10
「あなたに、力を与えます。人々を導き、精霊の邪悪な意思を封じなさい」
神は、アヴェルガを選んだ。
「セレン・ゼルプレスト……?」
初めて知るその名に、ナルシアは衝撃を感じた。それは皆同じだったのだろう。一様に戸惑っている。
歴史の奥底に、密やかに息づいていた女性。アヴェルガに゛光の剣″を与えた巫女。ナルシアに、新たな疑問が湧き上がる。何故、彼女は歴史から抹消されているのだろうか。だが、考えても、解る事ではない。
ナルシアは、続きに眼を通した。
アヴェルガは、共に戦う仲間を募り、 「 光の騎士団」を結成した。
そして、精霊達の争う場所へ向かおうとする我々に、セレンは言った。
大陸の東西南北の四方には、それぞれ精霊達の棲みかである゛聖域″がある。
そこは清浄であり、神の純粋なる力が最も残されている。そして、その四つの゛聖域″の交わる場所に、封印の地は開かれる。そこに、邪悪な意思がある、と。
長く苦しい旅路の果てに、我々が精霊の元にたどり着き精霊の力を封じると、
不思議な事に封印の地は光で溢れかえった。
ナルシアは思わず顔を上げた。
光が溢れかえる……、光の暴発と似ている。偶然か? いや、そうではないだろう。何故なら、精霊の力を封じる……、これも精霊の力が消えた事と酷似しているではないか。
溢れる光と、暴発した光。封印と消滅。不可解な共通点。だが……、今になってどうして、突然こんなにも同じような現象が起きたんだ?
「封印の地……。聖域の交わる場所にある、か。だが、この聖域じたいが、何処にあるんだろうな」
ロックは、ナルシアの手から書記を取ると、パラパラとめくった。
「父は、人間達が恐れ近寄らなかった場所だと言っていたけど……」
ナルシアがそう言うと、ロックは素早く動かす手を、あるページで止めた。
「本当だな。書いてある」
ロックは再びナルシアの手に本を落とした。
「それは、゛ルトの泉″の事じゃないでしょうか」
パロディアスが口を開いた。ナルシアが、振り向いて彼を見ると、その顔はどこか青ざめ、神妙な影を落としていた。
「ルトの泉?」
「えぇ。ロード・ガルナの南部にある美しい泉です。そこは、ミシュテリアという怪物が住むと昔から恐れられ、人々は近寄らなかった」
パロディアスの言葉に続くように、ハーブル法王は口を開いた。
「それならば、このアーク・レイにも似た伝承があります」
ナルシアは驚きと共に、ハーブルの顔を見た。
「あなた方も、もしかしたら此方へ来る途中で見られたかもしれませんが、アーク・レイには゛リシアの塔″と呼ばれるものがあります」
ナルシアの脳裏に、天上へと延びた塔が甦った。
「ですが、あの塔は人の手で造られた建造物では? あれは一体、何なのです」
「あの塔は、昔のアーク・レイの修行僧の造ったものです。゛塔を登りつめし者、その頂点には清浄な風が吹き、鳥の王ルドエンドが現れ、魂を天上へと運び去る。″そう信じられ、何人もの人間があの塔を登りました。精霊への恐れをのりこえる 。それは神の与えた試練なのだと、かつての修行僧は考えたのでしょう。ですけど……」
ハーブルは、眼を閉じた。
「現在では、その使用を禁じております」




