12
そういえば、とハーブル法王は口を開いた。
「レイダートと言いますと……、近々、エンリト所有の件で国王会議が開かれる事になっております。エリス女帝が各国へ収集をかけ、レイダートで行うようになっておりますが……。ナルシア様、あなたはどうなされますか?」
「国王会議?」
その言葉に、ナルシアは顔を曇らせた。
「えぇ。エンリトおよび光脈の所有を巡って。光の暴発によって、現在エンリトの所有権は宙に浮いている状態です。話し合いの名目は掲げておりますがエリス女帝は何が何でもエンリトを手に入れようとするでしょう。彼女は我々に争いの火種を投げかけたのですよ」
争いが始まる。それも、全世界を巻きこんで。じわりと、恐怖心が胸に広がる。エリスの欲望の激しさを肌に感じ、ナルシアは思わず胸元を押さえた。悪意、殺意、憎しみの渦に飲み込まれてしまいそうだ。
「しかし、エリス女帝が何と言おうとエンリトの正統後継者は、あなたです。ハンセンに政権を剥奪されたとしても、あなたに流れるアヴェルガの血は消えはしません。このまま、エンリトの地を放っておかれる訳にはいかないでしょう」
穏やかだが力強いハーブルの眼に、ナルシアは向き合う事ができなかった。
「ですが……、僕は……」
しおれるように俯くナルシアを、ハーブルは少しの間見つめていたが、静かに微笑むと言った。
「まだ時間はあります。今すぐ答えを出す必要はありません。焦らず、お考えになってみてください」
さて、とハーブルはテーブルから少し離れた。
「皆様方。長旅で疲れも出ておいででしょう。湯殿に浸かって寛がれてはいかがですか。先程、従者に命じ支度をさせておきましたので、そろそろ準備も整っておりましょう」
ハーブルの申し出に、ナルシアは後ろを振り返った。すると、ロックは首を振った。
「俺は、後でいい。それより少し、外の空気を吸いたいんだけど」
こもった空気にあてられたのか、ロックはそんな事を言った。
「それでしたら、中央階段をまっすぐに上がった先に、テラスがありますよ。従者に、ご案内させましょうか」
「いや、大丈夫です。道順は覚えていますから」
ロックは、ハーブルに軽く頭を下げると、背を向けて一人図書館から出ていった。
「お前達はどうする?」
ナルシアは残った二人を見た。パロディアスは、ぼんやりとした顔をして゛ラトニウスの書記″を眺めていたが、ナルシアの声に、はっと顔を上げた。
「私も、後からにします。もう少し、この書記を読ませていただかせても、よろしいでしょうか。何か、もっと手掛かりになる事が書いてあるかもしれませんし」
パロディアスがそう言うと、カルテロは大きく頷いた。
「よし、ならば私も手伝おう。どうぞ、我々の事は お気になさらず、ナルシア様だけお先に行ってらしてください」
「そうか……。じゃあ、そうさせてもらうよ」
カルテロ達の申し出に、ナルシアは内心ほっとしていた。少しの間、一人になって考えでみたかった。
「では、ナルシア様、参りましょうか。湯殿までお連れいたします」
ナルシアは椅子から立ち上がると、扉へ向かった。
渡り廊下へ出ると、先に出たロックの姿はすでに見えなくなっていた。日のあたる通路を、ナルシアはハーブルと並んで歩き始めた。
ハーブルのゆっくりとした歩幅に合わせながら、ナルシアは口を開いた。
「申し訳ありません。突然、押し掛けたうえに、もてなしまで施して頂けるなんて……」
恐縮して、ナルシアが頭を下げると、ハーブルは柔らかく目尻に皺を寄せた。
「いいのですよ。お気になさらないでください。ミドロルから、ナルシア様の無事を知らせる便りはいただいておりましたが、この眼でお元気そうなお姿を拝見し安心いたしました」
温かく穏やかなハーブルの言葉に、ナルシアは気になっていたことを、恐る恐る切り出した。




