表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

前編

あくまでフィクションです。主人公達の思いは本職の方からすれば見当外れになってしまうかもしれませんがご容赦下さい(笑)

チャリンチャリン……

 店の扉を開くと、扉についていた古いベルが、申し訳程度に小さく鳴った。安いファミレスだから、こういう所にあまりお金をかけないのだろう。

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

「いえ、連れが先に来ているはずなんですけど……」

 駆け寄ってきた店員にこたえて、混雑している店内に、目を走らせる。

 見つける前に、名前を呼ばれた。

「理乃!」

 少し奥に入った席から、旧友四人が、私に向けて手を振っていた。私は、声をかけてくれた店員に会釈し、4人のいるテーブルへと近づいた。

「理乃、幹事のくせに遅い!」

「ごめんごめん。仕事長引いちゃってさ」

 てか、計画を立てたのは私だけど、同窓会やりたいって言い出したの、あんたたちでしょうが……という不満は、胸の中にしまっておく。

 一つ残った席に、ストンと腰を下ろし、四人の顔を見回した。

「なんか、五人全員で集まるの、すごく久しぶりだね」

 本当に久しぶり。個人個人で会うことはあったけど、五人そろうのは、中学の卒業式以来だ……数字にすれば、十年振りぐらい。

「ねー、本当に久しぶりだー」

「まぁ、そうだね」

 同意する明、茅と、無言のまま少し笑う弥生。そして、

「てか、会ってそうそう何をしみじみしてんのさ」

 と、ちゃかす真夜。はじける笑いに、昔の自分たちの姿が重なった。中学生の時もよくこうやって笑っていたっけ。大人になってみんな変わってしまったかと不安があったが、気安さは当時のままで、少し安堵した。

「……理乃―?」

 ……いけない、ぼーっとしてしまった。

「注文決めよう。何食べる?」

「んーと……そうだなぁ……」

 



「……茅、まだ?」

「うーん、ちょっと待って」

 十分経過……。ものの一分で、一番安いメニューに決める私も私だが、十分は悩みすぎだと思う。……でも、茅の悩み癖は今に始まったことではないし……仕方ないか。

 そうそうに催促をあきらめ、他の三人に話題を振ることにした。

「そういや、最近どう?みんな」

 久しぶり会うので、とりあえず近況報告大会を開くのもいいだろう。

「どうって言われても、私は特にわからないけど」

 真っ先に真夜が答える。

「役所勤めしてるんだっけ?」

 と尋ねると、真夜は軽く頷いた。

「そだよー。上司も先輩も同僚も、全く変化なし!異動が二年間ゼロって、ある意味すごいでしょ?」

「まぁ、すごいけど……。そっちの方がよくない?」

 私のところは逆に異動がやけに多い、と愚痴のように呟く明。

「会社で全体的に異動が多いと、自分が異動しなくても新しい人が来るから、覚えるのが大変だよ。名前と顔が一致しないんだよなぁ」

 明が頭を抱える。真夜も明も、役所勤めと一般OLと職種が違うが、ともに三年目。それぞれ、苦労もあるようだ。

 しばらく二人の苦労話(愚痴)を聞いてやっていると、茅の

「うん、決めたよー」

 という声がやっと聞こえた。……私が来てから、すでに三十分は経過している。

 ……相変わらず茅は決断が遅い。

「あ、じゃあこれ押していい?」

 ……こちらも相変わらず子供っぽいことで、明。目をキラッキラさせながら、店員を呼び出すベルを抱えているって、あんた年はいくつなのさ?そして、それを背後から奪おうとしている真夜もさ。周りの客の視線がそろそろ痛くなってきそうだからね、どっちでもいいから早くベルを押してくれないかな。

 ピンポーン

 ……結局、さっきから全然しゃべっていない弥生が、二人が発見しなかったベルを見つけだして、押したのだった。




「ご注文は?」

「えぇっと、これを三つと……」

 直前まであんなに騒いでいたくせに店員が来たとたんに、なんで黙り込む?

 私が全員分を代理して注文し終えると、再びしゃべりだす明と真夜。

「いやー、助かったよ、理乃」

「お母さん度が上がったよね~」

 誰が〝お母さん〟だ。

「ファミレスでの注文くらい、これからは自分でやりましょう」

「その注意の仕方がお母さんだ~」

「ホントホント」

 うるさいなぁ、私そこまでは老け込んでないと思うけど。

 騒ぐ二人を軽く睨み、私は茅に視線を移した。近況報告、次は茅の番だ。

「茅はどう?仕事」

 茅はまだ無名ながら、イラストレーターとして活動している。

「ぼちぼちかなー。ただ忙しい時と暇な時の差が激しいから、暇なときは短期のバイトしてる」

「ちなみに今は……?」

「暇に近いよ。だから、バイト探し中!」

 ……創作活動って大変。

 私は最後に、弥生に視線を向ける。

「弥生はもしかして……?」

「もしかしなくても、まだフリーターだよ」

 ケラケラ笑いながら答える弥生。

「よく暮らせるね」

「条件良さげなところしか、行かないからね」

 今度はVサインを出す弥生。

「……いい加減、正社員になりなよ」

「やだよ、休み少ないし面倒くさい」

 ……このご時世に、すごい発言したね、この子。

「なんで休み減るのが嫌なの?」

「家に引きこもっていたい……」

「……」

 軽度ではあるが、引きこもり願望者の弥生。……先が思いやられる。

 私はハァっとため息をついた。

 と、そこでお盆を持った店員が近づいてくるのが目に入った。お盆に乗せている物からして、たぶん私たちのテーブルに来ると思うが。

「お待たせしました。Aセット五人前です」

 やっぱりな。

 私は気持ちを切り替え、四人に声を掛けた。

「ほら、ごはん来たよ。テーブル片づけて」

 まったく、こんな短時間でよくここまで散らかしたね。


 全員お注文がテーブルにそろうと、明が飲み物のグラスを持ち上げた。

「ではでは……理乃の大学卒業を祝って……かんぱーい!」

「かんぱーい!」

「乾杯」

「乾杯―」

 って、ちょっと待った!

「私の大卒祝いなの、これ!?」

「そーだよ。あれ?言ってなかった?」

 言われてません。ついでに言えば、なんで祝われる私が幹事やるんですか。

 こんな内容の文句を怒涛の勢いで言ったが、

「まぁ、いいじゃん。ほら、理乃も乾杯して!」

 全く相手にされなかった……。

 あきらめて、ジュースの入ったグラスを少しだけ持ち上げる。そこにガシャンと酒の入ったグラスをぶつけてくる四人。

「理乃は相変わらずジュースか~」

 一気に呷って真夜が言う。

 私は少し微笑んだ。

「明日も仕事だからね」

「大変だねぇ、医者も。でも、留年も浪人もしないでなれたんだから、良かったじゃん」

 言われて、私はまた少しだけ笑った。

                      



ご意見・ご感想等下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ