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マジ不思議!大冒険

 青く晴れ渡った空に、ぽっかりと白い雲が漂っている。

 腰を抜かしてから約2時間。

 休憩と昼寝を経て、ようやくルイが復調した。


「じゃあさっそく2曲目を歌いなさいよ」


「やっぱり歌うのか」


 ハルミはまだ諦めていないようだ。

 このまま話がなし崩し的に流れるんじゃないかと淡い期待を抱いていたギンガだったが、仕方なく2曲目を歌い始める。

 この2時間の休憩で考えを巡らせて思いついた、それなりに効果が強く、目に見えてわかりやすいとっておきのアニソンを。



 探し出せ DRAGONSOUL! この世のどこかにきっとある

 奪い取れ DRAGONSOUL! こいつは手ごわいスクランブル

 世界はでっかい宝地図 そうさ 飛び込め アドベンチャー



 これまた国民的人気アニメ『ドラゴンソウル』の主題歌である。

 7つ全てを集めるとどんな願いでもかなうという竜魂の玉を求めて世界中を駆け巡る大冒険活劇。

 リバイバルブーム直撃世代のギンガは当然ながら大好きなアニメだった。

 本当は続編の『ドラゴンソウルZ』も好きなのだが、この続編では主人公たちが惑星を壊しかねないほどの力に成長してる。

 万が一ハルミやルイにその力が宿ることを懸念しての選曲だった。


「・・・あ、・・・なにこれ。 ・・・すご・・・い」


 さっそく効果が表れたのは、歌に合わせて身体を揺らしていたルイだった。

 全身から湧き出る力に最初は戸惑っていたが、すぐに身体が思い通り以上に動くことに気付いたらしい。おっかなびっくり身体を動かして慣らすと、本当に嬉しそうに舞を踊り始めた。

 その舞は巫女装束にぴったりの雅溢れる動きのはずなのだが、身体のキレが良すぎて男性ダンスユニットのようになっている。


「あーーーー、なんとなく力が沸くのはわかるけど・・・微妙よねえ」


 一方、ハルミのほうはそれほど効果が出ていない。

 身体を動かしその場で跳ねてみるが、「今日は身体の調子がいいかな?」程度らしい。

 良く見積もってもステータス1割増しくらいにしか感じられなかった。

 やはりルイにだけ効果が出やすいのは、彼女のスキル「一族の踊り巫女」によるところが大きいようだ。スキルの不遇さに改めて肩を落としつつ、踊りがキレすぎてそろそろ残像を生み始めたルイに声をかけた。


「おーいルイ、 いったんやめてこっちおいで」


 声が聞こえたらしくルイは踊りをやめると、背後に多重の残像を置き去りながら地面を滑るようにギンガの元へとやって来た。某格闘ゲームで見たことがある動きだ。確か相手キャラクターを瞬殺する乱舞系必殺技の発動シーンだった。


「いいか、俺のやるように構えてみろ」


「・・・え?」


「こうやって掌を上下に向かい合わせる。それで囲ったすき間に気を溜めるんだ」


 息一つ切らしていないルイに、腹の前で両の掌を上下に向かい合わせるポーズを見せる。

 ルイはいまいち事情が分からないながらも、言われた通りに見様見真似で掌を向かい合わせる。

 するとそれが自然現象であるかのように、ボワッと音を立てて、彼女の手の内に光の塊が発生し始めた。


「ひゃ! ・・・なにこれ?」


「大丈夫だから。それを両手で前に押し出すように動かす。 人には向けるなよ。そうだ、あの岩に向けてみろ」


「う~~」


 驚くルイを落ち着かせ、今度は掌底を合わせて前に突き出す構えを見せる。

 ルイははお手玉を繰り返し、落としそうになった光弾をなんとか捕まえると、強い力がそこに集まっていることを感じつつも、なるようになれと両手を突き出した。


「ひゃっ!!!」


 ばぼん!


 かくして気の抜けるような裂帛の掛け声とともに、光弾は一条の光となって発射された。

 ドラゴンソウルの主人公が使う代表的な必殺技「はめはめ波」である。

 それは軽自動車ほどの岩を破砕し、土煙を巻き上げた。

 その光景にルイは目を丸くするのみだが、ギンガとしてはもくろみ通りにいった大きな満足感と、そして子供のころから出そうとして出せなかったこの技を、あっさり体現して見せた少女への少しばかりの羨ましさで入り混じった気持ちだった。


「なにいまの魔法!? ちょっとギンガ、私にも教えなさいよ!」


 高等技術である無詠唱魔法のように見えたそれは、ハルミの食指を刺激するには十分だ。

 しかたがないと、一応は本日のクエスト依頼主の指導につく。

 ルイとしては、こんな物騒な技は二度と使いたくはなかったので、内心ほっとしつつ再び踊り出すのだった。



 1時間後。


「ちょっと! この光の玉、どうやって飛ばすのよ?」


「さあ。俺に聞かれてもなあ」


 ハルミはようやく光弾を生み出せるまでになったが、今度はそれが光線のように飛んでいかない。両手で前に突き出すと、コロンと転がり落ちて地面にぶつかり消えるのだ。

 ぬか喜びに終わり恨みがましい目でコツを聞かれたが、ギンガにしても自分でやったことのない手前、アドバイスの使用が無い。

 

「自転で位置を安定させて・・・手で投げるしかないか・・・。」


 それでもあきらめきれない様子だ。どうやら錬金術師として試行錯誤モードにスイッチが入ってしまったらしい。

 両手では投げにくいため、光球を片手に乗せるその姿は、普段着のエプロンドレスも相まって、丁度トレイを運ぶウェイトレスに見えた。どうやら掌の光弾をゆっくり自転させつつ、その安定を図っているようだ。

 要は宴会芸でおなじみ「皿回し」の要領であるが、ハルミは「ピザ職人」のスキルを発動して応用した。

 ギンガはその様子を見守りつつ、時折ルイのほうへと目を向ける。

 そこには2人の巫女が息を揃えて舞っているのが見えた。

 残像というよりは分身の域に達し始めたようである。



 さらに1時間後。


「ああ~、駄目! 狙ったところに飛んでいかない!」


 ようやく光弾を自転させ、円盤状にして投げるところまでできるようになったハルミだが、目標である岩に当たらず試行錯誤を繰り返す。

 それでもたった2時間でそこまでできるようになったことにギンガは驚いた。これはスキルの効果ではなく彼女の努力のたまものであると。何がそうさせるのかはわからないが、相当の努力家であるようだ、というのが、彼女に抱いた初めての明確な印象であった。


「なあ、ルイにコツを聞いたらどうだ?」


「それもそうだけど今日はもう帰ろうかしら。 また今度歌ってよね」


 そういって彼女が見上げた空には、夕闇が掛かり始めていた。

 特訓を切り上げて視線を巡らす、ルイは少し離れた場所でいまだに踊り続けている。

 よっぽど踊るのが好きらしい。その分身はとうとう8人にまで増えていた。


「ルイちゃん、帰るよ~」


 そういってハルミが肩を叩いた最寄りのルイは分身の一体だったらしく、霞のように消えてしまった。


「わかってねえなハルミ。 こういうのは影があるのが本体なんだよ。 なあルイ」


 今度はギンガが一体のルイに近寄り肩を叩こうとしたのだが、やはりその手は空を切り、残り7人が一斉にかき消えてしまった。


 不意に背後からスタンと音がする。

 なにをどうやったらそんな踊りになるのか。

 どうやら本体は跳躍して頭上にいたらしい。

 ギンガの背後に着地したルイは「・・・わかった」と答えた。

 相変わらず息一つ乱していなかった。


「ルイちゃんも踊るの好きねえ。ほらもうお月さんが登る時間よ」


 そういってハルミが指さす先には、夕闇の空に白く映る満月が登っていた。

 それを眺めるルイの目が、少しずつ朱に染まり始めるのを、ギンガは見逃さなかった。


「さあ帰りましょ」


 そういって近づこうとするハルミの手を、ギンガがとっさに掴んで制する。

 彼の目に映っていたのはルイの下半身。

 映えるような緋袴の腰元スリットからニョロリと顔をのぞかせていたそれは、猿人類のような尻尾だった。



「ちょっとなにすんのよ!?」


「いいから黙ってろ。お、おい、ルイ!! 聞こえるか、ルイさん?」


 グググ・・・・

 それまでぼうっと突っ立って満月を眺めていたルイに急激な変化が生じる。

 その切りそろえた綺麗な黒髪は逆立ち乱れ、全身が急激に巨大化、もともとないに等しい筋肉が膨張し始める。剥き出した歯のうち犬歯が伸び、そして雪のように白い肌を真っ黒な毛が覆い隠しながらさらに巨大化を続けた。


 ズゴゴゴゴゴ・・・!!

 その全長は10メートルほどか。

 大地にそびえ立った巨大な類人猿は、そのサイズに合わせて伸長した巫女装束をはためかせながら「ガオ!」と咆哮を挙げた。


「くっそ、やっぱりか!!」


「うわーっ! なにあれ!? ルイちゃんどうしたの!?」


「満月を見て大猿になったんだよ!」


「どうしてそうなんのよ!?」


 ひとしきり雄たけびを終えた大猿は周囲を見渡し・・・足元の人間に気付いた。

 大猿からすれば虫けらのようなサイズの生物。なにひとつ脅威に値するものが無い。

 その毛むくじゃらの右腕をおもむろに持ち上げたかと思うと、2人目がけて羽蟻でも潰すかのように振り下ろしかけるが・・・。


 ここは城門から歩いて10分の野原。

 そこに突如出現した大猿は、当然ながら城壁に設けられた監視用の鐘楼からも確認された。

 それでなくとも一昨晩の飛竜騒動の後である。警戒を密にしていた監視兵は突然の大型モンスター出現に素早く警鐘を響かせ、また騎士団本部へと早馬が用意された。


 響き渡る警鐘が耳に入り、大猿は上げた拳を止める。

 その音源を求めて周囲を見渡すと、五月蠅く喚き立てる城壁へと注意を移した。幸いにも足元の2人には興味を失ったらしい。再び「ガオI」と吠えた大猿は、踵を返して城壁へとその大きな歩を踏み出すのだった。


「た、助かった・・・」


「ギンガ!  あれじゃルイちゃんが攻撃される! スキル止めて!」


 けたたましく鳴り響く警鐘に、一層の焦りを募らせながらハルミが叫ぶ。

 街より先にルイを心配したらしい。

 あの大猿は並の文明レベルの惑星なら単身で壊滅させるだけの力を秘めているので、ルイが負けることはないのだろうが、それはそれで大事である。


 慌ててスキルへの意識を断ち切ったギンガだが、ルイの変身は解ける様子を見せない。

 2時間という長時間の継続使用によって、少しずつルイの体内に蓄積されたスキルのエネルギーが予備バッテリーの役割を果たしていたのだ。

 実はスキルが切れてから5分程度でエネルギーを使い切り活動限界を向かえるのだが、そのことを知りようのないギンガも焦る。


「なんでだ!? スキルを止めたはずなのに・・・」


「どうすんのよ!?」


「そうだ、尻尾だ。尻尾を切ればルイに戻る!」


「あんな化け物の尻尾、どうやって切るのよ!? 」


 ドラゴンソウルの主人公は満月を見て大猿に変身するが、尻尾を切られると元に戻る。

 大猿変身が原作由来なら尻尾を切ってしまえばいいのだと気付いた。

 刃物と言えば城で貰ったショートソードが腰にぶら下がっている。しかし鉈代わりに草むらを払うのが精いっぱいの鈍ら剣で、あの筋肉の詰まっていそうな尻尾を切れるとも思えない。

 ギンガは必死になって記憶をたどる。

 原作ではどうだった?原作ではどうやって切った?

 ハサミは無い。鋭い日本刀も無い。なにか、なにか・・・・!?


「ハルミ! さっきのあれだ!」


「へ?」


 かくして、ハルミは再び光の円盤をその手に発生させる。

 前述のように、この時すでに「吟遊詩人」のスキルは切れてしまっている。

 焦る2人はそれに気付かないという大ポカをやらかしてしまったのだが、幸運なことに今回はことなきを得た。


「いっけえ!」


 ハルミの予備バッテリーを空にして生み出された光の円盤は、鋭く走って大猿の尻尾に命中、これを切断した。

「ピザ職人」のスキルが戦闘で役に立った大変稀有な例である。


 こうして尻尾を切られた大猿は見る見る小さくなり、もとの少女へと戻った。着ている巫女装束も元通りである。大猿の付けた足跡の中で気を失っていたルイに駆け寄ると、衛兵がやってくる前に急いでその場を後にする2人であった。



「しかしなんだ。お前、凄いな」


「いや、ギンガの歌のおかげでしょ。 相変わらず凄いわね」


 気絶したままのルイを背負い、わざわざ城壁南門を通って家に帰る道すがら、ハルミに告げるのだが、そう返されてしまった。どうやら『ドラゴンソウル』の歌で『ドラゴンソウルZ』の必殺技をやってのけたことへの彼なりの讃頌は、やはり伝わらなかったようだ。


 ちなみに切られた大猿の尻尾はルイのすぐそばに転がっていた。

 しばらくして消えてしまったが、そのあとには緋色に輝く綺麗な宝玉。鑑定スキルを使ったハルミ曰く「巫女の紅玉」という謎の高価格アイテムが転がっていた。


 ハルミの家で目が覚めたルイに、大猿に変身したことを説明しながら紅玉を見せた。

 やはりこれはルイの所有物になるのだろうかと、ハルミと相談した結果だ。

 すると紅玉に負けないくらい顔を赤らめたルイに涙目で睨まれた。

 どうも女の子にとって、身体から出てきたものを男性に見られるというのは恥ずかしいのだろう。

 ギンガから紅玉を奪い取ったルイは、ハルミからもらった小さな木箱にそれを入れてチェストの奥底にしまい込んでしまった。


 へその緒かよ。

 左頬のモミジ型に赤くなった腫れをさすりながら、ギンガはつぶやくのだった。



 翌朝、昨日のクエストの報告にギルドに向かったところ、城壁東門付近に謎の大猿モンスターが目撃されたことと、衛兵が調査しているために近づけないことを教えられた。

 やはり大猿を討伐したハルミのレベルだけが20にまで跳ね上がり、更新したギルドカードのスキル欄には「部位破壊」の金文字が躍っていたのだった。

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