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マクビディ・ビスケット  作者: 三池猫
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第二話「登場! 怪人カニ男」 04

「ご注文はお決まりですか?」

 俺はイケナインジャーがいるテーブル席に行くと、営業スマイルで伺った。

「あの、ハバネロ級フランクフルトを一本ください」

 イケ・レッドが壁に貼ってあるメニューを指さす。

「俺は、ハワイアンブルーを一つ」

 イケ・ブルーがドリンクをオーダーしてきた。

「うちはカレーライス」

 イケ・イエローも注文してくる。

 なんなんだこいつら。やけに自分のカラー色にこだわったメニューを頼んでくるな。

「ぼっ、ぼくは……その……」

 どうやら、イケ・グリーンは決めかねているみたいだ。どうせ緑色の何かだろう。しかし、うちのメニューに緑色のものなんてない! 草でも食ってろ。

「私は、ピンクグレープフル……ツ……」

 イケ・ピンクの語尾が濁った。なぜかこちらを一点に見つめ、微動だにしない。他の奴らもイケ・ピンクの異変に気がついたらしく「どうした?」と心配している。

「なっななななな、なんでもないの。気のせいだったの」

 慌てて頭を振るイケ・ピンクだが、あからさまに動揺の色を隠せていない。

 どうしたんだ? まっ、まさか! 俺がブラック・デモンの戦闘員だとバレたのか? いや、そんなわけない。冷静に考えろ。俺が戦闘員だという根拠なんてどこにもないんだ。

「どうかなさいましたか?」

 平静を装い、営業スマイルに磨きをかけて訊いてみた。しかし、イケ・ピンクは「なんでもないの」「店員さんが気にかけることじゃないの」と一点張りだ。

 んー、なんか気になるな。それにこのしゃべり方、どこかで聞いたことあるような? まあいい、早く品物を出して帰ってもらわなければならないのだ。気にしている場合ではない。

「わかりました。ご注文は以上ですね。少々お待ちください」

 俺は注文を聞き終えると、そそくさと厨房に向き直った。背後からイケ・グリーンが「あっ、ぼくの注文が……」と声がしたが無視する。


 カレーライスを紙皿に盛りつけ、作り置きしていたフランクフルトをトレーに乗せる。その他にも注文は次から次に増えていき、とてもじゃないが俺一人で回せるレベルじゃないぞ。そろそろ、貯蔵庫に行って食材を持ってこないと無くなってしまう勢いだ。

「ん?」

 なんだ? 誰かが俺を見ている。間違いない。常日頃、カメラの視線を意識する仕事なだけに、こういった感度は高いのだ。

 俺は、視線がどこから来ているのか辺りを見渡すと、テーブル席にすわるイケ・ピンクと目が合った。確実にこっちを見ている。

「………はっ!」

 彼女はこちらが視線に気がついたと知ると、慌てて明後日の方向に視線を向ける。

 なんなんだ? 他のイケナインジャーは和気藹々と話しているのに、彼女だけが借りてきた猫のようにオドオドしているな。

 そんなことを思いつつ、俺がグレープフルーツを搾っていると、准と雪が戻ってきた。

「東郷さん。班長を連れてきたっす」

 そんなこと言わなくても分かる。一人足らないだろう。

「おい、教官はどうした? 一緒じゃないのか」

「それが、教官は今夜の作戦にかり出されているらしく、連れてこられなかったっす」

「問題ないわ。教官がいなくても私たちで対応しましょう」

 雪が口元に付いたチョコレートを拭いながら言った。

「対応って言ったって、どうするんだよ。イケナインジャーがくるなんて想定の範囲外だぞ」

「なにを慌てているの? 今回の私たちの仕事は海の家なのよ。悪いことをしているわけじゃないんだから普通に対応すればいいのよ」

「言ってくれるな。もし、今回の作戦が奴らにバレていたらどうするんだよ」

「それはないわ。江島作戦が知られていても、今日決行されるとは知らないはずよ」

 たしかに雪の言葉には一理ある。味方をも(あざむ)くブラック・デモンの情報戦に、イケナインジャーが一枚上手とは思えない。もしそうなら俺たちの休日返上は不毛に帰してしまう。

「それもそうだな。変に用心深くなっていたみたいだ。とっとと奴らに食べ物を出して帰ってもらおう」

 俺は准に食材を取りに貯蔵庫へ行かせる。すぐ戻ってきた。

「東郷さん。もう、食材がないっすよ」

 なんだと! 厨房にはもう食材がないんだぞ。いつの間にか俺一人で食材をさばいてしまったらしい。

「あら、もう無くなっちゃったの? 結構、多めに発注しておいたんだけど。しょうがないわね。今から発注しても間に合わないし、オーダーストップにしましょう」

 今までドーナッツをパクついていた奴に指揮されるのはなんだか腹立たしいが、文句を言うとあとが怖いので黙っておこう。

「それじゃあ、自分はお客にオーダーストップと言ってくるっす」

 准がパタパタと厨房を出て行く。何はともあれ在庫を使い切ることが出来た。ってことは、粗利確定であって、すなわち俺のミニボーナスも確定である。

「とりあえず、今受けている注文は出し切るぞ」

「そうね。ここは任せたわ」

 そう言って、雪が出て行こうとしたので、俺は慌てて彼女の肩を掴む。まさか、最後まで俺一人に任せるんじゃないよな?

「ちょっと待て。どこに行くつもりだ」

「どこって、外の客を追い払うのよ」

 雪が出入り口を指さした。俺はそのまま視線を向けると、暑苦しい男どもがドンドン店内に入ってくるではないか。

「……まかせる」

 苦虫を噛みつぶす気持ちで雪を送り出すことにした。俺が行くより効果的だし、彼女が連れてきた奴らだ。そのほうが暴動も起こらないだろう。

 っていうか、暴動を起こしたいのはこっちのほうだ。俺一人で頑張って、ミニボーナスが二人と一緒だったら割が合わんぞ。

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