第10話:【悪魔と別れの刻】
正直、契約の事なんてすっかり忘れていた。
いや、むしろそんな事はもうどうでも良くなっていたのかもしれない。
「ちょ、ちょっと待て。あの契約は無効で良いん…」
「ダメだ。約束は約束だからな。」
真央は俺の言葉を遮って、真剣な眼差しで俺を見据えた。
「…そうだ!キュバスを幸せにするんだろ!?なぁ、キュバス!」
俺は、同意を求めるようにキュバスに視線を送る。
「キュバスには、もう全部説明済みだ。」
キュバスは無表情のまま頷く。
「ええ、男同士の約束でしょ。私は約束も守れないような男に惚れたりしないわ。」
一気に逃げ道を塞がれた。
「…それに、こんな体験、お前に出会わなければきっと一生出来なかったしな( ̄∀ ̄)」
真央はニッと俺に微笑む。
それは、いつもの言い出したら聞かない、あの顔だった。
「…本当に…良いんだな?」
答えは解っている。
「ああ。それから、魔王はお前がやれよ。お前ならきっと良い世界にできる。」
俺は、静かに頷いて真央の胸に手をかざす。
「…キュバス、ジェダのサポートを頼んだぞ。」
キュバスは「はい。」と短く返事をして、ただジッと真央を見つめる。
「またな。」
真央の胸元から淡い光のようなものが溢れ出し、俺の掌で丸く形を作る。
真央は静かに瞼を閉じた。
「…ははっ。真央の奴、最期の最後までやってくれやがる。」
俺は、手の中で光る真央の魂魄を見つめる。
「こんな真っ白な魂、俺には受け取れねぇよ。」
それは、一点の曇りもない純粋な光の塊だった。
悪魔の俺にはまともに触ることも、取り込む事も出来ない。
「…キュバス。知ってたのか?」
キュバスがふっと微笑む。
「さあ?どうかしら。」
結局、最後まで俺は真央に振り回されただけのようだ。
「仕方無い、天に帰れ。…生まれ変わったらきっとまた会いに行くから。」
真央の魂魄は、淡い残像を残して空へと昇って行った。
「またな。」




