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天のカリカチュア  作者: 綾崎 伊志
 第7章 孤独
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 8

 ナルシアがそう言うと、ハーブル法王は、何故かクスリと口元に笑みを浮かべた。ナルシアが不思議そうに見ると、ハーブルは、ますます可笑しそうに眼元を緩ませた。


「いえ……、お気になさらずに。しかし、わざわざアーク・レイにまでお越しになられるとは、どうかなされたのですか? こんな辺鄙な所まで来るのは大変だったでしょう」


 ハーブルの言葉に、ナルシアは切り出した。


「その事なのですが……、ハーブル法王閣下にお願いしたい事情があって参りました。実は……、ラトニウスの書記を見せて頂きたいのです」


 すると、ハーブルは予想もしていなかった事なのか、驚愕したように眼を見開いた。


「ラトニウスの書記を、ですか?」


「えぇ。父に聞いた事があります。アーク・レイの聖堂図書館にラトニウスの残した書記があると。私は……、何故、光脈が暴発し、精霊が消滅してゆくのか知りたく思っています」


 その申し出に、ハーブルはためらうかのように口を閉ざした。


「どうか、お願いします」


 ナルシアは、頭を下げた。その姿に、ハーブルは静かに尋ねた。


「あれは、古代に書かれたものです。それでも、あの書物に手掛かりになるものがあると、そうお考えになられているのですか?」


「ラトニウスは、精霊と戦った光の騎士団の一人です。精霊と対峙した彼なら、我々の知らない゛何か″を知っている可能性がある。それに……、私は精霊の声を聞くことも出来ず、光脈について何も知りません。これしか、他に道はないのです」


「そうですか……。あれは、門外不出の文献として、聖堂図書館に保管してあるものです。ですか……、ナルシア様になら、よろしいでしょう」


 その言葉に、ナルシアはほっとして顔を上げた。


「どうぞ、こちらへ。聖堂図書館まで案内致しましょう」


 法王に促され、一行は部屋から出た。


 回廊は、薄暗い。ガラスがなく板戸の付けられた窓は開かれているが、そこからのぞく光は僅かなものだ。


 アンダルフィンの時代から使われているのだろうか、城は古代的な造りをしていた。


 城の二階にある通路をぬけると、ハーブルは小さな戸の前に立ち、それを開けた。


 大量の日差しが溢れ出してくる。どうやら、渡り廊下へ出る勝手口だったらしい。


「あれが、アーク・レイの所有する聖堂図書館です」


 橋のように掛けられた廊下の先にあったのは、図書館というより塔だった。一見して、本が貯蔵されているようには思えなかっ た。


「あれは、もともと見張り塔として使われていたのですが、先代の時代に図書館として改装されました。書物の保存には、日光は対敵ですから、窓がほとんど無いあの塔が使われる事になったのです」


「窓がない? それでは、中は真っ暗なのでしょうね」


 ナルシアがそう言うと、ハーブルはいたずら気に眼を輝かせた。


「それは、入ってみればわかりますよ」


 図書館の入り口は、頑丈な厚みのある鉄の扉で遮られている。


 ハーブルは懐から鍵を取り出すと、それを開けた。





 淡い、青の灯り。まるで海の中にでもいるような幻想的な色彩が、塔の内部を照らしていた。


「これは……、何の光なんですか?」


 太陽光でも炎のものでもない、不思議な輝き。


「アーク・レイには幻陽虫という、自ら発光する虫がいるのです。この図書館では、昔からランプの代わりに、その虫が使われているんです」


 さぁ、どうぞ、中へお入りください。その言葉に、ナルシアは足を進めた。


 ぐるりと円状になった部屋に、本がみっちりと詰まった棚が並べられている。床の中央には穴が空いており、そこから上下へと続く階段が取り付けられていた。

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