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ファイアーエムブレス②

 ファイアーエムブレス 難解シミュレーション 日本全土が最終戦争ハルマゲドン

 使わないでいた ぎんのつるぎ いざ使うころは 型落ちになる

 ファイアーエムブレス 電脳シミュレーション 生命(いのち)も無いのに破壊(ころ)しあう

 途中のセーブを うっかり忘れて リセット押したら 5章前から

 ファイアーエムブレス 戦争シミュレーション ドラゴン退治はもう飽きた



 今日のテレビゲームにおいて、人気ジャンルの一角を占めているシミュレーションRPG。

 簡単に言うと将棋やチェスのような盤上遊戯の駒に、経験を積むことで成長するという要素を持たせたものだ。

 それまでコンシューマ機において発売されていなかったシミュレーションRPGというジャンルを日本に初めて紹介し、一躍広めることになったのが『ファイアーエンブレス』であった。折しもバブル絶頂期。ゲーム内容の完成度もさることながら、潤沢な費用が掛けられたそのCMは圧巻の一言。

 舞台上に某オペラ楽団の楽団員が扮する戦士や重装歩兵、魔導士から騎士、果ては実物の白馬までが立ち並び、CMソングを高らかに歌いあげるというものであった。そのインパクトからゲームをプレイした者からは懐かしの1曲。ゲーム未プレイでもこの歌だけは知っているという者も多い。



 ファイアーエムブレス 凶悪シミュレーション あなたのミスで誰か死ぬ

 当たるか外れるか 2つに1つ 100と0以外 信じはしない

 ファイアーエムブレス 伝説シミュレーション あなたのためならどこまでも

 美形も不細工も 愛情次第 誰一人として 見捨てはしない

 ファイアーエムブレス 伝説シミュレーション あなたのためならどこまでも



 しかしこのCMソング。その本質は見た目のインパクトではなく歌詞と言えよう。

 日本におけるシミュレーションRPGの先駆者である「ファイアーエムブレス」。その発売時とはつまりシミュレーションRPG経験者が皆無の時代ということである。そんな時代にシミュレーションRPGにおける「あるあるネタ」を歌詞に織り込んできたのだ。実際にゲームをプレイした者がふと振り返った時に、そのCMの真意を知ることになるのである。

 ちなみにギンガは、中年芸人がレトロゲームに挑み続けるという人気バラエティ番組でこのゲームを知った。そしてそれに影響されて始めた「ファイアーエムブレス」がシミュレーションRPG初挑戦だったこともあって、先人同様にやがてCMの真意に驚愕するのだった。



 力強くリズムの取りやすい楽曲。

 それに貼り合うようにルイは頑張って踊った。

 ひょっとしたらこの曲は二度と聞くことが出来ないかもしれない。

 一期一会。だから今、この時を懸命に踊るのだ。

 相変わらず青年の歌は、歌詞の意味がよく解らない。

 それでも戦士たちの無事を祈願する慈愛の気持ちが、ルイの小さな身体を満たし始める。

 その量が増すたびに、舞の優雅さと鋭さもまた増していくのであった。

 ひとしきり踊り終わり、やがて楽曲も鳴り止んで、一時の静寂が訪れた。



「なんだ? 巫女様の舞は終わったのか?」

「じゃあもう加護とやらは付いてるのか?」


 祭壇の前に集っていた100名の参加者。その一人二人がおもむろに口を開いた。

 それに誘発され、残りの参加者も加護を確かめるかのように身体を動かしてみるのだが、皆一様にこれといった変化が無い。これで加護が付いたというのか。あれだけ大口叩いておいてなんだこれは、などなど会場がにわかにざわつき始める。

 それも無理はない。

 多くは「巫女姫の加護があるから安全だ」と言われて参加した連中なのだ。この場に及んで動揺していないのは、例え加護が無くても参加していた祭りの常連と、はなから腕に自信のある一部の冒険者や傭兵。そしてルイが発揮する、摩訶不思議な力を知っている常連の老人たちだけだ。


「ルイちゃん。 ほら、いつもの。 みんな待ってるわよ」


「・・・・ハル姉」


 徐々にざわめきが広がる中、祭壇の隅に座っているハルミがルイに声をかけて来た。

 もちろんルイにも解っていたことだ。今まさに身体の内に満ち溢れる不思議な力と、その割には変化の無い身体の外。こういう時にやることは一つ。緋袴の中から何かをひり出す時のあの行動しかない。


「・・・・わかった」


 しかたなく、すっくと立ちあがったルイだったが、視点が上がったことにより自分に多くの注目が集まっていることに改めて気付く。祭り見物に詰めかけた観衆と、そして何より祭壇の下からこちらを見上げている参加者100名の視線。これでは下から見えてしまうのではないか。


「・・・うう。・・・・ハル姉」


「大丈夫よルイちゃん。 今日のは見えても平気じゃない」


 そう言ってケラケラ笑うハルミ。軽く言ってくれるが、じゃあ代われと言っても代わってくれないだろう。

 よりによって今日は防寒対策のために、ハルミが用意した赤い毛糸のパンツを履いてきているのだ。

 これを見られるなんてとんでもない。「見えても平気」と言って笑うハルミの気が知れない。

 ルイは毛糸のパンツに負けないほど顔を真っ赤にしながらも、しぶしぶと行動に移した。


 観衆の注目。

 さらに100名の参加者に、祭壇下から覗きこまれた状態でのぴょこんぴょこんジャンプ。

 緋袴の中が見えないように祈りながら、ルイは懸命に飛び跳ねた。



 ゴトリッ


 バサバサと翻った緋袴の裾。

 その中から転がり落ちたのは、よくわからない四角い箱だった。白を基調に艶やかなえんじ色が映える。

 続いて白衣の胸元からせり出てきたのは黒い色の薄い小箱。表面には剣を構えた凛々しい青年が描かれていた。

 何処にも開け口らしきものが無いそれらの妙な箱。見慣れぬ物体に首を傾げるルイだったが無理も無い。

 これこそが異世界の産物。日本全土を席巻したファミコン本体と、そのゲームカセットだった。


「おーい、ハルミー!」


 祭壇の下からかけられた声に、名を呼ばれたハルミは祭壇の手すりから覗きこむ。

 当然そこにはギンガが立っていた。いやそこにいなければ逆にハルミが呼びつけていたところなのだが。


「ああ、ギンガ。 あの箱なによ? あれでどうすんの?」


「口で説明するのは難しい。 この説明のとおりにやってくれ」


 そう言ってギンガが簡単な見取り図と説明を書いたメモ紙を差し出す。

 彼がさきほど2、3分でさっと書き上げたものだ。祭壇の高さはは3メートル。ハルミは手すりから身を乗り出すことでようやくその紙を受け取った。


「なによもう。 階段を上がってこればいいのに」


「そうもいかないんだよ。 お前、誰のせいだと思ってるんだ」


「なによそれ?」


 もちろんギンガからしても、祭壇の階段を登っていけるならそのほうが楽だし、そのまま巫女付きの吟遊詩人として祭壇上に留まり、床暖房の恩恵に与かれるのならなお良い。

 しかし階段の登り口には王宮神兵団の屈強な精鋭兵が守りを固めている。しかも上官である老神官から、ハルミの登壇をみすみす見逃したことを叱責されたらしい。その警戒態勢はアリの子一匹通さぬほどの厳重さ。さらに彼らから最警戒対象と認識されたようで、ギンガの背後には常に2人の兵士が付いてくる始末。このメモ紙1枚渡すのにも、老神官の許可を得て、兵士たちの監視のもとようやく渡したほどであった。


「ああ、くそ。 なんで俺だけ」


「ああ、もう。 恥ずかしい。 人目があるんだから勘弁してほしいわよねえ」


「・・・・」


 メモ紙を渡し終えたギンガは、相変わらずの寒さに震えながら。

 身体を引き起こしたハルミは衣服の乱れを正しながら、ほぼ同じタイミングで毒づく。

 ついでにルイの恨めし気な視線に、ハルミは気付かない振りをした。


 こうして受け取ったメモ紙を覗きながら、そこに描かれた図柄とルイが生み落とした実物をまじまじと見比べる。意外に上手い説明図のお陰か、白い箱の中央に黒い小箱を差し込むのだとすぐに把握した。

 白い箱の真ん中、長細いえんじ色の蓋を開ける。そこに黒い小箱を差し込む。注意するのは小箱の向き。絵が描いてある方を手前に向けて。

 念入りに確認したのち、ハルミは力を込めて小箱を差し込んだ。

 そして最後は、左手前のスイッチを前に切り替えて完了のようだ。


「ほら、ルイちゃん。 最後はお願いね」


「・・・うう。 ・・・・・・か、か、・・・かちょーおーーん」


「必ず叫ぶように」と注釈が付け加えられていた発動呪文らしき謎の言葉。

 仕方ないので、ルイは恥ずかしさを我慢しながら目一杯の声で叫び、白い箱のスイッチをパチリと前へ切り替えた。

 こうしたあれこれを経てようやく。

 吟遊詩人と踊り子の複合スキルは100名の参加者にその加護をもたらしたのであった。


「おおおお! 凄え! 力が漲ってくる」

「これが巫女姫の加護か! こりゃ本当に無傷で乗り切れそうだ」


 突然の身体の変化に多くの参加者たちがどよめく。

 彼らには現在、「ファイアーエムブレス」に登場する戦士たちの能力が備わったのだ。多くは戦士や騎士としての戦闘能力であったが、中には強力な魔法攻撃や、竜変化の秘術を身に付けた者までいた。しかし残念ながらというか、当たり前と言うか。参加者の中には魔導書を持ち込んでいた者も、また竜変化の存在をしっている者も皆無であったため、今回それらが威力を見せることはないのだが。


 身体が強化された参加者たちが、用意された中から思い思いの防具を身に付けて準備をする。ちなみに武器は全員ひのきの棒か竹竿である。

 正月早々、必要以上の殺生は避けたいという縁起担ぎの意向。そして祭りの後に参加者や観衆に広く振る舞われるトン汁には調理時間の関係上、別のイノシシ肉を用意するようになったので、祭り本番で使うイノシシは殺さず、気絶させて係員が運び出す流れになった。よって武器はこれで十分なのだ。


 こうして始まった参加者100名とスイミーボア150頭の戦い。制限時間は30分。

 始まってしばらくは身体強化の恩恵を活かし、全員が無傷で残っていたのだが、5分程経過したところで、ついに1人目の負傷者が出てしまった。

 傷を負ったのは冒険者の男性。身体が熟練兵のように動くことに気持ちが大きくなって油断したらしい。背後からのボアの突進を喰らい、その牙で足にザックリと傷を負ってしまった。


「・・・・あっ!」


 思わず声を上げるルイ。自分の加護が及んだ人たちに負傷者が出たことで、その小さな胸が締め付けられる。歌の効果をその身に宿し、自ら危険と向かう時とは違った種の恐怖。見守ることしかできないのがもどかしいと感じた。


「・・・あのおじさん」


 怪我をしたのは、ルイが知っている男性。

 昼間からギルドハウスの酒場で酒を飲んでいる、柄も悪いが口も悪いやさぐれた冒険者だった。

 周りをねめつけては、なにかと軽薄なヤジを飛ばしてくるこの冒険者をルイは当初怖がっていた。

 しかし現在までに彼の軽口によって、ギルドカードを落としたことを2回、お気に入りの傘の置き忘れを3回も指摘されるという経緯を経て、ルイの中では「ガラの悪い良いおじさん」と認識されていた。

 その冒険者が傷を負ってしまったのだ。


「ハル姉!」


「解ってるわよ。 このボタンで間違いないわよね」


 焦りを含んだルイの声に、ハルミはメモ紙を確認しながら、目の前に置かれたファミコンのボタンを押す。

 これこそが、ギンガが歌ったあの歌の、最大の目的。

 ルイが生み出したこの機械の、真骨頂。


 自身の歌の効果は反映されないギンガ。

 今回は歌の効果の増幅器に徹しているルイ。

 そしてファミコンを直接操作するハルミ。


 この3人の記憶をのぞき、世界がリセットされた。




 ルイがファミコンの電源を入れた、あの時点からの再開である。

 こうして再び始まった参加者100名とスイミーボア150頭の戦い。

 制限時間は巻き戻って最初からの30分。

 やはりしばらくは身体強化の恩恵を活かし、全員が無傷で残っていたのだが、5分程経過したところで、またしても1人目の負傷者が出てしまった。

 傷を負ったのは当然、「ガラの悪い良いおじさん」。 またしてもボアの牙で足に傷を負ってしまった。しかし前回の記憶でも残っているのか、喰らう直前に気配を察し体を躱したおかげで傷は1回目よりも幾らか浅いようだ。


「・・・・あっ!」


 またしても思わず声を上げるルイ。

 自分の加護が及んだ人たちにまた負傷者が出たことで、その小さな胸が再度締め付けられる。


「ちょっとギンガ! これってやり直してもあんまり変わんないじゃないのよ!」


「だからお前がそこに居るんだろう」


 リセットされたとはいえ、大して結果が変わらないことに不安を覚えて苦言を口にするハルミ。

 対するギンガは、メモ紙をよく読めと答えた。ルイの代わりにハルミが操作しろ、と。


「ええと、これね? ああそうか! ”テツジン”のリモコンみたいなものね!」


「・・・ひっ」


 メモ紙の説明に沿って、ハルミがファミコン本体から取り外したのはコントローラー。

 ファミコン本体と黒いコードでつながるそれは、いつぞや魔物の群れを蹴散らした轟鉄人のリモコンと同じ概念のものであると、「機械操作」スキルが彼女に告げる。なるほどこれで負傷するはずの参加者を操作しろと言うことか。

 一方”テツジン”の言葉にビクリと身を震わせたのはルイ。

 どうやら血みどろの経験は未だにトラウマになっているようだ。


 こうしてまたもリセットが押され、3度目が開始された。

 そして5分後。運命の瞬間。3度目の正直。

 今回も同じく、気を抜いている冒険者の背後からボアが迫る。

 コントローラーを握るハルミが珍しく真剣な表情を見せた。


「カーソルを合わせて・・・、回避!」


「・・・やった」


 冒険者にボアが突撃する直前、ハルミがコントローラーのボタンを押す。

 どうやらコントローラーを握るものにのみ、カーソルやらコマンドやらが見えるようだ。

 ハルミの操作によって冒険者が見事な飛び込み前転を繰り出し、今まで2回も喰らったはずのボアの攻撃を避けて見せた。

 その結果にルイも思わず安堵のため息を漏らす。

 本職が研究の徒であるハルミは、一度コツを掴むと上達は目覚ましい。その後もお得意の「気配察知」によって、危ないと踏んだ参加者を操作し、連続して回避させることに成功し続ける。


「ナイス回避。 やり方はわかったな?」


「任せなさいよ! ていうかこれ面白いわね。 はまっちゃいそう」


 誰一人傷一つ負わないという無理ゲー的な困難。

 その突破口がうっすらと見えたことを喜ぶギンガと、まさしく新たなおもちゃを手に入れたことにはしゃぐハルミ。

 しかしそうそう上手くはいかない。


「・・・ハル姉!」


 ルイの切羽詰まった声で、ハルミが会場に視線を戻す。

 どうやらルイが指さしているのは、会場の端でうずくまっている老人らしい。

 隣には心配そうに寄り添う老婦人もいるのだが、不思議なことに老人を攻撃したと思われるスイミーボアが見当たらない。

 やがてやって来た警備の兵士の報告によると、詳細はこうだ。

 会場の端で身を固め、30分を絶え凌ぐ作戦に出た老夫婦。しかし老人が重装歩兵用の大きなカイトシールドを地面に突き立てようとして自らの足の小指を巻き込んだというのである。周囲を兵士に守られながら夫人が靴を脱がしたところ、指の骨は無事だったが皮膚が裂け血がにじみ出ているらしい。


「ちょっと、そんなのありなの? 自滅はノーカンでいいんじゃない?」


「・・・・ダメ」


 察知しようの無い参加者の負傷に対し、巫女の加護の範囲外だと訴えるハルミだが、ルイは譲らない。

 やはりあの老夫婦もルイの顔見知り。ギンガとルイが教会前で歌い踊るとき、必ず夫婦で見に来てくれる常連客だった。

 常にムスッとしている老人は隠居した細工職人。今日のハレの日にと、老人から送られた牡丹の花の髪飾りは今もルイの黒髪を彩っている。逆にいつもニコニコしている老婦人はお菓子作りが趣味らしく、いつもおひねりとともにクッキーや飴をくれるのだ。

 その2人が今まさに傷付き、悲しんでいる。

 どうしてルイに見逃せようか。


「・・・ハル姉。 ・・・ボタン」


「ちょっと待って。 今までの出来事をメモるから」


 ルイの決意は固いと察したハルミが、慌ててメモを取ろうとする。

 開始から今までの10分間の出来事を書いておけば、次回以降に絶対に役立つからだ。逆にその攻略メモが無ければ、とんでもない苦行になることだろう。


 記録を残すことは錬金術師たるハルミにはお手のもの。

 詳細なそれを残し終えたハルミはようやくリセットを押し、世界が元へと戻る。

 もちろん彼女が丁寧に記録を残したメモ紙も、ただの白紙へと戻った。



 総勢100人での死に覚えゲーム。

 壮絶な、実に壮絶な。

 人気バラエティ番組以上の苦行の幕開けであった。

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