表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

明星(るしふぁー)くん

 王都の夕闇の中を3つの影が進む。


 言わずもがな、王城の通用門へ向かう、ギンガたちパーティである。

 城下町を歩くため皮鎧とショートソードは持たず普段着のギンガと、いつも通りエプロンドレスのハルミ。巫女装束は目につくため、万が一巡回の衛兵に見咎められることを懸念し、ルイだけは上から濃い緑色の外套を羽織っている。ハルミの持つ気配察知のスキルで周囲を警戒しながらも3人は歩いた。


 その道中でギンガは昨日の話を頭の中で反芻する。

 眼鏡が「元の世界に帰る方法がある」と言った、ハルミ宅の居間での話だ。




 眼鏡はその後、機械操作のスキルを買われ王宮付きの機械技師となった。そしてその仕事を通してある装置の存在を知ったという。それこそが「異世界召喚装置」なるもの。


 それまでの異世界召喚術スキルには、極めて高い難易度の制約があった。超一流の召喚術師を以てしても50年に1度、異世界人1人を呼べればいいほどの膨大な魔力量消費。蓄魔力用の宝玉に50年魔力を溜め込んで、ようやく使用可能となるのである。そしてその使用条件の厳し過ぎるスキルが最後に使用されたのが今から30年前。呼び出されたのはエンジニアを名乗る30代半ばの男性であった。


 その聡明で確かな腕を持つ男性は異世界召喚スキルに強い興味を示し、召喚術師たちの協力のもとスキルの解析に取り掛かる。そして15年の歳月を経てその装置を完成させた。必要となる膨大な魔力を召喚元の異世界から人とともに補充するその装置は、最短で年1回、それも複数の異世界人召喚を可能とする画期的なものあった。


「要は、俺もお前もその機械にまとめて連れてこられただけなんだよ。 1年に1回の恒例行事だ」


「・・・そうだったのか」


 ギンガの胸中に「自分を呼び出したのは誰か」という疑問が無かったわけではない。

 恐らくはあのいけすかない神官長なる男だろうと当たりは付けていた。またこの世界に広まりすぎている元の世界の知識や技術、そして放逐された自分の扱いから、決して己は稀少な存在ではないという自覚もあった。しかし、まさか機械によって自動的に、しかも投網一発・ひと山幾らで呼び出されたという屈辱の事実は、なおも彼にとって追い打ちとなった。


「頭に来る話だ」


「・・・その機械を作った男性は?」


 元の世界に帰れるという眼鏡の話。ひょっとするとそのエンジニアや、召喚術師の力を借りるのではないか。そう思い当ったギンガが尋ねるのだが、返ってきた答えは違っていた。


「装置の完成後、長年の無理がたたってすぐ死んだ。 いわゆる過労死だな。 50代に良くある話だ」


「じゃあ召喚術師たちは?」


「その装置に職を奪われて失権。 色々恨みも買ってたらしく王都も追われたようだ。 バカみたいな話だろ」


 眼鏡が大げさに肩をすくめて見せる。

 結局現在は漁夫の利を得るかたちで、神官たちがその装置を運営しているのだという。

 ギンガはようやく、召喚されたときに感じた違和感。あの神官たちがやけに手慣れていていることに納得がいった。


「ところがだ、その装置をよく理解していない神官どもが10年以上フル稼働させたことで問題が起きた」


「どういうことだ?」


「お前、こういうのを見たことないか?」


 そう言って眼鏡は内ポケットから折りたたまれた紙を取り出す。コピー用にのような紙に書かれたその絵は黒い結晶のような・・・。


「あっ! これ、この間の地下墓地の!!」


 隣で聞いていたハルミが卓に身を乗り出して声を上げる。

 眼鏡のことはなんとなく胡散臭そうに思うが、異世界召喚と言うレアスキルに関わる話だ。何一つ聞き逃しはしていなかった。


「あ、ご存知ですか」


 突然のハルミの発言と、ずいと近付けられた金髪碧眼の容貌に狼狽える眼鏡。


「知ってるも何も。 私たち、この黒いののせいでえらい目にあったんだから」


 自身がそれを引き起こしたことを棚に上げ、ハルミが口を尖らす。折角の容貌が台無しである。


「あ、これは魔力の結晶というやつです。 はい」


 再び眼鏡のしどろもどろな対応。

 今までの回りくどい説明との差に、緊迫気味だった空気が少し白ける。


「同年代の女と喋ったことないのかよ。 兄弟とかクラスメートとか」


「ほっとけ。 1人っ子で男子校だ」


 焦ってずれた眼鏡を掛けなおす。


「理科の授業で、砂糖の飽和水溶液の実験をやったことあるだろう」


 再び回りくどくなった話を要約するとこうだ。

 異世界召喚装置は人とともに膨大な魔力をこの世界に呼び込むのだが、そのとき使い切らなかった余剰魔力はこの世界に放出される。しばらく放っておけば少しずつ馴染んでいくのだが、その原理をよく理解していなかった神官たちは、収束期間をろくに取らずに1年に1回のペースで召喚装置を動かし続けた。その結果この世界に漂う魔力量は増加し続け、そして前回、つまりギンガたちが呼ばれた際に飽和状態となったのだ。


「召喚の1週間後、召喚棟の近くに生成された結晶は極めて巨大な力を持っていたらしい。 伝説の魔竜ラミアスを呼び起こすぐらいにな」


「魔竜・・・・、1週間後って」


「お前たちが倒したんだろう? ガルビオンとか言ったか」


 果たしてどこまで知っているのか。背中に冷や汗をかくギンガを僅かにニヤつかせた細目で見つつ、眼鏡はさらに続ける。


「その後もこの王都を中心に魔力結晶は法則性も無く生み出されているようだ。一番最近のが2日前の地下墳墓というわけだ。 つまりだ」


 ここで一旦出されたままぬるくなったお茶を飲み、眼鏡が結論に入る。


「この異世界は魔力で破裂寸前、逆に俺たちの居た世界は魔力が薄くなっている。 元の世界に魔力の概念があればだがな。 ここで2つの世界をつなげるトンネルを開ければどうなるか?」


「こっちの魔力が、向こうの世界に流れ込む。 その流れに乗って帰るってわけね!」


 とっさにハルミが答える。眼鏡の長ったらしい話にイライラしていたところ、ようやく見えた結論だ。否応なく飛びつき、一気に結論までを言ってのけた。


「あ、その通りです。 はい」


 長回しの台詞の連続に酔い気味だった眼鏡が、水をかぶせられたように素に戻る。

 オタクはオタク同士、ガリ勉はガリ勉同士と、学校などでは基本似た者同士が集まる。そういった環境では他人に長々と何かを解説する機会は意外と無いものである。きっとこの手の解説シーンにあこがれていたのだろう。そう思うと眼鏡が少し気の毒にも思えてくるが、ギンガもいい加減回りくどいのは飽きてきたので、ハルミの尻馬に乗っかることにした。


「で、そのトンネルを俺たちに開けろという訳か。 そううまくいくか?」


「なんだ、出来ないのか? アニソンで奇跡を起こせるんだろう?」


 折角の解説シーンの終息に憮然としながらも眼鏡が問う。


「自在にコントロール出来るわけじゃないんだ。 出来てりゃあこんな苦労はしてないよ」


 そう言ってギンガはため息をつく。ハルミも同様だ。随分前から話についてこれていないルイも、一応空気を読んでため息をつくふりをした。


「そういうものなのか。 冒険者として活躍してると聞いたからチート能力だと思ったんだが」


「何かおあつらえ向きのアニソンがあればいいんだけどな。 異世界へのトンネルか・・」


「明日、異世界召喚装置を見てくれ。 何かのヒントになるかもしれん」


 そう締めくくると、眼鏡はようやく帰っていった。

 その最後の最後だけ、ニヤけていなかったことがギンガの心にすこし引っかかっていた。





 ガチャン!


 重々しい鉄の扉が閉められた。

 約束の場所に待っていた眼鏡に導かれてやって来た王城の敷地内。あの日この異世界へ召喚された建物だ。


「神官どもが来るかもしれない。 先輩方、扉のかんぬきをお願いします」


 眼鏡の指示のもと、数名の男性が動く。

 眼鏡の説明によると、ギンガたちよりも先に召喚装置によって呼び出された先輩のうち、今回の帰還作戦に賛同した同志たちだそうだ。灯りに照らされた召喚棟内部を見渡すと10名以上の人間がこちらの様子をうかがっていた。


「おお、み、巫女さんだ・・・・。 ロリ巫女だ・・・。かわいい・・・」


「金髪碧眼のポニーテール! 絶対ツンデレだぞ、あれ。 罵られてえ」


「あんな冴えないブサ男がどうして美少女を2人も!?」


 外見だけ見てかわいいだのツンデレだのとよくもまあ言ってくれる。彼女たちの中身も裏側も知らないくせに。そうギンガは内心勝ち誇る。異世界に呼び出される前は、中身どころか裏側があるのかも怪しいアニメキャラの絵に夢中だったことも忘れて。


「それで? その異世界召喚装置ってのはどこだ?」


「ああ、ここで見ていてくれ。 カーテンを開けて来る」


 体育館ほどの広さの召喚棟の中央付近まで眼鏡とともに歩いて来たが、周囲にそれらしき機械が無い。疑問に思い口にしたギンガに対し、眼鏡はそう言い残すと正面の壇上へと駆けて行った。


「これが異世界召喚装置『イデヨン』だ」


 そういって眼鏡が開け放ったカーテン幕の向こうに見えたのは、赤い機械の塊だった。異世界には全く似つかわしくない各種メーターや目盛りがあちこちについている。そして中央に陣取った緑に輝くゲージ。光が一定のルートでその上を走る丸型ゲージが何よりも目を引いた。


 ギンガはそれに見覚えがあった。


 全身から冷や汗が噴き出る。

 そして遅まきながら後悔した。奇跡をも起こしかねない吟遊詩人と踊り巫女の複合スキル。だからこそ、その使用には注意を払ってきたはずだった。しかし元の世界への帰還と言うエサをぶら下げられ、こんな場所まで来てしまった。その複合スキルの使用を強要されかねないこんな場所に。


 もし、あのアニソンを歌わされてしまったら。

 恐怖と怒りを押し殺して、壇上の眼鏡に問う。


「お前、その機械が何かわかってるのか!?」


「もちろん知ってるさ。 転生巨神イデヨンは名作じゃないか。 あのラストなんか特にね」


 眼鏡はあの惨劇を、アニメ史に語り継がれるあの最終回を再現しようというのか。何のために。いや、理由なら想像がつく。その動機も理解が出来る。その狂気のみ理解できないギンガは慄くしかなかった。


「ねえギンガ! どういうこと? あの機械はやばいの!?」


 急変した空気。

 ハルミが周囲を警戒しつつ背中越しに問いかける。ルイをその間に挟むようにして。その声にギンガはつかの間の恐慌から我に返った。今は後悔も驚愕もしている場合じゃない。なんとか打開策を見つけないと。しかし今の状態では2人に満足な指示も出せない。


「変な気は起こすなよ? お前たちを囲んでいる先輩方は、強力なスキル持ちばかりだ」


 召喚棟内に響く眼鏡の勝ち誇った声。見渡すと、周辺の同志たちがジリジリと距離を詰め始めていた。ギンガたちをまんまと騙くらかせたことに気を良くしたのだろう。より饒舌になった眼鏡が続ける。


「特にそちらの先輩3人の召喚術は凄いぞ! 向かって左からドラゴン召喚! 魔獣召喚! 悪魔召喚だ!」


「「「おい、 なんでお前がバラすんだよ!」」」


 眼鏡が得意げに言い放った言葉。それに衝撃を受けたのは、ギンガでもスキルマニアのハルミでもなく、どうやら今しがた紹介された召喚スキル3人衆らしい。大物ぶったすまし顔から一転。3人同時に踵を返し、一斉に眼鏡に食ってかかる。


「馬鹿かお前、なんで先に言うかなあ。 死ぬか?」


「実演してからのスキル解説が基本の流れだろうが! ボケ!」


「俺は自分のスキルを敵に名乗る機会を5年も待ってたんだぞ!」


「あ、いや。 すんません。 つい」


 期せずして内輪もめを始める眼鏡と同志たち。

 このわずかなチャンスを逃してはならない。しかしどうするか。ギンガは必死に考える。

 あの重そうなかんぬきを取り除いて脱出するのは不可能だろう。ルイを強化して戦うのが常套手段だが、その場合ハルミはともかく無力で無防備な自分自身がネックとなる。相手はどんなスキルを持っているかわからない連中が10人以上。ギンガが拘束されてしまえばハルミはともかく、ルイは戦闘をやめるに違いない。

 何にしても多勢に無勢。味方の数が少なすぎるのだ。


「ハルミ、 お前は召喚術スキル使えないのか?」


「簡単に言わないでよ。 あれ一応レアスキルよ?」


 ハルミにそう言われて、ギンガはいつぞやの、異世界人がレアスキルを得易いという神官長の話を思い出す。あの3人衆が持っているのもドラゴン召喚に魔獣召喚に悪魔召喚だという。


「悪魔召喚・・・・か」


 小声でそうつぶやくと、ようやく思い当った作戦を頼むべき2人に伝えるのだった。




「まったく! 仕切り直しで行くからな。 お前はもう黙ってろ」


 そういって眼鏡の立つ壇上から鼻息荒く戻って来た召喚術3人衆にハルミが満面の笑みで歩み寄る。


「ねえあなたたち。 召喚スキル使えるって本当? あれってすっごいレアスキルでしょ?」


「あ、ああ。 フッ、俺の力を見せてやろうか?」


「わたしこう見えてもスキルに目が無いのよね。 一番凄いの呼んでよ。 竜と魔獣。 悪魔はそのあとでね」


「ククッ、仕方がないな」「やれやれ、欲張りなお嬢さんですね」「真打は最後か。女、わかっているな」


 相変わらずの開けっ広げな性格で3人衆に取り入るハルミ。3人もまんざらではなさそうだが、これはスケベ心が3分の1。失ったはずのスキルの見せ場に飛びつく顕示欲が3分の1。そして残り全部は、大した仕事もなく城内で飼い殺されていたための現場を知らないヌルさであった。開けっ広げだろうが親しげだろうがハルミは彼らの敵である。その自覚すら出来ていないのだ。


 ちなみに今回の言い出しっぺである眼鏡は、さすがに3人衆とは違い、ハルミを怪しいと感じた。しかし脳筋の先輩方から黙ってろと脅されたばかりだ。それに彼女がスキルマニアであることも調べがついている。それならスキルのためにパーティを裏切ることもあるだろう。そう自分に言い聞かせて黙っていることにした。


「サモン! グランドドラゴン!」

「狩りの時間だ、地獄の門番ケルベロスよ!」


 2人の召喚術スキルが発動し、地面に魔法陣が現れた。

 そこから木が生えるかのように3メートルほどの竜と、漆黒の毛並みを持つ3つ首の魔犬が姿を現す。しかしこの2頭も主人の教育のたまものか、特に周囲を威圧するでも警戒するでもなく得意満面にたたずむばかりだ。ひょっとしたらあいつらは主従そろって一度も戦闘をしたことが無いんじゃなかろうか。

 そう感じ取ったギンガの感は、ズバリ的中していた。


「カッコいい! ねえ、この竜と犬、あたま撫でていい?」


「ああ、 こいつは俺に似て賢いからな。 噛みつきはしない」


「へえ、そうなんだ。 おおーよしよし。 破っ!」


 撫でられるために無警戒で近付いてきた竜の頭。ハルミはその鼻先を左手で数回撫でつつ、おもむろに右手を弓引くように引き絞ると、目一杯の握力を込めた拳に全体重を乗せて全速力でぶん殴った。


 ガズッ!!


「グエエ!」と情けない呻きを上げて竜の巨体がひっくり返る。ハルミはその様子を見ることも無く、今度はケルベロスの頭の1つを引っ叩くと「伏せ!」と一括する。なんの抵抗もなく地面にひれ伏す地獄の門番。傍から見れば重力で叩きつぶしたようにも見える。彼女がごく最近手に入れたレアスキル「竜殺し」と「魔獣使い」はその効果を遺憾無く発揮しているようだ。


「ほら! あんたも大人しくしなさい!」


 ケルベロスを抑えたハルミは再び身体を翻し、未だひっくり返っている竜の首元を足蹴にする。どうやらこれはレアスキル「ドラゴンライダー」の範疇に含まれているらしい。竜はその巨体からは比べるべくもない人間の女性に踏みつけられ、跳ね除けられないでもがいている。


「最強でこんなもの? あんたらも動いたら、死ぬわよ?」


 ギラリと周囲をねめつける。まるでラノベのチート主人公のような無双ぶりだ。

 同志たちの中でも飛びぬけた戦力であったはずの竜と魔獣があしらわれ、計り知れないハルミの力に唖然とする帰還計画組一同。ギンガはその隙を見逃さない。平然と敵を手玉に取ったように見えるハルミだが、相当やせ我慢しているのが伝わってくる。一歩間違えれば敵に袋叩きにされかねない位置だ。

 そう言えばいつか彼女に説教されたことがあった。無双なんかがまかり通る薄っぺらい世界なんか御免だと。そんなハルミが危険顧みず無双キャラを演じて作ってくれた隙。

 その一分一秒の重みを感じながら、ギンガは小声で歌いだした。



 エレジアエンゴーマ エレジアエンゴーマ

 ダダ バルンガバルンガ 呪法を唱えよう

 エレジアエンゴーマ エレジアエンゴーマ

 ダダ バルンガバルンガ 僕らの明星くん



 準備をしていたルイが、歌に併せて小刻みに身体を揺らす。

 目立ってはいけないので、その足で軽くステップを踏みながら。全身を使って踊れないのがもどかしくもあり、青年と出会った当初を思い出して懐かしくもあり。そんな思いを振り切って歌と踊りに専念する。状況はよく解らないが、ここで頑張らなければいけないことだけは解ったから。



 エレジアエンゴーマ エレジアエンゴーマ

 ダダ バルンガバルンガ 涙よ風になれ

 エレジアエンゴーマ エレジアエンゴーマ

 夢こそ 夢であれと組まれた 呪いだぜ



 日本では子供の間に20年周期でやってくると言われる妖怪・悪魔ブーム。

 戦後、その第一号となって悪魔召喚と言うものを子供たちの間に広めブームとなったのが漫画『明星るしふぁーくん』であった。これはそのアニメ版主題歌である。


 親から付けられた珍名の影響で友達も出来ず、逃げるように悪魔の世界観にのめり込み、やがて本物の悪魔たちと契約を結んだ主人公の少年が、その力で悪に立ち向かうというダークヒーロー作品である。契約によって結ばれた個性豊かな12体の悪魔たちと、それを用途によって使い分ける活躍シーンが魅力であり、当時の子供たちに一大ブームを巻き起こした。


 ギンガにしてみれば、子供のころ地方ローカル局で再放送があったため、小学校での口コミで見るようになった作品だ。確か第3シリーズだったか。主人公明星るしふぁーくんが悪魔召喚時に操る、長ったらしい呪法と独特の手印を再現して見せることがクラス内でのステータスとなったため、こぞって練習した記憶があった。恐らく今も出来るような気がする。


 その歌に併せてルイが身体を揺らす。やがてスキルが発動し、巫女装束の上に羽織る外套に明星るしふぁーくんのトレードマークである唐草模様が刻まれたのを確認して、ギンガは合図を送った。

 ルイが両手を地面に付き、召喚の言葉を唱える。


「われは、もとめ、 うったえたり!」


 ヴォン!


 なんとかつっかえずに言い切ったその言葉に応え、ルイの周辺に6つの魔法陣が出現する。


「おい! 岡崎! 貴様何をしている!?」


 異変に気が付いた眼鏡が声を荒げるがもう遅い。


「お前たちが大好きな、召喚術ってやつだ」


 ギンガは得意満面の笑みを浮かべながらそう応えた。

 魔法陣から出てくるのは作中ならば契約を交わした悪魔たち。しかし悪魔に知り合いのいないギンガたちが使った場合、恐らく出てくるのは今までクエストの契約を交わした連中であろう。怪力を誇る鍛冶師のデンダ、忍レンジャーのライヤは十分な戦力になってくれる。ナイフ芸と火吹き芸を持つアライン、軽業師で鍛えられた身体のワッスも善戦してくれるに違いない。そして女性神官ラキアはその戦闘能力もさることながら、神官という立場で今回の事件を正しく証言してくれるだろう。

 はて、契約者一号のハルミはこの場にいる。

 すると残る一つの魔法陣は、誰が出て来るんだろうか?


 話は変わるが、ギンガたちが所属する冒険者ギルドでは、依頼者が依頼を頼む際、または冒険者が依頼を受ける際、冒険者ギルドを仲介させるように強く呼び掛けている。それは直接契約によって起こりうる双方の行き違いやいざこざを防ぐためでもあり、また不正な契約による違法行為を避けるためでもある。そのため依頼票には必ずギルド職員か受付嬢が印を押し、依頼者、受注者双方とギルドが契約を結ぶというかたちをとるのである。



「え? ちょっとなに? ここどこなの?」

「あらあら、もめ事ですか? 困りましたわね」

「なにこれ、召喚術? あたいになんか用?」

「・・・・・・」

「ひぃ~、せんぱい助けてぇ~」

「ガハハハハ! 少しは鍛えたか、詩人の兄ちゃん! 巫女の嬢ちゃんも久しぶりだなオイ!」


 かくして、冒険者ギルド王都本部が誇る看板受付嬢5人組、エーリカ嬢、ビビアン嬢、シーラ嬢、ディアナ嬢、イーグレット嬢。

 契約数によって給料に歩合が付くことから冒険者たちに契約魔とも恐れられる、通称「アルファベイターズ」が、どこかで見たような気がするガタイの良い中年男性アグレスとともに、魔法陣から姿を現すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ