6
「そう言えば、僕は泳いだ事ないんだけど……」
大陸の中央に位置するエンリトには、河も海も無い。と、いう事は……。そろそろと、ナルシアは顔を上げた。
「俺も、ない」
「私もだ」
当然、ロックとカルテロから、そんな言葉が返ってくる。
「私は、海沿いの街に住んでいたことがありますから、多少は……」
パロディアスは、にっこりと笑いながら答える。
ロックは大袈裟なくらい、深くため息を吐いた。
「どぅお、するつもりだよ。筏が壊れたら。まさか、あんたら、そこまで考えてなかったんじゃないだろうな」
「お前だって、今、気付いたんだろうが。偉そうに言うんじゃない」
力強い流れに翻弄されながら、筏は進んでいく。荒れて舞い上がった飛沫に、全身がびしょ濡れになっていた。
「あっ、見てください、皆さん! サウゼンの街が見えてきましたよ」
パロディアスの嬉しそうな声に、ナルシアは顔を上げた。そして――、ぽっかりと口を開けた。
あれが……、サウゼンの、゛街″?
峡谷と峡谷の合間に、巨大な岩石が挟まっていた。河の行く手を遮るように、岩の前には桟橋が掛かり、その中央から頂上へ向かって大階段が伸びている。そして、その頂上には石の城がそびえ立っていた。
「もしかして、あの岩の上に街があるのか?」
ナルシアが驚いて尋ねると、パロディアスは事なげもなく頷いた。
「そうですよ。あの城は、ハーブル法王の居住するマグリー城です。あの一部に聖堂図書館は、あるはずですよ」
やっと着きましたね、とパロディアスは幾分ほっとしたように言った。するとカルテロはロックへ向かって口を開けた。
「どうだ、やっぱり、筏は壊れなかっただろう」
カルテロは、勝ち誇ったように笑う。その隣で、ロックはじぃっと前を見つめると言った。
「で、この流れの速さで、どうやって止まるつもりなんだ」
カルテロの高笑いが、ピタと止まった。このまま行けば、桟橋にぶつかり、下手をすれば吹っ飛ばされてしまうかもしれない……。怒りのあまり青ざめたロックは、わなわなと震えながらカルテロを振り返った。
「おっさん! いい加減にしろよ。あんたに任せた俺が馬鹿だったぜ。計画をたてるなら、ちゃんと最悪の事まで予測しとけよ」
「なんだと。言わせておけば。そこまで言うんなら、お前が計画すれば良かっただろうが」
カルテロが、ロックをはたこうとすると、筏は再びぐらついた。
「お二方。暴れると危ないですよ。まぁ、まぁ、ロック殿。ちゃんと、棹を作っておいたでしょう。それで、端まで寄せましょう」
四人は、それぞれ棹を持つと、荒い急流を力強く漕いだ。重い水圧が掛かり、思ったように進まない。筏はぐんぐんと桟橋へと吸い込まれてゆく。
「おい、大丈夫か? このままいくと、ぶつかるぞ!」
ロックが叫ぶと、パロディアスは困ったように眉を下げた。
「うーん、まずいかもしれないですね。どうしましょうか……」
すぐそこに、桟橋が来ていた。
「おい、あんたら、向こう岸に移れっ。早く」
岸まで、まだ距離がある。足を伸ばしても届きそうにない。ロックは、勢いよく荷物を岸へと放り投げると、叫んだ。
「跳べっ!」
飛躍した身体は、重力に引き付けられ、地面へとひきずりこまれる。腹に打ち付けられた圧迫と痛みを感じ、ナルシアは呻いた。
どん。衝撃音に、背を押される。
ナルシアは立ち上がると振り返った。




