拠ともなった。


 その神秘性ゆえ踊り巫女の戒律は厳しく、ルイが踊ることを許されたのは伝承歌のみであった。

 亡くなった母が歌ってくれた歌に併せて踊ることも、時折一族の里にやって来る旅人が披露する踊りをまねることも禁じられていた。


 そんな伝承の里が災害級モンスターである飛竜に襲われた。もう5年前のことだ。

 まだ幼いルイが覚えていたのは、里に火の地獄が広がっていた光景だけだった。

 遥か彼方の空に遠ざかった行く影が見えたが、あれが昔話などで聞く飛竜なのか、ルイには考えるだけの余力はなかった。


 そして1カ月前、その災害から自分を救い出してくれた里の数少ない生き残りの一人、昔からルイの世話係を務めていた婆やが息を引き取った。高齢の身に長年の苦労が祟ったのだろう。

 枕もとで泣き続けるルイに先立つことを詫び、どうか幸せになってくれと言い残してこの世を去った。

 里が滅んだ今、踊り巫女を続けることもない。

 自分の幸せを掴むようにと言い残して。


 とうとう一人ぼっちになった寂しさを埋めるように、ルイは乗合馬車の旅の末に一番人口の多い王都へとやって来た。


 しかし根が引っ込み思案で無口なうえに、お嬢様育ちの世間知らずな少女である。

 知り合いが出来るはずもなく、どうやって生活資金を稼げばいいのか見当もつかなかった。

 城壁にへたり込むルイを見るに見かねた巡回の衛兵が、教会へ行けば炊き出しがあると教えてくれた。


 おぼつかない足取りで教会へと辿り着いた少女は、そこではじめて彼の歌を聴くこととなる。


 聞こえてきたのは教会前の広場から。

 自分より年上の青年が歌っているその歌は、この世のものとは思えない初めて聞く不思議なメロディだった。

 星空を歌ったその歌詞は、自分の本心を代弁してくれるような、それとも導こうとしているような、あるいは慰めてくれるような、そんな不思議な歌詞だった。

 青年の歌は1分ほどで終わってしまった。

 どうやらルイが聴き始めたのは歌の終盤からだったらしい。


 ・・・終わった ・・・もう一回、・・・聞きたい


 ささやかな望みが天に届いたのか、その青年は次の曲を歌い始めた。


 この空の彼方に故郷がある 愛する人たちの声が聞こえる

 悲しみにうつむく夜は そうさ 銀河に瞳を上げればいいさ

 立ち止まるな 振り返るな 夢をあきらめるな

 無数の星々たちの瞬きが見える 暖かい星空のエール



 どうやら先ほど歌から連想したらしい、別の星空の歌を歌い始めた。

 それは繊細な歌からうって、変わって力強くも温かい歌だった。

 瞳からはらはらと流れ落ちる涙にも気が付かず、ルイはその不思議な曲に合わせてリズムを取り始めていた。踊り子としての本能がそうさせるのか。

 身体の中から何か暖かい力が湧き出る気がした。


 ・・・もっと、・・・もっと近くで


 引っ込み思案で臆病な少女の心中に生まれた、それは小さな勇気だった。

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