表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

今日も明日もイビルマン

「テメエ、誰に断ってここで商売してんだよ」


 ここは城下町の外れにある教会前広場。

 残念ながらギンガはチンピラに絡まれていた。



 ルイの大猿変身騒ぎの翌朝。

 3人は冒険者ギルドに足を運び、クエスト達成の報告を入れた。

 続けてギルドカードを更新したのだが、ギンガのレベルは相変わらずのレベル1。スキル欄も初級冒険者と言う肩書も、一切変更が見られなかった。

 思い起こせば昨日のクエストでは、草抜きとルイをおぶって歩く以外に普段以上の運動をした記憶が無い。もしこれでレベルが上がるのなら楽なものである。世の中そう甘くはないと、すでに癖になりつつある嘆息を吐く。


 一方のルイはギルドカードを確認するや否や、そわそわとし始める。

 ギンガとハルミの様子を交互にうかがい、やがてギルドカードを眺めてニヤニヤと怪しい笑みを浮かべるハルミへと駆け寄っていった。


「・・・ハル姉、・・・ハル姉」


「どうしたのルイちゃん。 あら、レベル4になってるじゃない、凄いわね!!」


 ハルミは家主権限を最大限に濫用し、ルイからの呼ばれ方を「ハルミさん」から「ハル姉」へと進化させていた。そのハル姉の声がギンガの耳に入り、彼は愕然とする。


 いや、ルイのレベルアップがショックなのではない。

 昨日ルイは身体強化の状態で2時間ぶっ続けで踊り続けていたのだ。当然身体は鍛えられる。

 それになにより常人離れした身体を思う存分使い倒したという経験は、スキルの効果が切れた今でもイメージとして身についているはずだ。レベルが上がるのも納得できる。

 ギンガがショックを受けたのは、ルイがレベルアップを自分ではなくハルミに報告したこと。

 つまりあの幼い少女から、どうも気を使われているらしいことであった。

 情けない。

 さすがにこのままではいけない。


 ハルミが昨日採取した薬草でハイポーション作成に取り掛かるため、今日はこの後クエストに行く予定は無い。しかしこのあまりに情けない事態に、休んでいる場合ではなくなった。

 ルイと2人で受けることが出来そうなクエストを探そうと提案したのだが、般若のような形相のハルミに止められてしまった。


「私を置いてけぼりにする気!? レアスキルを取り逃したらどうするのよ!」


 などと意味不明なことを喚かれ、首を絞められそうになったので渋々クエスト受注を諦める。

 しかし何もしない訳にはいられない。せめて何か参考になればと、冒険者ギルドの相談カウンターにレベルアップについて相談を持ちかけ、吟遊詩人は歌う回数と聴かせる人数によって経験値が加算されるらしいことを教えてもらった。


 昼食後、ギンガは居ても立ってもおられず、以前野宿していた教会前広場へと繰り出した。馴染みの広場で、吟遊詩人らしく歌を歌うことにしたのだ。

 広場では子供たちが遊びまわり、ベンチには爺さん婆さんたちが呑気に会話を楽しんでいる。ここなら聴衆に困ることもないだろう。駆出し吟遊詩人が経験値を稼ぐにはおあつらえ向きだ。

 主な聴衆がお年寄りということで、レパートリーから選んだのは時代劇の主題歌だった。

 ちなみに昨日の大猿変化のことも考えると、不用意にルイに歌を聴かせるのはどうかという話になり、ルイはとても渋りながらも家でハルミの手伝いをすることとなった。それだけ大猿化は彼女にとってもショックだったようだ。



 人生 楽ありゃ 苦はいらないさ

 挫けりゃ 誰かに 背負わせる

 気楽に行きましょ ちゃっかりと

 自分の意思を 踏み締めて



 何曲か歌っていると、近くで井戸端会議に花を咲かせていた爺さん婆さんたちに興味を持たれた。

 特に時代劇『水戸御老公』の主題歌は受けが良かったらしく「聞いていると前向きになる」「なんかスカッとした」といった感想を貰えた。

 クッキーが入っていたらしいザルがいつの間にかギンガの前に置かれ、ぽつりぽつりとおひねりが投げ入れられる。

 実質、生まれて初めて自分で稼いだ金を目にしたギンガは、その奥がじんわり熱くなることを感じながらも精一杯歌い続けた。


 やがて夕方になり、広場の人通りもまばらになってきた。

 結構な額の収入を得たギンガもそろそろ引き上げようかとしたところ、男性2人組がやって来た。


「おうおう、兄ちゃんなにここで商売してんのよ」


「あ、いや」


「あ、ここが俺たちのシマっての知っててやったんかコラ」


 上背はあるがガリガリのイタチのような男と、チビで太ったずんぐりむっくりのドブネズミ男のコンビ。

 正直なところたまに巡回している衛兵や、ギルドで見かける冒険者とは比べようもないほど貧弱な身体だ。

 しかし悲しいかな、貧弱さではギンガも彼らに負けていない。

 さらに喧嘩ごとにも慣れていないため、精神面での貧弱さは劣っている始末である。

 ギンガは半ばパニックに陥りながらもこの場を乗り切る方法を考えた。


 ラノベの主人公ならどうするか。

 無双系の主人公なら脅して追っ払うか撃退する。

 知識系の主人公なら機転か口先でやり過ごす。

 それ以外なら力のある仲間が助けに来る。

 残念ながらギンガにはないものばかりである。

 いっそのこと、この金を渡して頭を下げれば。

 そう考え始めた矢先に野太い声がかけられた。


「おう、詩人の兄ちゃん。 引き上げる前に、もう一曲歌ってくんねえか」


 近くの芝生からのそりと起き上がったのは、随分とガタイの良い男性だった。

 歳は30代半ばぐらいだろうか。

 確かギンガが広場に来る前からずっとそこで寝ていたような気がする。

 その男性が巨体を揺らしながらノシノシと歩いてきて、ポケットから取り出した硬貨をザルの中に放り込んだ。そのゴツゴツした指につままれた硬貨は豆粒のように見えた。

 正直なところ衛兵や冒険者でもこれほどたくましい身体をしている者は滅多にいないのではないだろうか。

 チンピラ2人を含めた貧弱トリオが息を飲む。


「ん、なんだ、おまえらは。 兄ちゃんの仲間か?」


「あ、いや」


「じゃあ、引いてくれねえか? なあ」


 実にわざとらしい笑顔。それが威嚇であることは火を見るよりも明らかだ。

 獰猛に剥き出した犬歯がギラリと鈍く光る。

 自分よりも高い上背と、胴回りよりも太い太ももを目の当たりにしたイタチとドブネズミは、すごすごと退散していった。


「あ、ありがとうございます」


「おう、兄ちゃんももう少し鍛えたほうがいい。 ここは治安はいいが、ああいう連中もおる」


 男性が言うには、ここ王都は治安の徹底によってヤクザやマフィアのような暴力集団が存在しないらしい。

 その反面、不良上がりの連中の頭を押さえる上位組織が存在もいないため、ああいう粋がったチンピラがたまに出て来るというのである。

 なんにしろ自分の身を守れるくらいには鍛えておけと、説教になりそうなところでギンガは話をそらした。


「で、一曲歌いますよ。 どんな曲がいいですか?」


「おう、そうだった。・・・・・・戦いの歌ってのはあるか?」


「戦い・・・・ですか?」


「んん・・・・・、なんというか、まあ。俺には倒さなきゃならんやつがいるんだ」


 アグレスと名乗ったその男性は、手短にその来歴を語っていった。

 遥か遠い国の貴族であり軍の士官であった彼は、身分違いの女性と恋に落ちて国を捨てた。

 しかし裏切者として追われる身となった矢先、恋人は何者かによって殺害されてしまう。

 それ以来10年余り、国元の追っ手をかわしつつ恋人の殺害犯を探して放浪しているというのだ。

 その戦いの糧となるような歌を一曲歌ってほしいというのが、彼の依頼だった。


「それはいいですけど、俺のスキルって効果は薄いし一時的なもんですよ」


「わかってるよ。 気休めと、ゲン担ぎみたいなもんだ」


「それならいいですけど」


 一応の了解を取って、ギンガは歌い始めた。

 アグレスと言う男性の語った壮絶な半生。それを担うには吟遊詩人スキルはあまりにも弱すぎるのだ。ルイのようなレアスキル所持者ならともかく、普通の人間に対しては尚更である。

 ならばせめてと、先ほどの話に出てきたキーワードから、この曲しかないとあたりを付けたアニソンを選んだ。



 誰だ 誰だ あれは誰だ 悪魔の裏切者 イビルマン イビルマン

 国を捨て 地位を捨て 愛のために戦う男・・・・・・



 ずいぶんと昔のアニメ『イビルマン』。

 人間の愛に目覚めた悪魔が、仲間を裏切って人間のために戦う物語だ。その世界観とストーリーは未だ根強い人気を持つ名作中の名作である。

 そのアニメの主題歌であるこの歌は、イビルマンが如何に強いかを謳い上げた名曲。これもまた紛れも無い名曲なのだが。


 しかしギンガは、途中まで歌ったところで歌を止めた。

 しっくりこない。どうも違う。この歌ではない。

 歌いだしたものの、違和感を覚えたのである。

 人から求められて歌うのは、ルイの時以来2回目のこと。

 しかしどうしたことか、あの時のような手ごたえがどうも感じられない。

 どうにかしてアグレスの期待に応えたい気持ちが、彼の歌を押し留めた。


「なんだ、もう終わりか?」


「ひとつ聞いていいですか? 恋人の仇が見つからなかったどうします?」


「ん、そうだな。・・・・死ぬまで探すさ」


 アグレスの答えに、ギンガは自分の認識のずれを自覚する。

 「死んでも見つけ出す」ではなく「死ぬまで探す」と答えたのだ。

 そうか、この人は恋人の仇を討つのが目的じゃない。

 かたき討ちの旅を続けることで恋人とのつながりを保つのが目的なんだ。

 であれば、敵を倒すための力が必要なんじゃなく・・・。


「わかりました。歌いなおします」


 人生経験が豊富などとはとても言えない。

 人との交流が得意という訳でもない。

 そんなギンガの導き出した答えは、果たして正しかったのかどうかもわからない。

 それでもこの日初めて独りで働き、初めて金を稼いだ男の心に僅かに生まれた仕事に対する誇り。そして聴衆を満足させ、なお認められたいという承認欲求がそうさせたのだろう。

 確信をもって歌いだした2曲目の歌は、違和感を覚えさせるようなことはなかった。



 誰も知らない 知ったこっちゃない イビルマンの正体を

 俺は知らない 聞いたことも無い イビルマンの目的を

 悲しみのその果てに 安らぎがあるという

 その美しいものを見てみたいだけ

 今日も死ぬまでイビルマン 明日もおそらくイビルマン



 同じイビルマンでもこちらはエンディングテーマである。

 決して味方とは言えない人類、守るべき価値があるのかもわからない人類。

 その人類のためになおも戦うイビルマンの悲哀と決意を謳い上げた、これまた名曲であった。


「・・・おいおい、こりゃ凄いな」


 心を込めて歌い上げたギンガの耳に、驚嘆の声が届いた。

 目を向けると、アグレスは湧き出る力を確かめるように握りしめた両拳を眺めている。

 どうやら予想外の効果が出たらしく、浮かべる笑顔は先ほどよりもさらに獰猛だ。

 その予想外の喜びように手ごたえを感じつつ、改めて念を押す。


「だからその効果は一時的なものですよ?」


「じゃあ聞くが、その歌で傷を治した場合、効果が切れたら癒えた傷もまた元に戻るのか?」


 考えたことも無かった。そういや身体強化以外にも回復の歌があることを城の女性神官に聞いた気がする。そんな記憶を辿りながらギンガは答える。


「いや、元の形に戻す場合は、効果が切れてもそのままだと思います」


「だったらいいじゃねえか。こちとら万々歳よ」


 そういってガハハと笑うアグレス。

 どこか身体に損傷でもあったのだろうか。だとしてもあの歌で傷が癒えるのだろうか。とてもじゃないがそんな効果など望めないはずなのだが。

 そんな疑問を巡らせながらも彼の上機嫌に水を差すのも怖いので、ギンガはそれ以上聞かなかった。


「さて、これだけ効果があったんだ。 なんか礼がしたいところだが・・・、誰か隠れてるな」


「え?」


 アグレスの言葉に周囲を見渡すが、夕暮れの広場には誰もいないように見える。

 不意に草むらがガサリと音を鳴らし、中からおずおずと出てきたのは、見慣れた巫女装束であった。


 家での手伝いを言い渡されたルイだったが、広場で知らない歌が歌われているかと思うと堪らない。

 夕方に差し掛かった頃ついに我慢が出来なくなり、迎えに行くといって家を飛び出すと走って広場にやってきた。そこでギンガを発見すると、怒られないように草むらに潜んで歌を聞いていたのだった。

 スキルの不用意な発動が問題視されていることに、彼女なりに気を使ったのだろう。

 その細い身体を抱きしめてスキル発動を必死に抑える姿は、尿意を我慢する子供のようにも見えた。


「ああ、あの娘は俺の仲間なんです」


「そいつのことじゃない。 おい、いい加減に出てきたらどうだ!」


 アグレスの怒鳴り声が響き渡り、やがて周囲の木や建物の影からぞろぞろと人が出てきた。

 その数は10人ほど。よく見るとさっきのイタチとドブネズミの姿も見える。


「お前ら、さっきはよくもコケにしてくれたじゃねえか! 落とし前は付けさせてもらうぞ!」


 イタチがどこかでよく聞くような口上を述べるが、ギンガにはそれを気にしている余裕が無い。

 イタチとドブネズミの2人ですら怖気づいていたのに、さらに人数が増えている。

 ルイを抱えて逃げたのでは追いつかれるだろう。

 いっそルイだけ逃がすか、それとも急いで何か歌うか・・・・。


 そこまで考えて歌う必要が無いことに気が付いたのだが、それよりも先にアグレスが動いた。


「おう、兄ちゃん安心しろ。 歌の礼だ。 俺が助けてやる。 嬢ちゃんもそんなに脅えんな」


 ルイが、チンピラに脅えている震えていると勘違いしたのだろう。

 アグレスのゴツい手が勇気づけるように、黒髪の上にポンと置かれた。

 しかしそれが引き金になってしまった。


「あひゃ!?」


 驚きとともに我慢を切ってしまったルイの身体に、貯まりに貯まったスキルの効果が発動する。


 グググググ!! ビリビリバリ!!

 巫女装束を引き裂いて、その小さな身体は悪魔の姿へと変身を遂げる。

 ギンガはその変貌を目の当たりにしながら溜息をついた。


 ああ、なんと融通の利かないスキルなのだろうか。

 幼い少女が悪魔に変身するのである。

 普通ならコケティッシュな悪魔っ娘か、奇跡的な発育を遂げたナイスバディのサキュバスお姉さんに変身するのがお約束ではないのか。

 そんなことではラノベでは読者ウケしないぞと、つい現実と理想のギャップを嘆く。


 かくしてルイは、アグレスのごつい手を押し返しながら巨大化する。

 青緑に変色した肌。頭から突き出した2枚のトサカ。まるで血の涙のようなアイライン。

 悪魔の力を身に着けた正義のヒーローイビルマンは、その威容を周囲に晒すのだった。


「バ、バ、化け物だーーー!!」


 はじめから大男であるアグレスとは威容の種類が違う。

 小柄な少女が野獣のような眼光の大男に変貌するそれは、言うなれば怪奇。猛獣を恐れることと、怪奇を恐れることは別物の恐怖だ。

 アグレスと相対することを考え、ある程度腹を決めてきたはずのチンピラ共が慌てふためく。


 イタチが一目散に遁走し、取り巻きもそれに倣うように逃げ去っていった。

 イタチの名は伊達ではないな。

 いや、そのあだ名は勝手につけたものだったとギンガはどうでもいいことを考える。

 こうして一戦も交えることなく危機は回避された。

 後には唖然として棒立ちするルイと、目を丸くするも会期を楽しんでいるかのようなアグレスが残った。


「おいおい、こりゃ凄えなあ! これもさっきの歌の力か?」


「まあそんなところです」


 青緑色のイビルマン姿のルイをしげしげと眺めながら、楽しそうにアグレスが問いかける。

 イビルマンを知らない人間がこんな変身を見たら、普通もっと驚くだろうに。

 どんなに肝が据わってんだよと半ばあきれながら応えた。あまり詳しく教える必要もないだろう。


「なるほど、この力なら牙のヒビが治るのも納得だ」


 そういってアグレスは何度目かの獰猛な笑顔を作る。犬歯がギラリと鋭く輝いた。


「それはそうと、こいつは何で棒立ちしてるんだ?」


「お、おいルイ。 大丈夫か? 心配するな。破れた服は変身を解くと元に戻るから」


 見かねたギンガが慰めの言葉を探すのだが、どうも言葉の選択を間違えたらしい。

「化け物」という言葉に強くショックを受け放心していたルイは、その言葉で今の自分が逞しい胸板をさらけ出していることにようやく気付いた。

 男の身体とはいえ、パンツ一丁である。


「!!」


 声にならない悲鳴とともに、ルイの身体から稲妻が発せられた。

 イビルマンの必殺技「イビルビーム」だ。

 全方位に展開放出された熱光線は、周囲3メートルを薙ぎ払うように吹飛ばす。

 その爆発圏内で、なおも踏ん張りながら「おお、こりゃ凄い!」と笑い続けるアグレス。

 彼を尻目に吹飛ばされたギンガは、身体をもう少し鍛えようなどとと思う間もなく5メートル先の地面に突き刺さるのであった。



 翌日、ハルミが作ったハイポーションをギルドに卸しに来たついでに、ギンガはギルドカードの更新をかけてみた。

 多少なりの期待はしていたのだが、残念ながらレベルは1のままだった。

 しかし問題は、スキル欄に追加されていた「悪魔の力」という表記。金文字からレアスキルだとわかる。

 そしてそれが悪夢の始まりだった。


「ちょっとなによそのスキル! どうやって手に入れたのよ。 吐きなさい! 吐け!」


 それ未だに未知の部分が多い、過去に数回報告されただけのレアスキル。

 推測では上位の悪魔と契約を交わすことで、1回に限りその力を借り受けることが出来ると言われているものだ。

 そんなレアスキルをなぜ彼が身に付けるに至ったか。ハルミに首を絞め挙げられながら必死に考えるのだが、心当たりは一つしかなかった。


「つまり、ギンガが悪魔の歌を歌って、ルイちゃんが悪魔になっちゃった、と」


「それ以外に全く心当たりがない。 なあルイ」


「・・・・うん」


 そもそもなぜ悪魔の歌なんか歌ったのかと続いて聞かれたのだが、その理由がギンガにはどうにも思い出せなかった。草むらからその様子を見ていたルイも同様に首をかしげる。

 そんなわけで、徹夜明けのハルミのための休息日となっていたその日。

 図らずも「ギンガ強化特訓」と称された独唱大会がハルミの家で開催されたのであった。


 誰も知らない 知ったこっちゃない イビルマンの出身を

 グググググ!! ビリビリバリ!!

「はい、休まずもう一回歌う!」


 俺は知らない 聞いたことも無い イビルマンの生立ちを

 グググググ!! ビリビリバリ!!

「声が小さい! はいもう一回!」


 人間に愛がある それだけで誓った定め その愛おしいものを 放っとけないだけ

 グググググ!! ビリビリバリ!!

「何も伝わってこない! まだまだもう一回!」


 俺は死ぬまでイビルマン 明日も戦うイビルマン

 グググググ!! ビリビリバリ!!

「目の輝きが足りない! さらにもう一回!」



 ルイのプライバシー保護のために、タオルで目隠しをされたギンガが声の限り歌い続ける。

 それを鬼の形相で聴くハルミはスキル習得条件を試行錯誤し、途中からギンガと合唱するようになった。

 そして変身の度に巫女装束が破けるルイは、なにか吹っ切れたように舞い続ける。

 そんな地獄絵図の一日は、徹夜続きのハルミが気を失うまで続けられたのであった。


「恐ろしい一日だった。 本当の悪魔ってのは人の心の中にいるんだな」


 在り来たりで使い古されたギンガの感想に、ルイも力無く肯くとハルミの後を追うように眠りについた。この特訓では結局ハルミはスキルを得られなかったものの、ギンガはレベル2、ルイはレベル5へと成長することになる。


 なお、ルイはその後レベルアップの報告を先んじてハルミに報告することは無くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ