第一話「恐怖! 怪人クモ男」 05
「お前はどこにいるんだ」
テレビカメラの死角を巧みに移動しながら、俺は准へ無線を繋いだ。
パーツ街へやってきた俺は准の姿を探したが、それらしき者を見付けることが出来ない。
確か「周辺の安全を確かめるっす」と言っていたな。雑居ビルが立ち並ぶパーツ街で、あいつを捜すのは面倒だ。どこかで手を振ってくれていると助かるのだが。
「あっ、へリっす。おーい、ちゃんと撮れてるっすか?」
執事のコスプレをした男が、向かいの店から出てきてテレビカメラに手を振り出した。
間違いない。金髪馬鹿野郎(准)だ。
俺は素早く准に跳び蹴りを浴びせ、そのまま奴の身体を雑居ビルの隙間に滑らせた。
「このバカ。なに当たり前のように手を振っているんだ。自分がブラック・デモンの一員だってこと忘れたのか?」
「あっ、東郷さん。痛いじゃないっすか。これ一張羅なんっすよ。破いたら弁償っすよ」
准が服に付いた埃を叩きながら俺を見る。黒の燕尾服にグレーのベストとリボンタイ。どこかのセバスチャンが着ていそうな執事服だ。
「知るか。破れればいいとさえ思う」
「ヒドイっすよ。プレゼントなんっすよ。セバスチャンっすよ」
「すよすよっとうるさい」
仔猫のように上目遣いをしてきたので、俺はヤツの頭をぺしゃりと叩いてやった。すると、両手で頭を抑え「……っすよ」と可愛く哀願してきたのでもう一度叩いた。
「立て! お前の本分を忘れたのか。一般市民の誘導が終わったら、司令部へ向かい、現場待機が残っているだろ」
俺は素早く重ね着していた割烹着を脱ぎ捨てると、全身黒タイツのコスチュームに早変わりした。
「グズグズしているところを鬼教官に見られたらどうする。連帯責任で俺までしごかれるだろ」
「うっ……わかったっすよ」
准は渋々と燕尾服のボタンを外した。彼も中に黒タイツを着込んでいたらしく、着替えはスムーズに進んだ。
「どうか盗まれませんように」と両手を合わせる。
「行くぞ」
俺はヘリが通り過ぎたのを見計らって外に飛び出した。
「ちょっと東郷さん。待って下さいっす」
もたつきながら駆け寄ってくる准は無視する。目指すは『ドンキ・ホーゲル秋葉原店』のはす向かいにある『ミスター・ドーナッテイルノ秋葉原店(通称ミスド)』の二階。
今回の作戦が一望できる一等地だ。
目の前の特設会場では、正義のヒーローVSブラック・デモンが戦っている。幹部や戦闘員に的確な指示を出すため眺めのよいその場を貸し切っているのだ。
俺は黒タイツを頭までスッポリ被り、全速力で現場に向かった。